第八十八話 SS 運命の女神様頑張る!

 ガナッシュ事件の解決から数日が過ぎて。

 女神様達からの圧力がスゴくなってきたので、シュリはとりあえず運命の女神様の方からコンタクトをとってみることにした。


 特に理由はない。

 愛と美の女神様より運命の女神様をより尊敬していると言うわけでももちろんない。

 まあ、強いて言うならば順番だから、だろうか。

 とまあ、そんな理由で運命の女神様を選んだシュリは、心の中でそっと祈りを捧げる。



 『女神様、女神様。運命の女神様。ご都合よければ、会いに行こうと思いますが……?』


 『……フェイトって、名前で呼んでほしいって言ったよね?ボクは』


 『あ、ご都合悪いなら、先に愛と美の女神様のところに……』


 『あー、ちょ、ちょっと待って!冗談っ!冗談だから!!』



 慌てたようなそんな声が聞こえたと思ったら、シュリは殺風景な不思議空間に招かれていた。

 薄いブルーの空間は、殺風景ではあるが、愛と美の女神様のピンクの空間より随分ましだ。

 そんな事を思いながら、シュリはきょろきょろとあたりを見回した。

 肝心の運命の女神様の姿が見えないのである。



 「運命の、女神様?どこですか??」


 「相変わらず他人行儀だな、シュリは。もっとフランクに頼むよ、フランクに」



 そう言って現れた女神様の格好に、シュリは目をまあるくした。

 そして首を傾げてまじまじと彼女を見つめながら、



 「女神様。なんでバスタオルを巻いてるんですか?」



 疑問のまま素直に問いかける。



 「あー、うー……これは、だね。その、せっかくの機会だし、シュリにボクのポテンシャルの高さを見ておいて貰おうかと」



 ちょっと照れくさそうに答える運命の女神様の様子に、シュリはこの間両女神様がシュリの頭の中で言い合っていた内容を思い出した。

 確か、色気が無いだの、脱げばスゴいだの、と。

 シュリはぽんっと手を叩いた後、ちょっと困ったように女神様を見上げた。



 「女神様。お気持ちは大変ありがたいんですが、裸でお迎えされるのはちょっと……」


 「は、はだかぁぁ??」



 シュリの言葉に女神は目をむいて、だがはたと己の体を見下ろすと、わたわたと手を振り回して言い訳を始めた。



 「や、ち、違うんだ、シュリ。これはだな、別に裸でお出迎えとかそう言うんではなくて……ちゃ、ちゃんと着てる!着てるんだよ!!」


 「着てるんですか??」


 「もちろん、着てるともっっ!!!」


 「なあんだ。脱げばスゴいとかおっしゃってたのでてっきり……」


 「えっと、まあ、着てることには着てるんだが、その、なんていうか……うーと、見て貰えば早いのか」



 ぶつぶつとそんな独り言を言い、女神様はちらりっとシュリを見る。

 少し恥ずかしそうに、目元を赤く染めながら。

 ばちんっと目が合い、シュリが再度首を傾げて見せると、女神様は心を決めるように一度目を閉じた後にカッと見開いて、女神は度胸だ!!と吠えた。

 そして、潔く己の体に巻いたバスタオルに手をかけると、それをばっと外したのだった。


 タオルの下は、確かに彼女の言うとおり、裸ではなかったが、服を着ているというのとも少し違っていた。

 あえて言うなら極端に布地が少ない。しかし、どうやら下着では無いようだ。

 シュリはまじまじとそれを見つめ、



 「……もしかして、水着?」



 ぽつりとそう呟いた。



 「そ、そうなんだ!キミの世界の水着って衣装を真似して用意してみたんだけど……どうかな?」



 もぢもぢと、運命の女神様がちょっと恥ずかしそうに問いかけてくる。

 シュリは、やっぱり水着かぁと思いながら、彼女の姿をじっくりと眺めた。


 形状としてはビキニ、である。

 色はなぜかレインボーカラー。彼女の髪の色もそうなので、女神様の好きな色なのかもしれない。

 似合ってないとは言わないが、何とも言えず派手だった。

 女神の求める感想がどの辺りなのか、ちょっと掴みきれなかったので、まずは素直に水着の感想を述べてみることにした。



 「派手?」



 身も蓋もない感想に、女神様ががっくり肩を落とす。求める感想はこれでは無かったようだ。

 シュリは頷き、次の感想を唇に乗せる。



 「でも、似合ってますよ?ステキです」



 嘘ではない。似合ってるし、いい感じだとも思う。

 ただ、ちょっとばかし派手なだけだ。そこにさえ目をつぶれば……うん、そんなに悪くない。

 その感想に、女神はぱっと顔を輝かせた。



 「そ、そうかい?やっぱりそう思う??」



 嬉しそうな女神の問いに、シュリは反論することなくこっくりと頷いておく。

 これが処世術と言うものだ。

 そんなシュリの反応に、女神様はうんうんと頷き、だが再びちらりとシュリを伺うように見ると、



 「えっと、誉めてくれて素直に嬉しいんだけど、その、こ、こっちはどうかな?」



 そう言って露骨に胸を突きだしてきた。

 シュリの方へと身を乗り出すようにして。



 「こっち??」



 女神の求めることがつかめずに首を傾げれば、



 「ボクとしては、中々イイ線をいってるとは思うんだ。確かにボリューム感はあのハレンチ女神に劣るかもしれないけどさ。シュ、シュリは、そのう、どう思う?やっぱり大きければ大きいほどいいものなのかい?」



