第百十二話 二人の時間はキケンがいっぱい!?
※2017/10/17 内容を一部変更しました。
膝の上にもふっ子。なんと幸せなことか。
リメラは最上級の幸せを噛みしめながら、わずかな間とはいえども、シュリと二人きりの時間を堪能していた。
今現在、部屋の主たるフィリアの姿はここにはない。
友人がまだ風呂に入っていないという事を聞いて、シュリは見ているから行ってこいと快く送り出したのだ。
ちなみに、リメラはいの一番に風呂は済ませてある。昔からとにかく、一番風呂が好きなリメラなのだった。
そんな訳で、フィリアが風呂から出てくるまでは、この部屋で最上級のもふもふと二人きり。
リメラはニコニコしながらシュリの頭を撫でる。
着ぐるみのフードをかぶったその頭は、申し分なくもふりもふりしていて、リメラはその感触を存分に楽しむのだった。
その間、シュリはシュリで、リメラがくれた食材でフィリアが作ってくれたサンドイッチを一生懸命もむもむ食べていた。
その食べる姿も眼福だ、とリメラは目を優しく細めてシュリを見つめる。
シュリはとにかく食べるのに全力を傾けているので、そんなリメラの眼差しにまるで気づく様子もない。
そんなところも可愛らしいと、リメラは飽くことなくシュリを見つめるのだった。
ちなみに、リメラはシュリを膝に乗せているのだが、わざと向かい合わせに座らせ、不安定なシュリの姿勢が崩れないように手で支えている状態だ。
なぜ、その格好なのか。
それは、シュリの可愛らしさを余すことなく見つめていようという、リメラの欲望からだった。
そして、今現在、そんなリメラの思惑通り、シュリの可愛らしさは無限大だった。
サンドイッチをぎゅむっと口に押し込んで、もっちゃもっちゃと食べている様子はまるで小動物の様で可愛いし、グリフォンの着ぐるみは文句なしに似合っている。
許されるのであれば、いつまでだって見ていられそうだった。
「リメラ、おねえさん??」
「んあっ!?あっ、ああ。なんだい、シュリ」
ついついシュリに見とれていたリメラは、不意に呼びかけられてちょっと慌てた。
シュリはそんなリメラを不思議そうに見上げ、自分の手では届かない場所においてあるコップを指さす。
「あれ、とってもらえますか??」
「もちろんだとも。さ、ゆっくりお飲み。牛の乳だよ。小さい子が飲むと大きくなるっていわれてる。私もよく飲むんだが、結構おいしいものだよ」
リメラがとってくれたコップを受け取りながら、シュリはさりげなくリメラの胸元へ視線を向けた。
(小さい子が、大きくなる、ね)
リメラのそこは、平野とまではいわないが、きわめて緩やかな丘陵だった。
(僕は別に小さくても良いと思うんだけどなぁ)
そんなことを思いながら、こくこくと喉を鳴らして白い液体を一気に飲んだ。
ぷはぁっと乳臭い息を吐き出してコップをおろすと、くすくすと笑いながら、リメラがシュリの口元を拭ってくれる。
「おやおや。可愛い顔に真っ白な髭が生えてるよ?」
そんな風に言いながら。
シュリは大人しく拭かれてから、
「リメラおねえさん、ありがとうございます」
にっこり笑って丁寧にお礼の言葉を告げた。
それを受けたリメラはひょいっと片眉をあげて、
「どういたしまして。シュリは、礼儀正しいね。いい事だよ?」
にこりと笑うと、シュリの頭を撫でて再び恍惚とした顔をするのだった。
「ところでシュリ?」
「なんですか??」
「実はシュリにお願いがあってね。ただ、ちょっと恥ずかしいお願いなんだが、笑わないで聞いてくれるかい?」
「えっと、わかりました?」
食事が終わり、ちょっとまったりしていると、不意にリメラがそんな風に話しかけてきた。
ちょっと恥ずかしいお願いってなんだろう?と、小首を傾げながらも頷くと、
「シュリのお腹をちょーっとだけもふもふさせてもらえないだろうか?」
リメラがちょっと恥ずかしそうにそうお願いしてきた。
「お腹をもふもふ?別にいいですけど??」
なぁんだ、そんなことかと頷いたシュリが、両手を広げてお腹の辺りをオープンにすると、そうじゃないとリメラが首を横に振った。
じゃあ、どうすれば?と頭にはてなマークを浮かべるシュリの体をふわりと抱き上げ、ベッドの上へ。
そのまま仰向けに寝転がすと、きょとんとした顔のシュリを真上から見下ろして、リメラはにっこり笑った。
「えっと?リメラおねえさん??」
「よし、良いぞ、シュリ。ちょっとそのまま、降参のワンワンポーズで待機してくれ。なぁに、怖いことは何もない。あっという間に終わるからな?」
リメラの水色の髪がさらりと揺れ、彼女のほんのり上気した顔がどんどん大きくなってくる。
(やばっ!油断したっっ!!ちゅーされる!?)
