第百十八話 ライバル出現…なのか??
フィリアとリメラに魔法を披露していたら、いつの間にか周囲に人が集まってきていた。
うわ、やばい、面倒くさい事になると、あわてて魔法をやめたのだが、時すでに遅し。
目をきらきらさせたお姉さま方に取り囲まれてしまった。
すごいね~、可愛いね~、と口々に誉められるのだが、数の暴力に責め立てられて嬉しいもなにもない。
シュリはあわててフィリアの後ろに隠れ、その足にぎゅうっと抱きついた。
その様子がまた、お姉さま方の心の琴線に触れたらしく、なぜか黄色い悲鳴が上がる。
(今って、一応授業中、だよね?どうなってんの??これ???)
生徒達がこんなに好き勝手してるのに、先生は注意をしたりしないもんなのだろうか?
シュリは良く知らないが、週に一回行われるこの3クラス合同の授業は自主性が重んじられている。
己で魔法を磨くも良し、それぞれの属性の教師に教えを請うも良し、生徒同士で魔法を競い合うも良し、結構なんでもござれなのである。
余りに目に余る場合は教師から注意が飛ぶが、今回の場合は他人の魔法を見て勉強している様に見られているためか、教師が介入してくる様子は見られなかった。
よって、シュリ達を取り囲む人垣が崩れることもなく、困ったなぁと少女達の顔を見回していると、人垣の一部が割れて誰かが進み出てきた。
「やあ、失礼するよ。レィディ達」
聞こえてきたのはそんな気障ったらしい台詞だ。
(……なんか変なのがきたなぁ)
そう思いつつ、近づいてくる長身の男子生徒を見上げる。金色の髪に青い瞳の、王子様然とした一見イケメンの彼は、フィリアをみつけると真っ白な歯をキラっと光らせて、輝かんばかりの微笑みを浮かべた。
それは、何の事情も知らないシュリでも、あっ、これはフィリアに惚れてるな、と丸わかりなくらいに、感情がダダ漏れの笑顔だった。
彼は、フィリアの瞳をじぃっと見つめた後、その足下にいるシュリを見てふふん、と笑った。
まさしく、ふふん、と言った感じの笑顔で。
見下すような、バカにするような感じといったら分かりやすいだろうか。
初対面なのになんで見下されなきゃいけないのかは分からないが、彼は勝手にシュリをライバル視して、自分の方が明らかにシュリに勝っていると思っているようだった。
(うわぁ……なんか、感じ悪いなぁ)
そう思っていると、フィリアも彼がシュリに向ける悪感情を敏感に感じたらしく、
「あの、何のご用ですか?」
堅い口調と表情で、きっと彼を見つめた。
「いや、君の想い人がここにいると聞いて駆けつけたんだけどね、どうもそれらしき人がいないから戸惑っている所なんだよ」
彼はまたまた白い歯をきらりっと光らせて、フィリアに微笑みかける。
きっととっておきの笑顔なんだろうが、余りに気障気障しいため、何とも言えずに胡散臭く見える。
顔の造形は悪くないんだから、変にカッコつけないで普通にしていた方がいいと思うけどなぁと思いながら、ぼんやり見上げていると、再び彼の目がこっちを向いた。
「まさかとは思うけれど、君の足下にくっついてるソレ。そのちんちくりんが君の好きな相手、なぁんてことはないよね???」
バカにするようにそう問われ、さすがにカチンときたのだろう。
フィリアはシュリを抱き上げてその胸に抱きしめると、
「ちんちくりんって、シュリに失礼でしょう?こんなに素敵で可愛いのに!あなた、一体なんなんですか!?いきなり来て、失礼な事ばかり言って!!」
ぷんぷんと擬音が聞こえてきそうなほど怒った顔をして、目の前の男子生徒を睨んだ。
「一体なんなんですか、って。まさか、僕を忘れてしまった訳ではないだろう?フィリア」
彼は余裕の表情でフィリアに返す。
おいおい、冗談きついよとでも言うように、苦笑を浮かべながら。
だが、それを聞いたフィリアはきょとんとして彼の顔を見上げた。
そしてそのままま、まじまじと彼の顔を見つめ、それからきゅううううっと首を傾げる。
そして、
「忘れたもなにも……私、どこかであなたとお会いしましたっけ?初対面、ですよね??」
どこまでも真面目に、そう返した。
「は??」
男子生徒は想定していなかった答えを返されて、凍り付いたように固まる。
その様子をフィリアの隣で見ていたリメラが、
「なんだ、フィリア、忘れたのかい?ちょっと前に、ほら、校舎裏に呼び出されて告白してきた輩だろう、彼は」
「え……。えええぇぇ?そ、そうだった???覚えがないんだけど。っていうか、何でリメラの方が覚えてるの??」
「校庭裏に呼び出しなんて不安だから、一緒に付いてきてくれと頼んできたのはフィリアだろう?私は面倒くさいからイヤだって言ったのに、どうしてもと頼んできたじゃないか」
「そ、そうだった?」
「そうだよ。彼は、えーと、なんといったかな。クラスは君とも私とも違うから、確か火と土のクラスだったはずだ。名前は、えーと、確か、えーっと……ベロベロス・ドリアン……だったかな」
「エルフェロス・リディアンだっ!!失敬な!!!」
男子生徒……もとい、エルフェロス・リディアンが気障をかなぐり捨てて大きな声を上げる。
それをきいたリメラは、ああ、それそれと言わんばかりに、ぽんと手を叩いた。
「ああ、それだ、それ。それで、そのエロスがな?」
「勝手に名前を省略するな!!」
「うるさいな。ちょっと黙っていてくれないか、エロス。今、君のことをフィリアに説明してやろうとしているんだから」
「くっっ!!!」
「えーと、どこまで話したかな?」
「えっと、確か、そこのエロス、さん?が私を裏庭に呼び出して、リメラに付いてきてもらったって所まで、だと思うんだけど」
「ああ。そうだったね。まあ、簡単に言ってしまえば、裏庭に呼び出されて、告白されて、あっさりきっぱり君がお断りした、と言うだけのことなんだが、本当に覚えてないのかい?」
「ええ~?そう言われても。そんなことがあったような、なかったような……ほら、その、色々な人の申し出をお断りしてるから、ねえ?」
「そうか、そうだな。人数が多すぎて一人一人覚えてなどいられないか」
「そ、そうなの。申し訳ないとは思うんだけど」
「シュリしか眼中にない、か?」
「えっと、その……うん。そう、だと思う」
「だ、そうだ。残念だったな、エロス。なにをしに来たか分からないが、君の出る幕は無さそうだよ」
「ご、ごめんなさい。エロスさん。どうしても、思い出せなくて……」
リメラがやれやれと肩をすくめ、フィリアが申し訳なさそうな顔をする。
どうでもいい話だが、リメラとフィリアの間で、彼の呼び名はエロスで確定してしまったらしい。
つくづく気の毒な人だなぁと思いながらシュリが見つめる前で、エロスの顔がみるみるうちに赤くなった。
「くうっ。よくもここまでコケにしてくれたな」
そんな彼の言葉に、
「いや、コケにしたつもりはないんだが……」
困ったように返すリメラ。
これが本心だから余計にたちが悪い。
相手からしたらバカにされているようにしか思えないだろう。
端から見ていても、もしかしてちょっとバカにしてるの?って思えるくらいだから。
彼はむむむむむっと唸って頭から湯気が出そうな勢いだ。
まさに怒り心頭という感じ。
彼は憎々しげにフィリア以外を睨むと、懐から白い何かを取り出してぺいっと投げつけてきた。
なぜかシュリに向かって。
(なんでっ!?ここは普通、リメラでしょ!?なんでぼく??)
何にもしてないのに!?、そうは思うものの、フィリアに抱っこされている状態ではよける事すらできず、白い物体はぺしょんとシュリにぶつかり、その頭に乗っかった。
なんだろう、と頭に手を伸ばし、乗っかっていたものを手に取れば、それは真っ白な手袋だった。
(白手袋……ま、まさか、決闘、とか言わないよね?物語じゃあるまいし)
だが、そのまさか、だった。
エロスは手袋を両手に持ったシュリをびしりと指さし、
「決闘だ!!決闘を申し込むぞ!!!ちんちくりん!!!!」
高らかに、そう宣言したのだった。
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