第350話 キスのお時間

 決意を燃やすシュリが、キス待ちをしている3人にようやく気づき、じゃあ誰からにする? と問うと、絶対に1番を主張してくるかと思ったイルルはその予想を裏切って身を引いた。

 妾は最後で良いぞ、と。

 じゃあ、タマから? と眠たげな瞳の美人さんに目を向ければ、タマも首を横に振った。

 タマはポチの後でいい、そんな風に。


 どうやら、キス初心者な2人は経験者の様子を見ることにしたらしい、と悟ったシュリは、素直にポチに向き直る。

 前回、キスの良さを存分に堪能したポチは、待ちきれない様子でうずうずしていた。

 微笑ましいその様子にくすりと笑い、ポチを促して座らせると、その頬を優しく撫でる。


 小首を傾げて見つめると、その時を察したポチが真っ赤な顔をして目を閉じて。

 シュリは笑みを深め、ポチの頬に手を添えたまま、ゆっくりと顔を近づけた。



 「ふおおっ! シュリの顔がポチの顔に近づいていくのじゃ! いよいよっ! いよいよなのじゃな!!」


 「シュリ様の顔がえっちぃ。流石経験者。シュリ様のあの攻撃に耐え抜いているポチを、タマは尊敬する」



 ……外野が少々うるさいが、気にしたら負けだ。

 シュリはそう自分に言い聞かせ、ポチの柔らかな、だがまだ緊張の抜けない固さの残る唇に、己の唇をそっと押し当てた。



 「んっ」



 唇と唇の接触に、ポチがわずかな声をもらす。

 まだまだ初々しいその反応を堪能しながら、シュリは角度を変えつつ何度も唇を触れ合わせる。

 唇で唇を愛撫するように丁寧に。



 「ちゅっちゅしておるな」


 「ちゅっちゅ、してる」


 「もっとぶちゅっといかんのかの? ぶちゅっと」


 「確かに、まどろっこしい。いつも見かけるシュリ様のキスと違う」



 ……外野が、うるさい。

 だが気にしない。

 いつもと違う、とタマは言うが、イルルやタマが見かけるいつものキスは、シュリが飢えた相手を受け止める側。

 相手のしたいようにさせてあげているキスなのである。


 だが、今回のキスはシュリが与える側。

 シュリの周囲は基本的に肉食女子が多いため、こんな機会はきわめて少ない。

 こういう時くらい、好きなようにキスをさせてくれてもいいんじゃないかな、とシュリは思う。


 キスの好みは人それぞれ。

 それは理解しているし、みんなのキスにもの申すつもりは全くない。

 与えられるキスは十分気持ちいいし、いつだって満足してはいる。


 でも、シュリは最初からトップギアの、ガツガツしすぎのキスはあまり好みではなかった。

 いや、与えられるならありがたく受け取るが、自分からするなら、もっとムードを大切にしたい、というのがシュリの持論で。

 ただ唇を深くつなぎ合わせて舌を絡めるだけでなく、唇同士の触れあいや愛撫、指や手を使った頬や唇への愛撫も大切にしたい、とシュリ的にはそう思うのである。

 相手の経験が少ないならなおさら。



 (でも、まあ、そろそろ頃合いかな?)