反射的に目を閉じたものの、唇に触れてくるものは何もなく、お腹の辺りに暖かな何かがそっと押しつけられた。
(あ、あれぇ?)
拍子抜けしたような気持ちで目を開ければ、シュリのお腹に顔面をもっふり埋もれさせたリメラの頭のてんこちょ(てっぺん)が目に飛び込んできた。
そのまま、もっふもっふと顔面でシュリのきぐるみお腹を、リメラは存分に楽しむ。
そんな彼女の姿を見ながら、
(な、なぁんだ。ちゅーじゃなかったのか)
ほっとしたような、ちょっと残念なような、何とも複雑な気持ちでシュリはほうっと息をついた。
そうして少し気が抜けたら、お腹の辺りが何とも言えずむずむずしてきた。
リメラが鼻先をぐいぐい押しつけて、絶妙な角度でしつこくもふるせいで、くすぐったさがこみ上げてきたのだ。
ふくっとこぼれそうになった笑い声を何とか堪えつつ、
「リ、リメラおねえさん?もお、いい??く、くすぐったいです」
そう訴えてみたが、リメラの動きは止まらない。
むしろ、制止されたせいで更に激しい攻撃をしかけてきた。
なぜだっ!?と思いつつ、シュリはリメラの頭を何とか押しのけようと、その頭頂部を小さな手でぐいぐい押してみる。
だが、それで更に対抗心を刺激されたのだろう。
リメラのもふりは激しくなる一方だった。
「リメラおねえさん……ダメだよ。くすぐったいよ」
「もう少し、もう少しだけだから!!」
「もうっ、だめだってばぁ!!」
(こ、これって、もしかして、また[年上キラー]のスキルが悪さしてたりする!?)
ただの、もふもふ好きの気のいいお姉さんだと思ってたのにっ、とシュリは何とか止めようと努力したが、リメラの情熱はとどまるところを知らなかった。
まずいなぁ、どうしようかなぁ、困ったなぁと思っていると、やはり案の定いつものアレ。
・リメラの攻略度が50%を越え、恋愛状態になりました!
アナウンスを聞きながらシュリは思う。
[年上キラー]のスキルも、ちょっとは自重ってもんを覚えてくれないものか、と。
このまま順調に年上の女性たちが攻略され続けてしまったら、将来的に子供の出生率の低下なんて事も引き起こしそうで本当に怖い。
幸い、すでに心が定まっている相手まで問答無用で恋愛状態にしてしまうような極悪スキルでない事だけが救いだ。
ちなみに、攻略できないのはラブラブの相手がいるもしくは熱烈な片思いをしているような状態のみ。
すでに心が離れてしまっている場合の保障は残念ながら出来なかった。
何故そう思うのか。
それは立派に結婚してカイゼルと言う夫がいるのにも関わらず、攻略できちゃっているエミーユの例があるからである。
ラブラブの相手がいる云々についても、一応の確認はとっている。
シュリと一定時間接触してなお恋愛状態にならない女性を対象に、ジュディスを通して聞き取り調査を行った結果、結婚している又は結婚の予定がある人がほとんどで、そうじゃない場合でも好きな人がいるとか彼氏がいるとか、そういう人ばかりだった。
(あの事実を知ったときは、心底ほっとしたなぁ……)
痴情のもつれ(?)で前世の生を終えたシュリである。
今生では、出来ればそういったトラブルは避けて通りたいところだった。恐らく、いや絶対、無理な相談だとは分かっていても。
現実逃避気味にそんな事を考えていたら、何やら状況は更に悪化していた。
リメラはどうやら、シュリのきぐるみのお腹に隠されたトップシークレット……すなわち、開け閉めの為のボタンに気付いてしまったらしい。
何やらもぞもぞと不審な動きをするリメラに、
(そ、そこは、お願いだからそっとしておいてぇぇぇ!!)
