第九十九話 職業を決めよう!

 ジュディスとシャイナとカレンはすぐに駆けつけてきた。

 その結果、ヴィオラの部屋には現在大人4人と子供が一人詰め込まれた状態だ。

 狭い部屋では無いが、少々圧迫感はある。

 そこで、シュリはテーブルやイスをいったん脇に避けさせて、床を広く使うことにした。


 シャイナ達、メイドがいつもきれいに掃除してくれている床に、シュリはせっせと書いておいた職業の名前を一枚一枚並べていく。

 数は数えるのが面倒くさいから数えていない。

 却下したものから廃棄していけば、結果的に最終候補は絞られていくことだろう。

 全ての紙を並べ終え、シュリはふぃ~っと額の汗を拭う仕草。

 それから自分の周りにいる4人の大人を見上げた。



 「はいっ、じゃあ、とりあえず、ここにある職業をよーく見て貰って、僕に合いそうな職業をまずは一つずつ上げて貰おうかな」



 そう言ってから、シュリはちょっぴり脇へ避けて、彼女たちが良く吟味できるように場所を空ける。

 それを合図とするように、それぞれが身を乗り出し、熱心に職業の書かれた紙を見始めた。

 そんな彼女たちの様子をしばらく眺めた後、



 「どう?これだっていう職業を見つけた人は手を挙げて発言してね?」



 シュリはおもむろにそう声をかける。



 「はい!」



 最初に手を挙げたのはジュディスだった。

 彼女は鼻息も荒く、得意げに一枚の紙を握りしめている。

 なんだかイヤな予感がしないでも無かったが、彼女たちに意見を求めたのは自分だと己に言い聞かせ、



 「はい、ジュディス。何を選んだの??」



 そう、問いかけた。



 「私が選んだ職業、それは夜の帝王、です!私達全てに愛を与えて下さるシュリ様には、これ以上ない職業かと」



 そう言って、とってもいい笑顔で笑った。

 シュリは笑顔のまま固まり、そっと天を仰ぐ。

 それからふくっとした指先でこめかみをもみながら、



 「はい~、却下」



 即座に却下した。



 「な、なぜですか!?シュリ様!!」



 驚愕した表情で詰め寄るジュディスに、



 「なぜもなにも、僕は夜の帝王になんかなるつもりないもん」



 言いながら手を伸ばし、ジュディスが握っていた紙を取り上げて、くしゃくしゃポイっとしてしまった。

 あああ……と崩れ落ちるジュディスをそのままに、シュリは他の面々に顔を巡らせる。



 「じゃあ、つぎ行こうか!」


 「では、次は私が……」



 シャイナが小さく手を挙げて、そっと折り畳んだ紙を差し出してきた。

 シュリは受け取り、それを開く。

 そこには大きくこう書かれていた。色事師、と。

 シュリは笑顔のままそれをびりびりと破り捨て、



 「はい、つぎ~」



 とシャイナの主張を無かった事にした。

 ううっとシャイナが崩れ落ち、残るは後二人。



 (おばー様はちょっと読み切れないけど、流石にカレンはまじめに選んでくれるだろう……く、くれるよね!?)



 そんなことを思いながらちらりとカレンを見れば、凄く熱心に一枚の紙を見ている姿。

 そのままじぃ~っと見つめていると、その視線に気づいたカレンはとても慌てて、今まで見ていた紙とは別の紙をシュリに差し出してきた。



 「こ、これでどうですか?シュリ君。シュリ君にぴったりだと思うんですが」



 そこに書かれていた文字は、勇者。

 悪くは無いが、いかんせん、こんなのを職業にしていたら目立ちすぎる。



 「悪くは無いけど、目立つのはちょっとね。だから却下」



 そう告げて、勇者の紙を回収し、そのままカレンに向かってもう片方の手を伸ばした。

 それを見たカレンの顔が、ぎくりと強ばる。



 「はい、じゃあ、カレン。もう一個の候補もちょうだい?」


 「えっ?いや、あの、そのっ、こ、これはぁ……」


 「いいから、僕に見せて?」


 「うぅ……はいぃ」



 半泣きのカレンから渋々渡された紙を開いて見る。

 そこに書かれた文字は、巷の種馬プレイボーイ。

 どうしてこんな職業があるんだろうと疑問に思うような職業だった。

 さっきも書き出していて、書こうかどうしようか迷ったのだが、誰も選ばないだろうと思いつつ一応書いておいたのだ。

 しかし、まさか選ばれてしまうとは。



 「かれん……」



 じとーっと彼女を見つめると、彼女は羞恥に耐えきれなかったのか、ごめんなさい~っと真っ赤な顔を両手で覆ってしゃがみ込んでしまった。

 それにしても、とシュリは三人の愛の奴隷を順繰りに見つめる。



 (みんなの中で僕ってどんな位置づけなわけ??夜の帝王で、色事師で、種馬なの??)



 そう言う意味で求められているのはわかっているつもりではあるが、わかってはいてもいかんせん肉体年齢が追いつかない。

 今の時点でそんな職業を身につけたところで、まだ役に立ちもしないと言うことがわからないのだろうか?

 まあ、わかっていてもついつい選んでしまったというのが、真実のような気もするけれども。

 シュリは、は~っとため息をつき、それから最後の希望とばかりにヴィオラを見上げた。



 「おばー様……」


 「わ、私は大丈夫よ?変な職業は選んでないもの。……たぶん」



 ちょっと自信なさげにそう言って、はい、とシュリに紙を差し出してきた。

 シュリは受け取り、意を決して開く。



 「おばー様?」


 「な、なに?」


 「おばー様は、いったい僕をどうしたいの?」


 「や~、えーっと、なんかかっこいいなぁって思って……」



 シュリのじと目に耐えきれず、ヴィオラは気まずそうに目線をそらした。

 シュリは何とも言えない気持ちで肩を落とし、手元の紙に目を落とす。

 そこに書かれた文字は、暗黒龍。もはや人ですらない職業だった。



 (ほんと、みんなは僕をどうしたいんだろうね~……)



 シュリは遠い目をして、手の中の紙切れをくしゃっと握りつぶした。






 途中、女神様達の乱入があったものの、何とかシュリの職業問題には決着が付いた。

 ちなみに、女神様達の乱入はこんな感じである。



 『シュリの職業は、運命の女神の使徒がいいと思うよっ!ボクとの愛が深まるからね!!』


 『シュリに一番ふさわしいのは、愛と美の女神の使徒だと思うなぁ。今よりもっとアタシとラブラブになれるし!』



 もちろん、即座に却下した。

 書き出してあった紙も、しっかり丁寧に握りつぶしておく。

 選んで欲しくない職業など、最初から書き出しておかなければ良かったのに、ついつい全てを書き出してしまった自分の真面目さがうらめしい。

 そのせいで、無駄に落ち込んでしまった。


 最終的に、残った候補の中から、シュリは普通を逸脱しない範囲で己の要望に合った職業を選んだ。

 シュリの職業はなぜか変わったものが多く、選考にはとても苦労させられたが。

 いつもは有能な愛の奴隷三人も、SSダブルエスの冒険者も、結果ほとんど役に立たなかった。

 彼女たちの選ぶものは、正直使えない……否、使いたくない職業がとにかく多かった。

 そんなわけで、彼女たちが推薦する候補を片っ端から蹴っていった結果、候補となる職業は極端に絞られた。



 「これで、どうかな?」



 シュリが広げた紙を他のみんなが覗き込むように見て、



 「そうですね。正直なところ、夜の帝王が一番だとは思いますが、そちらも悪くないかと」


 「はい。いいんじゃないでしょうか?……色事師も、良かったとは思いますが」



 まずは往生際の悪い二人が賛同し、



 「いいと思いますよ、シュリ君。面白そうな職業じゃないですか」



 カレンが素直に賛成の意を表明してくれる。

 最後に、ヴィオラはシュリの手からその紙を取り上げて、じっくりと眺めてから、



 「ま、いいんじゃない?初めての職業にしたら上等だと思うわよ?普通だと手に入らないスキルも手に入るだろうし。ま、シュリの場合はレベルがレベルだから、能力補正とかはあんまり気にしないで、やってみたい職業をやってみるのもいいだろうしね」



 と頷いた。

 まあ、大魔王とか覇王とか英雄とかでも良かったかもしれないけどね~とちょっと目立ちすぎるという理由で却下された職業にも未練はあったようではあるが。

 そんな感じに、一応全員の同意を得られたので、シュリは早速[職業選択の自由]のスキルを起動する。

 目の前に、職業選択画面が展開されたので、シュリは迷わずその職業を選択した。



・職業を[ビースト・テイマー]に変更します。よろしいですか?

 →ハイ

 →職業を[ビースト・テイマー]に変更しました。



 そんな手順を踏んで、シュリは無事、無職では無くなった。

 残った候補の中には、戦士や魔導師、狩人や治癒師といったような、無難な職業も色々あったが、最終的にはシュリのちょっとした欲望に後押しされた結果でもある。

 シュリの欲望、それは。

 忠実でもふもふした可愛いペットに癒されたいー年上の肉食女子に日々愛されすぎているシュリの望みはそんなささやかなものであった。

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