 愛撫の意味も込めた軽めのキスで、ポチの緊張も大分ゆるんできた。

 柔らかさを増したポチの唇を己のそれで堪能しながら、シュリは緩く結ばれたままのポチの唇を舌先でちろりとなめた。

 閉じたままのドアをノックするように。


 ポチは、己の唇の上に感じた濡れた感触に思わず体をぴくんと震わせ。

 だが、察しよく、すぐに唇の結びをゆるめた。

 それを感じたシュリは、両方の手でポチの頬をそっと包むように支え、唇のつながりを深くする。



 「っんぅ……んっ」



 ポチの唇からわずかに漏れる、甘い声。

 それを楽しみながら、己の舌でポチを愛撫した。

 最初は緩やかに触れ、くすぐり、その形をなぞる。

 手のひらで触れた頬の熱が、どんどん増していくのを感じながら。



 「ふぬっ。ポチの顔が赤くなってきたのじゃ!!」


 「きっと、ようやくぶちゅっといった」



 ……相変わらず、外野はうるさい。

 でもまあ、ポチとのキスに集中している今、最初ほどは気にならない。

 むしろ、



 「っふぅ。ちゅ、んんっ……はぁ、ん。ひゅり、ひゃまぁ」



 脳を、男の本能的な何かを直接揺さぶってくるような、ポチのとろとろにとろけた甘い声に、なんだか腰の奥の方がうずうずして落ち着かない。

 でも、その声をもっと聞きたくて、シュリのキスが激しくなる。

 それを受けて、ポチもその背中をぷるっと震わせた。

 2人をつなぐ唇から漏れる水音と、ポチがもらす甘い鳴き声に、キス初心者の2人はごくりと唾を飲み込んだ。



 「お、大人、なのじゃ」


 「タマは、あれを耐え抜ける自信がない。ポチを尊敬する」



 ……外野はちょっぴり大人しくなった。

 ポチを存分に味わいながら、ちらりと横目で見てみれば、2人は真っ赤な顔で太股をもじもじさせている。

 恥ずかしそうにしながらも、目を離せない様子の2人は、なんともいえず微笑ましい。


 その感情が影響したせいか、それとも他の何かが要因なのか、再び腰の奥の方がむずっとする。

 それは何とも言えない感覚で、消化できないそれをぶつけるように、ポチとのキスは激しさを増した。

 キスの激しさが増すごとに、ポチの甘い声もせっぱ詰まった響きを増していく。



 「んぅっ!? ん、ん、ん……ん~~~!!」



 くぐもった甘い声を響かせ、ポチのしっぽがぴんと伸び。

 それがくたっと垂れると同時に、ポチの体からも力が抜けた。

 キスだけで、とも思うが、恐らく[口づけマスター]の影響だろうな、と思いつつ、くたりともたれ掛かってきたポチの体を支え、壁際に運んで倒れないように座らせておく。

 気を失っているポチの、幸せそうな顔を見つめ、その頬にちゅっと口づけをしてから、シュリは残りの2人の元へ戻った。



 「く、口づけだけで、じゃと!? お、恐ろしい男なのじゃ」


 「流石シュリ様。テクニシャン」



 2人の言葉に苦笑しつつ、



 「じゃあ、次はタマ、だったよね?」


 「ん」


 「大丈夫? 無理しないで、お菓子でもいいよ??」


 「大丈夫。タマは成獣。すっかり大人。ポチに出来たことが、タマに出来ないはずはない」


 「えっと、ご褒美はキスでいいってことだよね?」


 「どんとこい。タマはシュリ様の情熱を受けきってみせる!!」


 「いや、あのね? キスってそんなに気合いを入れてするものでもないような気がするんだけど……」


 「ん……」



 タマは、さっきポチがしていたように座り込んで、キスを求めるように唇を軽く突き出した。

 そんなタマの様子に、まあ、いいか、と軽く肩をすくめ、シュリは軽く挨拶するように、彼女の唇にちゅっとキスをした。



 「……シュリ様の唇、柔らかい」


 「タマのも、柔らかいよ?」


 「ん、そう?」


 「うん。でも緊張が取れればもっと柔らかくなると思う」


 「タマ、緊張してる?」



 そんなつもりはなかった、と首を傾げる様子が可愛かった。

 シュリは微笑み、タマのほっぺたを両手で挟んでやわやわと揉んだ。



 「キス、もう終わり?」



 不満そうにそう問われ、もっと欲しいと目で訴えられ。

 シュリはふはっと笑って、再びタマに顔を近づけた。



 「まだ、だよ。僕が満足するまで、終わらせてあげないからね?」



 いたずらっぽくそう告げれば、



 「のぞむ、ところ」



 艶っぽく、タマが笑う。

 いつもは眠たげな瞳が、淡い欲望をたたえてシュリを見つめていた。

 にぃっと笑い、再びタマの唇に己の唇を重ね合わせる。

 触れ合うキスをしばらく楽しもうと思っていたら、それにじれたようにタマの唇が強く押しつけられてきて。



 (ん~。ポチとのキスを見学して、もう準備万端、ってところかな)



 じゃあ、いいか、とシュリはキスを深くし、タマの唇の隙間から舌をねじ込んだ。



 (僕も、少し不完全燃焼だし、ね)