心の中で叫ぶも伝わるわけもなく、きぐるみの鎧はあっけなく開かれた。
無防備なお腹に暖かな何かが触れてくるのを感じて、シュリは深い深いため息をもらすのだった。
思う存分シュリの着ぐるみお腹をもふることの幸福感に包まれながらも、リメラは時折感じる固い感触に内心首を傾げた。
その固い感触。
それはシュリのもふもふが天然ではなく着ぐるみであるが故の欠点。
ふかふかの毛皮に巧妙に隠された小さなボタン達であった。
着ぐるみが着ぐるみである以上、着たり脱いだりする時の為のボタンがあるのはある意味当然のことと言えた。
そのことに気づいたリメラは、そんな無粋なボタンなど外してしまえっと、勢いのままに驚くほどの早業で複数のボタンを外してしまった。
それがどんな結果を導くかなど、考えることもしないままに。
(よぉし。これで無粋なボタンももうない!いざっ!!!)
喜び勇んで、再びシュリのお腹に顔を埋めた。
だが、さっきとの感触の違いに内心首を傾げる。
もふはある。
だが、その中心部はつるりとして温かく、柔らかでなめらかな感触は触れていて何とも気持ちよかった。
(なんだ?この極上のさわり心地は!?)
驚愕の思いのままに、リメラは更に強く顔をその場所へ押し当てた。
頬を滑らせ、鼻先や唇でもその感触を確認していく。
ぷにっと柔らかで平らな面をたどっていくと、鼻先が小さなくぼみに行き当たり、口元になにやらふんわりと触れる突起物。
なんだろうと、更に顔をぐりぐりしてみれば、
「ふわっ!?」
と頭上からシュリの何とも言えない声が降ってくる。
(うん?どうしたのかな??)
リメラが内心首をかしげて顔を上げると、シュリは子供のくせに妙に色っぽく頬を上気させ、目を潤ませてリメラを見ていた。
ちょっと睨まれている気がするのは気のせいだろうか。
いや、気のせいではあるまい。
さっきはちょっと調子に乗りすぎて、少々やりすぎてしまった。
それもこれもシュリのもふっ腹が魅力的すぎたせいなのだが、一応謝っておかねばなるまい。
そうしなければ、もう二度ともふもふさせてもらえないかもしれない。
それはなんとしてでも避けなければならない事態だ。
そんなことを考えながら、不意にシュリのお腹に目をやったリメラは、あれぇ?と首を傾げた。
さっきまで、もふもふ一辺倒だったその場所がはだけて、シュリの肌色のお腹が丸見えになっている。お腹どころか、その更に下の方までも。
「シュリ?つかぬ事を聞いても良いかい?」
「……なに?」
「シュリはどうしてパンツをはいてないんだ??」
「このお着替えはおばー様の仕業です。文句ならおばー様に言ってください!!」
なぜだか、シュリはぷんぷんと怒っている。その理由は、推し量れなくもないが。
しかし、これはまずいなと思いつつ、なんとかシュリの機嫌をとらなくてはと頭をひねりながら、ついついまたシュリのお腹へ目をやってしまい、さっき堪能した極上の肌触りを反芻する。
そして思った。
(アレはコレだったのか……)
……と。
だが、不快感はない。
アレに触れた事実があってなお、シュリのお腹のふにすべ具合は完璧だった。
(うーん。なんていうか、あれだな……)
リメラは大きく一つ頷き、きりりと顔を引き締めて、
「ねえ、シュリ。もう一回、お腹にすりすりしていいかな!」
目線をシュリのむき出しのお腹にロックオンしたまま、欲望のままにそう口にした。
それを聞いたシュリの口元がひくっとひきつる。
そして次の瞬間、ちっちゃいけれど威力抜群のげんこつが、リメラの脳天にがつんと落ちたのだった。
しばらくして。
「ふぅ~。さっぱりしたぁ。シュリ、リメラ、お待たせ~……って、ええっ!?」
お風呂を終えて帰ってきたフィリアは、ドアを開けた瞬間、驚いて目を見張った。
そこには、僕怒ってますとばかりに、可愛らしくほっぺたを膨らませるシュリと、その前にひれ伏すリメラの姿。
「ちょ、ちょ、ちょっとぉ!?私がいない間にいったい何があったの??」
「姉様のお友達は変態さんです。僕、もうおむこに行けません」
慌てて訪ねるフィリアに、シュリがぷんすかと答える。
「へ、変態ぃ??お、おむこにいけないって……ま、まあ、シュリは何があっても私がお婿に貰うからいいとしても、いったい何をやったのよ、リメラ!?」
「くっ、フィリア。それは聞かないでくれ。それほど深刻な事かと聞かれれば、それほどでも無いように思うのだが、しかし、私がシュリを傷つけたのは事実っ!!すまなかった!シュリ!!!」
がばり、とリメラが頭を下げる。
しかし、シュリもそう簡単に許すつもりはなく、つーんと顔を背けて、
「しりません!!」
ぷいっと答える。
だが、リメラとてここで引き下がる訳にはいかない。
なんとしてもシュリに許して貰おうと、頭を床にこすりつけた。
「ほんっとーに申し訳なかった!!反省してるっ。このとーりだっっ。君の奴隷にでも何でもなるから、どうか許してくれないか!?」
「ど、奴隷って……リ、リメラぁ!?」
リメラの思い切った謝罪に、おろおろするフィリア。
シュリはまだちょっぴりほっぺたを膨らませたままちらっとリメラを見て、
「奴隷なら、間に合ってますよ」
ぼそっと呟いた。
「奴隷なら間に合ってるって、えええっ!?シュリ、それってどういう……?」
そんなシュリの呟きを耳聡く聞きつけたフィリアがうろたえた声を上げる。
「あ、えーっと。ち、違うんですよ?姉様!僕が言いたかったのはですね。えーっと、奴隷は良くないと思うな~というよーな意味で、ですね」
「な、なぁんだ。そうだったのね。そ、そうよねぇ。シュリが奴隷を持ってるはずなんて無いもの」
シュリの苦しい言い訳に、フィリアはほっとしたように無邪気な笑顔で微笑んだ。その一点の曇りも疑いも無い笑顔を前に、
(い、言えない。僕には普通の奴隷どころか、愛の奴隷が三人もいます……なんて)
シュリは乾いた笑いをこぼしながら、そんな真実を胸の奥にそっと、押し隠すのだった。
「奴隷がダメなら情婦でもいいぞ!私の体を好き勝手にしてくれてかまわない。だから、許さないなんて、言わないでくれ!!」
「もういいですよ……」
リメラのすがりつくような謝罪に、シュリは肩をすくめて吐息をもらす。
「も、もういいって、お前なんかもうどこへでも行っちまえと、そういう……」
「ち、違いますって!!あなたの中でどこまで非情な人間なんですか!?僕は。そんな訳ないでしょう?」
「じゃ、じゃあ……?」
「いいですよ、もう。許してあげます。べつに元々そんなに怒ってないですし」
唇を尖らせてそう言えば、みるみるうちにリメラの顔が輝きを取り戻す。
リメラはがばぁっとシュリに抱きついた。
そして歓喜の声を上げる。
「ありがとう!ありがとう、シュリ!!好きだ!愛してる!!永遠の愛を誓うから私と結婚してくれぇっ!!!」
「なっ、なにをどさくさに紛れて!?イヤですよっ。結婚なんてしませんって」
「そんな冷たいこと言わずに。私は料理も上手いし頭もいいし、経験はないがきっと床上手だ!!優良物件な事は確約する!!!」
「うわっ、うさんくさっ!!第一、経験無いのになんで床上手だって言い切れるんですか!?イヤですよ!!いーやーだー!!姉様!助けてください!!姉様っっ!!」
「あ、あ、えっと、えーっと。シュ、シュリは私のお婿さんだからリメラとは結婚出来ないんだから!!無理言ってシュリを困らせちゃダメなんだよ」
シュリの助けに応じて、フィリアがふんすと可愛らしく鼻息を吐き出しながら参戦する。
だが、相手の方が一枚上手だった。
「フィリア。第一夫人は君に譲ろう。君が正妻だ!君とてシュリほどの男を独り占め出来るとは思っていないだろう?私は二番目以降でかまわない!!」
「え、え?わ、私が正妻?で、リメラは二番目以降……それなら、問題はない、のかしら??」
「だ、だめだよぉっ!!姉様、リメラの口車に乗せられちゃ!!」
「おおっ。早速呼び捨てかい?愛しの旦那様」
「誰が旦那様だぁぁっ!!」
「だ、旦那様……良いかも。わ、私も呼んでみようかな」
「ちょ、姉様っ!フィリアっっ!!!帰ってきてぇぇっ!!!」
とまあ、そんな騒動は結局明け方近くまで続いた。
(僕、なんのためにここに避難してきたんだろう……)
騒動が終結し、眠りに落ちる寸前、シュリはそう思ったとか。
全ては後の祭りということである。
因みに、リメラの攻略度はあっという間にメーターを振り切ったようで、疲れ果てたシュリがさて眠ろうかとしたタイミングを狙ったかのように愛の奴隷にするかどうかの選択を突きつけられたのだが、シュリは即座にお断りの選択肢をぽちっと押したのだった。
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