 彼女はちょっと不安そうにそう問いかけてきた。

 そこまで言われれば、さすがにちょっと鈍いところのあるシュリでもぴんとくる。



 (あ~……おっぱいかぁ)



 そう、おっぱいである。

 シュリは目の前にある女神様のお胸をじっと眺めた。

 確かに、ロリ巨乳ともいえる愛と美の女神様の胸よりは控えめだ。

 しかし、女性の魅力を訴えるに十分なだけのボリュームは備えているし、形もいい、と思う。

 少なくとも、シュリが前世でもっていたモノよりはご立派である。


 まあ、世間一般の男に関して言えば、小さいより大きい方がいいと言い切る人は多いだろう。

 だが、シュリ自身は正直に言ってしまえば、特におっぱいに関するこだわりはない。

 赤ん坊らしく、おっぱいはもちろん好きだが、大きさに関して言えば、大きいのも小さいのもどちらでもいいと思うのだ。

 ミフィーのおっぱいは控えめだけど可愛くて好きだし、かといってマチルダの大きなお胸も吸い心地とさわり心地が最高だときっぱりと言い切ることは出来る。


 つまり、シュリが言いたいのはこう言うことだ。

 おっぱいに貴賤はない。小さいのも、大きいのもどちらも素晴らしい。

 女性の胸は、ただそこにあるだけで愛と希望が詰まっているモノなのだ。

 たとえ、限りなく平野に近い膨らみであろうとも、女性の胸であるだけで尊いのである。

 それがシュリの持論であった。


 だから、シュリは素直に答える。

 目の前に差し出された胸をそっと手の平で愛でながら。



 「僕は大きくても小さくても、どっちも好きです。けど、そうだな。あなたのココは、あなたらしい魅力がちゃんとあって、僕は好きですけどね」


 「んっ……大きいのも、小さいのも好きって……どこのおっぱい魔神だよ、キミは……」



 運命の女神は、小さな手に胸を触られている刺激に耐えながら、拗ねたように唇を尖らせてシュリを見る。

 その表情が、何とも言えずに可愛く見えた。

 シュリは微笑み、手の平を更に滑らせる。刺激を受けて、存在を主張しはじめた場所に向かって。



 「ほら、ここも……」


 「んっ、んぅ……」



 言いながら指先で優しく摘めば、女神は切なそうに眉を寄せて、その瞳を潤ませた。



 「とても、可愛いですよ。女神様?」



 いたずらっぽく女神の顔を見上げれば、彼女は再び唇を尖らせて、



 「う~……名前……それに敬語も……」



 そんな不満を訴えてくる。

 その子供っぽい言いようが何とも可愛く思えて、シュリは思わず笑ってしまう。やっぱり、この女神様、結構好きだなぁと、決して本人には聞かせられないことを思いながら。

 そんな事を本人に伝えれば、いい気になった女神様に無理難題をふっかけられそうだと内心苦笑しつつ、シュリは女神の魅力的な膨らみを撫でながら、



 「分かったよ、フェイト。これで、いいんでしょ?」



 そう言って可愛らしく微笑みかけた。

 シュリの言葉と笑顔の効果で運命の女神ーフェイトの顔に一気に血が上る。

 そしてそれが合図であったかのように、



 ・フェイトの攻略度が50%を越え、恋愛状態となりました!



 そんなアナウンス。

 シュリは思わず遠い目をした。年上キラーの効力って、神様も除外されないんだなぁと思いながら。

 そんなシュリに追い打ちを駆けるように再びアナウンスが。



 ・女神のハートを鷲掴みにしたあなたへ……。[女神を堕とせし者]の称号が贈られました!



 (女神のハートを鷲掴みって……。時々感じるけど、このアナウンスってたまにちょっとおかしいよね!?)



 思いつつ、シュリはステータス画面を開いてみた。



 (えーっと、なになに?)



 ・[女神を堕とせし者]女神を籠絡した者へ贈られる称号。この称号を持つ者は、女神の加護を受けやすくなる。女神の恩恵の効力向上(小)



 (女神の加護を、受けやすく……?)



 それはつまり、これから先、色々な女神に目を付けられやすくなると言うことだ。

 普通なら、喜ぶべきところなのだろう。だが。


 シュリは目の前にいる派手な水着姿でうっとりと自分を見つめてくる運命の女神を見つめ、それから、これまたど派手ピンクのロリ巨乳女神の顔も思い浮かべて、吐息を漏らす。

 どう考えても、やっかいごとの臭いしかしなかった。


 なんと言っても今までにあった二人の女神はとにかく個性が強く、二人でも大変そうなのに、更に増えるのは出来れば遠慮したい。

 心からそう思い、加護の申し込みがあったら出来る限りお断りするようにしようと、すれている様で実は純情な運命の女神様を篭絡したシュリは、真面目な顔で大層罰当たりなことを真剣に考えるのであった。

  

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