 ポチが途中で気絶してしまった為、くすぶったままだった何かをタマに向ける。

 タマのキスは、初心者にしては中々に巧みで。

 シュリは何となく安心してキスを楽しんでいた。

 すると、不意に何かが手に触れた。


 なんだろう、と内心首を傾げると、触れてきた何かはシュリの手を握り、持ち上げる。

 あ、タマの手か、と察した瞬間、シュリの手は柔らかな何かの上にあった。


 ふかふかでふわふわで、でも弾力もあって。

 覚えのある感触に、その正体の察しはついたが、一応確かめておこうかと、それの形を探るべく手を滑らせる。

 丸くて魅惑的な形のそれは、その先端と思われる場所に程良い大きさのぽっちりが1つ。


 これはやっぱりあれだな、と察したシュリは、ぽっちりを避けて手を配置する。

 口にするのも恥ずかしいマスター称号のせいで、気軽にぽっちりに触れるのは危険だ。

 高位の魔獣であるタマは魔力も豊富なので、母乳という名の白い液体に変換された魔力が吹き出すのも困るし。


 そんな訳で、そろそろと手を離そうと試みたのだが、そうするとタマの手が伸びてきてシュリの手を己の特大おっぱいに戻してしまう。

 キスの手をゆるめずにそれを数回繰り返し、ようやくシュリは察した。

 これは、あれだな、と。



 (おっぱいも触って欲しいってことかぁ)



 欲張りさんめぇ、と思いながらも、逃がしてもらえそうになかったので、敏感な部分を避けるように手を這わせる。

 だが、それでも気持ちはいいらしく、つながり会ったタマの唇から漏れる甘い声が激しさを増す。



 (ん、っと、あんまりやりすぎないように……)



 細心の注意を払いながら、タマの特大のおっぱいを揉む。

 そんな2人の様子を、熟れ熟れのトマトのような真っ赤な顔で見つめるイルルの存在をすっかり忘れたまま。



 「ふぬにゅうぅぅ~。大人じゃ。大人すぎるのじゃ。ただちゅーをするだけでなく、あの爆弾おっぱいでシュリを誘うなど、タマもえげつない攻撃をするのじゃ。あっちの姿ならともかく、この姿では太刀打ちできん作戦なのじゃ……」



 聞こえてきた外野の声に、シュリはようやくイルルの事を思い出し、



 (あ、そうだった。イルルもいたんだ。あんまり待たせるのも悪いし、ちょっと急がないとな)



 そんなことを思う。

 別にイかせなきゃキスを終われないなんてルールはないのだが、シュリとのキスに夢中になっている様子のタマは、まだまだシュリを解放してくれそうにない。



 (仕方ないな。もうちょっと本気出そうかな)



 タマの、初心者にしては上手な攻撃に身を任せ、ゆったりキスを楽しんでいたシュリは、キスとおっぱいへの攻勢を強めた。



 「んふぅ!? んっ、ぅん、ん、ん、ん……」



 途端にせっぱ詰まってくるタマの声。

 それをBGMに、シュリは質量感はんぱないタマのおっぱいを優しくもみしだく。

 とはいえ、まだ子供といって過言ではないシュリの手は小さい。

 が、それを見事にカバーする揉みの技量に、タマはあっという間に追いつめられていく。



 「んぁんっ! ん、ん、んうぅぅ~~~!!」



 シュリをぎゅっと抱きしめ、タマが甘い悲鳴を上げた瞬間、1本だけだったしっぽがぼふんと9本に増え。

 ぴんとなった9本のしっぽがくたりとし、タマもくたりとなった。

 その瞬間脳裏にきたいつものやつ。



・おっぱい揉みの技術が一定を越えた為、[胸揉みマスター]の称号を獲得しました!



 そのアナウンスに、タマの唇からようやく解放されたシュリは、濡れた唇で、またか、と小さくうめいた。



 (む、胸揉みマスターって……)



 もっと違うネーミングは無かったのか、と思う。

 しかし、アレよりはましだろう。

 そう自分に言い聞かせ、ステータス画面を開く。



[胸揉みマスター]

 乳首に頼らず胸揉みだけで女をイかせた強者の称号。

 胸揉みが上手くなり、胸揉みだけでも女性をめくるめく世界へお連れできる。

 性欲上昇(小)、精力上昇(小)、体力上昇(小)の付加効果あり。



 説明文を読んで思う。

 あのマスター称号を警戒し、素敵な先端部分を避けたのが仇になったのか、と。

 だが、まあ、手に入ってしまったものは仕方ない。

 仕方ないけれど……



 (これでおっぱいに関するマスター称号が3つも集まっちゃったなぁ)



 そう思い、ふぅとため息をついた瞬間、再びそれは訪れた。



・おっぱいに関するマスター称号が規定数を越えたため、[おっぱいマスター]称号に統合されました!


 (と、統合! ってことは!!)



 シュリははやる気持ちを抑えつつ、ステータス画面を開いた。

 するとそこにはどでんと、



[おっぱいマスター]

 おっぱいに関するマスター称号を規定数以上手に入れた強者へ贈られる称号。

 おっぱいの扱い、知識、診断が上昇し、おっぱいへの刺激だけで女性をめくるめく世界へご案内。

 望んだおっぱいから母乳を出させることが出来る。

 母乳の成分は相手の魔力なので、飲み過ぎに注意が必要。

 魔力母乳を接種することで、相手の持つスキルを入手できることもある。

 性欲上昇(大)、精力上昇(大)、体力上昇(大)、魔性の男力(大)スキル取得確率(大)の付加効果あり。



 そんな説明文が鎮座しており。

 それまでそこにあった[乳首マスター][母乳マスター][胸揉みマスター]という微妙なネーミングの恥ずかしいマスター称号の表記は影も形も無かった。

 さっきのアナウンスの通り、[おっぱいマスター]という称号へ統合されたということなのだろう。


 その事実を己の目でしっかり確認したシュリは、よぉし、と拳を握る。

 これで恥ずかしくて仕方なかったマスター称号ともおさらばだ、と。

 特に[乳首マスター]は羞恥度がハンパなかったので、今後あの名称を目にしなくていいかと思うと、なんとも言えない幸福感がわき上がり、思わず感動に震えた。


 そんなシュリは気づいていない。


 [おっぱいマスター]という称号だって十分恥ずかしい、という事実に。

 [乳首マスター]という恥ずかしすぎる称号と長年つきあってきた影響で、シュリの恥ずかしさに関する感覚は少々麻痺していた。


 端から見ると、恥ずかしい称号が無くなったかわりに新たな恥ずかしい称号を得ただけなのだが、それに気づかないシュリはほくほく顔で気絶したタマを壁際のポチの隣に連れて行く。

 そして、その頬にちゅっとキスを落とした後、にこにこしながらイルルの方を振り向いた。



 「お待たせ、イルル。さ、ご褒美の時間だよ」



 その言葉に、もう十分すぎるくらい赤かったイルルの顔が、ぼふんともう1段階赤みを増す。

 おいで、と手招くと、



 「う、う、う、うみゅ!」



 そんな返事と共に、かっくんかっくんした動きでイルルがシュリの元へとやってきた。

 その頬を優しく撫で、



 「大丈夫。ちゃんと思い出に残るキスにしてあげる」



 甘い言葉と共ににっこり微笑む。

 シュリは全く意図していないのだが、言葉と行動の端々から漏れる妙な色気に、イルルはおぼれる寸前だった。


 シュリはうっかり読み飛ばしていたが、[おっぱいマスター]の効能には、[魔性の男力おとこぢから]という妙なものが増えていたのだが、それが今、見事なまでに発揮されていた。

 おそらく、[魔性の男力]はイコール[男の色気]でほぼあっていると思われる。

 これまで、まだ子供のシュリの魅力のほとんどを可愛さが占めていたが、そこに色気が大量に注入され、本人も気づかぬ間に見事な融合を果たし。

 かつて、シュリの事を、[魔性の僕ちゃん]と称した人がいたが、今のシュリはまさしくその呼び名を体現していた。


 シュリの色気に当てられて、イルルは真っ赤な顔であうあうしている。

 そんなイルルの頬に指を這わせ、唇を親指でするりと撫でる。

 そしてそのまま、固まっているイルルにゆっくりと顔を近づけていった。



 (いやいやいや!! ちょっと待て、僕!! 落ち着け、僕!!)



