第274話 子うさぎルゥのバニーガールな事情②

 翌日、早速シュリに己のウサギさんっぷりを披露しようとしたルゥは、こっそり空き教室にシュリを呼び出した。

 なにも考えずに呼び出しに応じたシュリは、教室に入った瞬間に固まり、そして思う。

 何故バニーガールがこんなところに、と。


 まあ、落ち着いてみてみればそれがルゥだと言うことはすぐに分かったが、その衣装への疑問は残った。

 しかし、



 「ルゥはどうしてバニーガールの格好なんてしてるの?」



 なんて直球な質問はちょっとぶつけにくかったので、



 「えーっと、その、綺麗な衣装、だね? な、なんの衣装なの?」



 無難にそう聞いてみる。

 シュリが己の姿に興味をもったと分かったルゥは、ぱあっと顔を輝かせ、



 「ウサギの獣人女性の民族衣装なんだ。耳と尻尾は、自分で作ったんだけど。シュー君が好きだと思って。どう、かな?」



 もじもじしながらも、ルゥはシュリの顔をじっと見つめた。

 ルゥの熱いまなざしにさらされながら、シュリはほんのちょっぴり頬をひきつらせる。



 (僕、バニーガールが好きだなんて、ルゥに言ったこと、あったっけかなぁ)



 そんな風に思いながら。



 (でも、まあ、見るのがいやってわけじゃないし、いいんだけどね。ルゥにも似合ってるしさ)



 白い毛皮の長い付け耳は、白い髪もつややかなルゥにはぴったりのアイテムだった。

 ちょっと露出の激しいその衣装も、ルゥの起伏に富んだ体型で着こなすとなんとも魅力的に見える。

 加えて、その衣装のお尻に縫いつけられた白い尻尾もなんとも可愛らしく、お色気満点のお衣装とのギャップがとてもいい感じだった。



 「いいと思うよ? ルゥにすごく良く似合ってる。ただ、あの、あんまりたくさんの人がいるところでその格好はやめた方がいいとは思うけど」



 万が一、ルゥが公共の場所でこんな格好をしようものなら、後々面倒な事件につながりかねない。

 その手の事件は、つい最近サシャ先生のを解決したばかりだし、できることならしばらく関わり合いたくない。

 とはいえ、ルゥが狙われていると分かったら、きっとまた全力で助けてしまう事になるのだろうけれど。


 そんなシュリの言葉に、ルゥはうれしそうに頬を染めた。

 恐らくシュリの言葉を、ヤキモチやら独占欲風にとったのだろう。



 「本当? うれしい。じゃあ、ボクはシュー君のウサギさんになれるかな?」


 「う、うさぎさん!? そっ、そうだねぇ。ウサギさん、といえばウサギさん、なのかなぁ? 一応長い耳に丸い尻尾、ついてるし。まあ、ウサギさん、かな」



 バニーガールだって、バニーというくらいなのだ。

 広い意味で考えれば、バニーガールだってウサギのはずだ。

 だって耳もあるし、尻尾もあるのだから。

 ルゥ曰く、これはバニーガールさんじゃなくて、ウサギ獣人さんの民族衣装という話だし。


 良かった、ちゃんとウサギさんになれたんだ、とルゥが笑う。

 その純粋な笑みに、



 (なんだ。ルゥの目指すところはバニーガールじゃなくてただのウサギさん、だったのかな?)



 とシュリは真実に近いところを何となく悟る。



 (そっかぁ。ルゥはウサギさんになりたかったのかぁ。でも確かに、ルゥの綺麗な紅い目も、さらさらふわふわの白い髪も、ウサギさんっぽいもんね。今よりもっと小さい頃のルゥは、ほんと、可愛くて守ってあげたいウサギさんっぽかったもんなぁ)



 ルゥの真意が分かってみれば、なんとなく胸がほっこりした。

 ウサギさんを目指すなら、ウサギ獣人さんの民族衣装よりむしろ、着ぐるみ系の方がいい気がすると思い、しばし想像力を膨らませてみる。

 しかし、どんなに頑張ってみても、ルゥのお胸の女子力の高さが邪魔をして、なんとなくエッチな感じに傾いてしまうのが少々残念だった。



 「うん、すごく可愛いウサギさんになったね」



 にっこりしてシュリはルゥのウサギっぷりを誉めてあげる。

 決して、衣装がちょっとエッチすぎて残念などとは言わない。

 だって、たぶんきっと、ルゥはシュリの為にウサギさんになろうとしてくれたのだから。


 手を伸ばし、思った以上に出来のいいウサ耳に触れ、頭を撫でてあげれば、ルゥは幸せそうに頬をゆるめる。

 素直に可愛いなぁと思いながら、ルゥとルゥのウサ耳を愛でていると、



 「シュー君」


 「ん? なぁに??」


 「ボクのこと、シュー君のウサギさん、って呼んで?」



 うっとりとした顔でそんなおねだりをされた。



 「ん、いいよ。ルゥ。僕の、可愛いウサギさん」



 頷き、ルゥの望むように呼んであげれば、ルゥは本当に本当に、うれしそうに幸せそうに、最高に可愛い笑顔を見せてくれたのだった。


◆◇◆


 その日から二人きりになると、ルゥはどこからともなく取り出したウサ耳をつけるようになった。

 バニーガール……いやいや、ウサギ獣人さんの民族衣装はさすがにいつも持ち歩けないので、ルゥは思い切ってすべてのパンツにウサギ尻尾を縫いつける事にしたらしい。


 初めてパンツに縫いつけたウサ尻尾を見せてくれた時に、大変だったと話してくれた。

 縫い物をする傍らにはルゥのお父さんのロイマンさんもいて、何とも微妙な顔をしていたとか。

 その話を聞いたとき、



 (ああ、それでかぁ)



 とシュリは抱えていた疑問の答えを思いがけず得て、少しだけ遠い目をした。


 ルゥのバニーガール騒動からしばらくして。


 ロイマンさんからシュリ宛に荷物が届いたのだ。

 中には、ウサギ獣人美女の民族衣装の絵姿が何枚も。

 それに加え、彼からの手紙が同封され、そこにはこう書かれていた。


 君たちはまだ若い。できるだけこれを使って発散するように。ルゥの父親として、正しい家族計画を望む……と。


 その時は何のことだろうと首を傾げ、絵姿はそっと、世の男の子がするようにベッドの下に隠しておいた。

 まあ、それは結局すぐにシャイナに見つかって、シュリの特殊な性癖を見つけたと勘違いした愛の奴隷三人の間でバニーガール……いやいやうさぎ獣人ごっこがしばしブームとなり、色々大変だったことはまだ記憶に新しい。



 (ロイマンさん、僕とルゥがそういう関係になってるって、色々誤解してるみたいだなぁ。だからあの絵で、あの手紙だったのかぁ。なるほどねぇ)



 シュリは、やっと合点がいったとばかりに何度も頷きながら、今日もルゥのウサ耳を愛でる。


 シュリとルゥの関係など、現段階では一緒にお弁当を食べたり、ウサ耳を撫でて可愛がってあげるくらいの、きわめて健全な(?)ものなのだが、疑惑に凝り固まったお父さんの誤解を解くのはきっと難しいだろう。



 (……まあ、なるようにしかならないか。娘を傷物にした責任を取れって殴り込まれないだけ、ましだよね)



 ふふふ、と乾いた笑い声を漏らしつつ、現実逃避するようにウサ耳ルゥを愛でる。

 それはもう、甘々すぎるくらいに。

 結果、家に帰ったルゥが、



 「今日のシュー君は激しくて、でもすっごく優しくて素敵だった……」



 などとのたまい、ロイマンの誤解を加速させる結果に繋がるなど、夢にも思わないシュリなのだった。

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