第295話 お風呂場の攻防戦⑤

 「シュリ~、お待たせなのじゃ~。妾、参上!!」



 つるぺたすっぽんぽんの姿で勢いよく風呂場へ走り込んできたのはイルル。

 彼女は泡だらけでぽかんと自分を見つめるシュリをみつけ、目を輝かせる。



 「おおっ、シュリ。アワアワじゃのう。やる気満々じゃの~。どぉれ、妾にも泡を分けるのじゃ!」



 言いながら抱きついてきたイルルを、条件反射のように受け止める。

 何で今ここにイルルがいるんだろう、と少々混乱した頭で考えつつ。



 「ふおおっ。ぬるぬるじゃのう。なんか、えっち、じゃな!!」



 泡だらけのシュリにむぎゅむぎゅ抱きつきつつ、イルルが楽しそうにわはは、と笑う。

 シュリがきちんと大人で少々特殊な趣味を持っていたら、変な気分になってもおかしくない接触量だったが、シュリは幸いまだお子様でロ○コンの趣味も持ち合わせていなかった。

 なので、特におかしな空気になることもなく、ついでだからイルルも洗っちゃえ、とばかりにシュリはイルルに泡をこすりつける。

 そんなじゃれあいをしている間に、遅れていたポチとタマも大迫力の裸体を恥ずかしげもなくさらしながら現れた。



 「はい、シュリ様、おっぱい」



 来て早々、なぜかタマがシュリの顔におっぱいをむぎゅうと押しつけて、常に眠たげな瞳を細め、ちょっとだけ得意そうな顔をする。

 ポチもちょっと迷うそぶりをしたものの、タマよりは控えめにシュリにおっぱいを押しつけてきた。



 「えっと、ポチ?」



 どちらのおっぱいも大変満足な感触だったが、シュリは何事だろうと首を傾げつつ、三人の中では比較的常識的(だと信じたい)ポチの名を呼び、



 「これは、一体何事……なの?」



 そっと問いかけた。



 「イ、イルル様曰く……」


 「うん。イルルがなんて?」


 「慣れ親しんだおっぱいと離れて寂しんぼなシュリ様に、なじみのおっぱいを思う存分楽しんでもらおう、的な趣旨、のようでありまして」


 「……ほほう」


 「たっ、楽しんで頂けているでありますか?」



 ポチはイルルの説に、少々疑問を抱いているようで、少し心配そうに問いかけてくる。

 楽しいか楽しくないかと問われれば、タマとポチのおっぱいは極上おっぱいだから、こうしてそれに挟まれている状況は至福ではある。

 が、己がおっぱい大魔神のように思われている現状は面白くない。

 なので、手放しで楽しいと答えられるかは微妙なところだ。


 だが、悪いのは(きっと)イルルだろうと推測は出来るので、タマとポチのおっぱいにあたるのは良くない。

 おっぱいに、罪は無い。

 シュリはそう考え、一つ頷き、



 「……うん。元気が出たよ。ありがとう」



 そんな大人な回答と共に、にっこり微笑んだ。



 「……そう? 良かった」


 「そっ、そうでありますか? お役に立てたならポチは嬉しいであります」



 二人の顔がぱあっと輝き、タマのしっぽがふぁさっ、ふぁさっと、ポチのしっぽがばっさ、ばっさと忙しく動いて、その喜びを現す。


 ちなみに、本性は九尾の狐であるタマのしっぽは本来は九本ある訳だが、今、その形のいいお尻からにょっきり出ているのは一本だけ。

 彼女のしっぽは出し入れ自由らしく、狭い空間や大人数が集まる場などは、しっぽ一本の姿のことの方が多かった。

 そのおかげで、たまたま彼女を見た人が勝手に狐の獣人だと勘違いしてくれるので助かってはいるが。

 まあ、二人が悪くないことは分かった。

 悪いのは……



 「イルル?」


 「ん~? なんじゃ??」



 諸悪の根元の名を呼べば、ぱっと嬉しそうにこちらを見てくる。

 その悪気など一欠片も感じられない無邪気な表情に、シュリは喉まで出掛かっていた文句の言葉が引っ込んでいくの感じて、思わず苦笑した。



 (……バカすぎて可愛くて怒れないなんて、僕ってどこまで飼い主バカなんだろうなぁ)



