第247話 乙女ゲームと決闘
授業体験に来ただけなのに、なぜか決闘沙汰。
僕の周りってどうしてトラブルが多いんだろう……シュリはちょっぴり遠い目をして、トラブル体質な自分を呪った。
そんなシュリを、リュミスがきらきらした眼差しで見つめ、サシャ先生はハラハラした様子で見守っている。
生徒同士の決闘の一報を聞いたサシャ先生は当然の事ながら反対をした。
が、それぞれの学年の担当教師が、いい勉強になるし、シュリの実力をはかるいい機会だからと決闘を支持。
結果、十分に安全対策をとるという事で決闘は決行される事となった。
今現在、魔法科の教師達が教練場に結界を張り巡らせているが、正直シュリは不安だった。
教師達の実力を疑っている訳ではないが、自分はとにかく規格外。
万に一つの事故があってはいけない、とシュリは自分の内にいる五人の精霊にそっと話しかける。
シュリの力が不要に周囲を傷つけないように、結界を張ることは可能か、と。
『可能か不可能かと問われれば可能ですわ。今回はサクラもいることですし、五人の力を合わせれば、まぁ、なんとかなるでしょう。あ、そうそう。あちら五人の結界だけは少し薄くしておきますわ。ですから存分に』
五人を代表してアリアが答える。
そんなアリアの言葉に苦笑しながら、
『存分にって……別に存分にどうこうするつもりはないから、五人の結界もちゃんと張ってあげてね?』
シュリが言うと、
『『えええ~』』
イグニスとシェルファの不満そうな声が頭に響く。
『あいつら、シュリをバカにしてたじゃん。やっちまおーぜ? さくっとよ』
『うんうん。ああいう頭が悪い子達は、ちょっと痛い目をみた方がいいと思うな~』
炎と風の精霊は、相変わらず過激で自由奔放だ。
自分を慕う故の発言だと分かるから、シュリの顔に困ったような嬉しいような複雑な表情が浮かぶ。
でも、流石にリュミスの同級生をさくっとやってしまう訳にもいかないので、二人に注意をしようとしたが、
『こらこら。シュリがダメだと言っている。諦めろ、二人とも』
それに先んじて、みんなの良心であるグランが生真面目に二人を諫めてくれた。
『……まあ、私も、少しは奴らに痛い目をみさせてやりたいというのが本音だが、シュリの言葉は絶対だからな。私も我慢する。だから二人も、な?』
グランの本音と実感のこもった言葉が効いたのか、
『だよなぁ。絶対痛い目みたほうがいいよなぁ、あいつら。腐った根性叩き直してやりたいけど、シュリが言うなら我慢するか……』
『ん~、偶然を装ってちょっと突風で吹き飛ばしてやりたい気分だけど、シュリのいう事の方が大事だから大人しくしてるよ~』
二人とも、不満そうな口振りながらどうにか矛を収めてくれた。
でも、ほっとしたのも束の間、
『……まぶしい光でちょっと目潰しするくらいなら良いわよね? 光の加減を間違えて、うっかり目が使えなくなるかもしれないけど、そんなの事故と一緒だし』
『ですわね。足下にちょっと水を流して、転ばせるという手もありますわ。それで少しくらい怪我をしても、事故と言い通せばシュリに迷惑はかかりませんわよね』
ぼそぼそと丸聞こえな声で物騒な事を言い出した光と水の精霊に、シュリは思わず額を押さえる。
そんなシュリをみて、リュミスが首を傾げた。
「シュリ、どうかした?」
「う、ううん。なんでもないよ、リュミ姉様」
不思議そうなリュミスの問いかけに、シュリは慌てて首を横に振り、にっこり微笑んで答えた。
『サクラもアリアも、余計なことしちゃ、ダメだよ? 事故は厳禁! わかった?』
と、しっかり暴走しそうな二人の精霊に釘をさしつつ。
そうこうする内に、教師達の結界の準備は整ったらしく。
五人の決闘相手が意気揚々と前に進み出て、シュリは精霊達をこっそり自分の内から解き放つ。
四方に散った彼女達は、教師達の結界に重ねるように、強力な結界を即座に展開した。
それを確認して、シュリも決闘の場へ進み出ようとした。
そんなシュリを、リュミスがそっと引き留める。
「リュミ姉様?」
なんだろう?、と見上げると、彼女はしゃがみ込んでシュリの目線に己の目線をあわせると、
「シュリ、私の為に、勝ってきて?」
思いを乗せた言葉と共に、シュリの頬へ唇を寄せる。
ほっぺにちゅーなど、すっかり慣れっこなシュリは平常運転でそれを受け取ったが、周囲はそうではなかったようで。
教練場で決闘の行方を見守っている面々がどよめき、五人の決闘相手はぎりぎりと悔しそうな歯ぎしりの音を響かせた。
そして何故か、サシャ先生からは非常にひんやりとした視線を頂戴してしまう羽目に。
さっきまで、優しく見守るような視線だったのに、なんでだ? と首を傾げるも、理由が分からず、シュリは内心冷や汗を流した。
そんなシュリの内心などつゆ知らず、リュミスは潤んだ眼差しで愛しい少年をじっと見つめる。
そして、
「シュリが勝ったら、フィリアと一緒のご褒美をあげる」
目元を赤くしてシュリにそう告げると、フィリアと一緒のご褒美ってなんだろう? と首を傾げる少年の背をそっと押して決闘の場へと送り出した。
親の敵を見るように、こちらを睨んでいる五人の元へ向かいながら、シュリは首を捻りながら考える。
(フィー姉様と同じご褒美……フィー姉様と同じご褒美……あっ!)