 色々いっぱいいっぱいのイルルを前に、止まる様子を見せない己を止めようと、頭の中で理性が騒ぐ。

 でも、新たな称号[おっぱいマスター]が底上げする[性欲上昇(大)]と[精力上昇(大)]の影響力はすさまじかった。


 その影響力に慣れればもう少し己を制御できたかもしれない。

 しかし今は、目の前にある可愛らしい唇の誘惑に、勝つことが出来なかった。


 小柄なイルルはシュリとの身長差もそこまで大きくない。

 といっても、まだまだシュリの方が小さいが、背伸びすれば十分キスは出来る。

 そんなわけで、シュリはイルルの首に両腕を回し、ちょっぴり背伸びをして少女の唇を一息に奪った。


 体をがちがちにしたイルルは、その唇もかっちり閉じていたが、シュリは根気よく唇を愛撫してその隙間を作ってしまう。

 そして、イルルの唇がうっすら開いたその隙を逃さずに、己の舌をするりと滑り込ませた。


 ぴくん、とイルルの体が震え、その手がすがるようにシュリの服を掴む。

 その様子を愛しく思いながら、シュリは片方の手でなだめるようにイルルの背中を撫でた。

 だが、それすらも官能を呼び起こす刺激になったように、イルルの体はこらえきれないように震える。



 (イルルってば敏感だなぁ)



 と、そんなことを思うシュリはすっかり忘れていた。

 かつて。

 2人の出会いの遭遇戦で、己がイルルに叩き込んだ初めての官能の事を。

 シュリとしては、意図して引き起こした事態では無かったから、その事実は記憶の彼方だが、イルルの体はしっかりと覚えていた。


 シュリのキスに翻弄されながら、イルルの体はどんどん熱くなっていく。

 しっぽの付け根の、本来の姿に戻れば龍の弱点とも言える逆鱗がある場所にうずくような感覚を呼び起こされ、イルルは思わずお尻をうずうずさせてしまう。


 あの日あの時、敏感になったその場所に与えられた、痛烈で激しく、だが甘い刺激を、イルルは忘れていなかった。

 しっぽの付け根が訴える。

 シュリの手で、思い切り叩かれたい、と。



 (い、いかん。いかんのじゃ。叩かれて気持ち良いのは変態さんなのじゃ)



 その考えに、イルルは心の中でぷるぷると首を振る。

 それでも、1度快楽を覚えてしまった逆鱗のうずきは増すばかり。

 シュリとのキスは信じられないくらい気持ちよく、でもほんの少し足りなくて。

 じれるイルルの気持ちを知ってか知らずか、イルルをなだめるように背中をさまよっていたシュリの手が、少しだけ下へ降りてきた。

 そして、行き着いたしっぽの付け根のその部分を、シュリの指先が控えめに撫でた瞬間。


 イルルは待ったなしで激しく達していた。

 一瞬で体の力が抜け、くたくたと座り込もうとするイルルを抱き抱え、シュリは彼女の唇を解放する。



 「い、いるる? 大丈夫??」


 「ふ、ふにゅうぅぅ。にゃ、にゃでるのも、しゅごかったのじゃあぁぁ」



 シュリの問いかけに、目をぐるぐるさせたイルルがうわ言のように返す。



 (なでる? なでるって、どこを??)



 若干意味不明なイルルの言葉に、シュリは首を傾げ、イルルは背中が弱点なのかな? と少しずれた認識にたどり着く。

 そんなシュリが、逆鱗という名の龍の弱点の事を思い出すのは、随分後になってから。

 それこそ、イルルの幼なじみの蒼い龍と対峙するその時になって、



 (あ、イルルの弱点は背中じゃなくてしっぽの付け根か!!)



 と認識を新たにする事になるのだが、今のシュリはそれを知る由もない。

 くったりしたイルルをポチ、タマ同様に壁際に運んで、その背を壁に預けさせるようにして座らせる。

 そして、なんだか色々とやり遂げた感を覚え、ふ~っと額の汗を拭う。

 腰の奥のうずうず感のことは、とりあえず横に置いたまま。

 しばらくしたら落ち着くだろうと軽く見ていたのだが、たまった熱は中々冷めず、思ったよりずっと長く、その熱はシュリを悩ませたのだった。

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