 己に少々呆れつつ、だが怒ろうにも怒りの感情が霧散してしまったのだからどうにもならない。

 何でもないよ、と頭を撫でてやると、八重歯のようにも見える可愛らしい牙をのぞかせてイルルが笑う。



 「なんじゃ~? 言い掛けてやめられると気になるじゃろ? さては、アレじゃな。妾のおっぱいの感触が気持ちよすぎて、言葉を忘れてしまったんじゃな? 可愛ゆいのう、シュリは。ほれほれ、もっとぬるぬるしてやろうの。妾のおっぱいを思う存分味わうと良いのじゃ」



 むふむふ笑いながら、更に己の胸部をシュリの胸へとこすりつけてくるイルル。

 だが、どんなにこすりつけたところで、その感触はどこまでも平坦だった。

 こんな状況にイルルも興奮しているのか、つん、としたぽっちりの感触だけはやけに鮮明に感じられたが。



 (……ぺったんこに設定してごめん。でっ、でも、大丈夫だよ! イルルはそのままでも十分可愛いと思うし!!)



 心の中でイルルに謝り、言い訳をし。

 シュリは申し訳なさと愛しさに胸がきゅうっとなったシュリは、イルルをむぎゅっと抱きしめた。



 「おおっ? な、なんじゃ? もっ、もしや、これはとうとうシュリが妾の魅力の前に屈したと、そういうことじゃな?」



 腕の中のイルルが、少々慌てたようにワタワタするのを感じながら、



 「そう、かもしれないね?」


 クスリと笑って、更にぎゅうっと抱きしめる。



 「ふおぉっ。めろめろっ! めろめろなんじゃな? シュリはもう、妾の魅力にあらがいきれんのじゃな?」


 「うーん。そうかも?」



 さて、イルルはどう出るだろうか、とついついいたずら心でそう答えると、イルルはちょっぴり沈黙した後、



 「しっ、仕方のない奴じゃの。よしっ、妾も女じゃ! 覚悟はとうに出来ておる!! 千年以上使っておらぬから、己でもどうなっておるのか未知数じゃが……やっ、優しくしてくれるんじゃろうの?」



 真っ赤な顔で言ったイルルに、これ以上はからかっちゃダメだろうと、



 「優しくって、僕はいつだってイルルには甘々でしょ? でもさ、実は僕は女の子らしいんだけど、イルルはどう思う?」



 思い切りよく話題を方向転換させ、さっきまで自分を追いかけ回していた姉妹の方を見た。

 突然の乱入者達に驚いたのだろうか、彼女はその場で固まり、目を見開いてこちらを……正確に言うなら恐らくイルルの事を見ている。

 イルルは、シュリの言葉にそれまでのやりとりをコロッと忘れたように首を傾げた。



 「うぬ? シュリが女の子じゃと?? それは何の冗談なのじゃ? まだ可愛らしくはあるが、ちゃんとついておるじゃろうに」


 「うん、僕もそう思うんだけど、あの二人が僕を女の子だって言うんだよ。イルルからも、何か言ってやってくれる?」


 「うむ。よいじゃろう。妾ががつーんと言ってくれるわ。お主等の目は節穴か~とな!」



 妾に任せよ、とイルルはぺたんこな胸を張り、シュリから離れると腕を組んで仁王立ちした。



 「シュリが女などと世迷い事を申しておるのはお主等か? 目を見開いてよーく見てみよ! シュリの足と足の間になにがついておるのか。まだちっさくはあるが、将来嫌と言うほど女を喜ばせることになる棒がしっかりとついておろうが!」


 「「女を喜ばせる棒……」」



 イルルの言葉に、シュリの両脇で律儀にシュリにおっぱいを押しつけている二人の視線がシュリの股間に降り、ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。

 その視線の熱量に苦笑しつつ、



 「まだおっきくならないからね?」



 発情しかけた二人に釘をさしておく。



 「わ、分かってるであります、よ?」 


 「も、もちろん、タマだってわかってる」



 二人は慌てて答え、申し合わせたように視線を上へ逃がした。

 ポチとタマの熱がおさまったのを確認してから、シュリは再びイルルの方へと視線を戻す。

 イルルVSルビス・アビス姉妹の勝負の行方を見守るために。

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