不意に脳裏に思い浮かんだのは、王都での一幕。
フィリアの為に決闘をし、そしてそのご褒美という事で、思う存分キスをされた。フィリアの気が済むまで徹底的に。
リュミスは多分そのことを言っているのだろうと推測し、シュリは脳裏にフィリアのおっとりした美貌を思い描く。
(フィー姉様……リュミ姉様に自慢したな?)
そんなシュリの予測通り、フィリアはシュリとの一件の後、控えめにではあるが、リュミスにしっかり己の幸運を自慢していた。
自分の為に戦ってくれるシュリがどれだけ格好良かったか、とか、決闘の後の口づけがどれだけ甘やかだったか、とか。
それをリュミスは心底羨ましく思い、万が一機会が訪れたら絶対に逃すまいと思っていた。
そんな彼女の元に訪れた絶好の機会をリュミスが見逃すはずもなく、乙女ゲーム五人衆は彼女の野望の為、まんまと利用されてしまったというわけだ。
だが、そんなリュミスの思惑など知るはずもなく、五人はシュリからリュミスの愛情を奪い取るため、気合いたっぷりでこの決闘に望んでいる。
絶対に勝ってリュミスを自分のものにしてやる、との欲望丸出しの顔をあきれた様子で見上げながら、シュリは自然体で彼らの前に立った。
「五対一じゃあ、流石に弱いものいじめみたいで気分が悪いな……一対一で戦うか?」
五人を代表するように、俺様センパイが提案する。
が、シュリは首を横に振った。
一人ずつ五人と戦うのと、一度に五人を相手にするのと、正直、労力はそれほど変わらない。
むしろ、時間がかかる分、一人ずつ相手にする方が面倒だ、と強者の余裕でシュリはそう考えた。
彼らは五人とも、こちらに勝つつもりでいるようだが、シュリは彼らに負けてやるつもりなど無い。
彼らの気づかぬ双方の力量差を考えれば、勝負は一瞬でついてしまうだろう。
後はどれだけシュリが上手に手加減できるか。
彼らの心だけを折って体は極力傷つけない……それがこの決闘における、シュリの最大の目標だった。
(炎はダメだな~。うっかり消し炭になっちゃったら大変だし。風もなぁ……加減を間違えたら容赦なく飛んでっちゃいそうだよねぇ。光の魔法も、攻撃力低いのってただまぶしいだけの奴くらいしか使えないし、水もな~……攻撃系のは意外と殺傷力が高いし、そうじゃないと水を出すくらいになっちゃうし。どうして僕の魔法って、こう、汎用性が低いのかなぁ。そう考えると、使える中で一番無難なのは土魔法、かなぁ)
決闘で使うのはどの魔法が良いか検討する中で、自分の魔法が意外と対人戦に向かないことを発見するシュリ。
対大型魔獣とかであれば問題ないのだが、人を必要以上に傷つけないように戦うには、少々攻撃力がありすぎるのだ。
う~ん、う~ん、と唸りながら、どうやって戦おうか一生懸命考えるシュリ。
しかし、そんなことをしているうちに、いつの間にか決闘は始まっていたらしい。
決闘開始の合図を聞き損ねていたシュリの元へ、それなりの威力のファイアーボールが飛んできた。
シュリはそれをひょいっと避けながら、更に考え事をする。
が、それを邪魔するように、鋭い軌跡でアイスランスが迫り、それを避けたら今度はサンドボールやらウォーターシュートやらウィンドソードやら、多彩な魔法が休む暇もなくシュリを襲う。
しかし、それらの魔法が一つとしてシュリに傷を付けることはなく、周囲の心配をよそに、シュリはのほほんと考え事を続けた。
さて、なんの魔法で彼らを迎え撃つべきだろうか、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます