第七十三話 状況の整理と想いの確認と
シュリは話した。
シャイナがかつて仕えていた人物であり、ルバーノを乗っ取ろうと画策する男のことを。
ガナッシュ。
シュリを排除しようとしているだけでなく、シュリの家族に、姉様達にも手を伸ばそうとしているゲスな男。
自分の事だけなら、防御だけに徹することも出来た。
だが、家族に手を出そうとするのなら話は別だ。積極的に迎撃せねばならない。
真剣に、そんな話をするシュリを、カレンは目を細めてまぶしそうに見つめ、
「シュリ君はルバーノ家の皆様が大好きなんですね。分かりました。私に出来ることなら何でもしましょう。ジュディスさんが僕その一でシャイナさんがその二なら、私はきっとシュリ君の僕その三と言うことになるんでしょうし。シュリ君を大好きな一人の女としても僕としても、精一杯力になると誓います」
そう言うと、片膝を付いてシュリのぷくっとした手をとるとその指先にそっと唇を落とした。騎士が主に忠誠を誓い、そうするように。
そして、改めてジュディスとシャイナに向かい合うと、カレンは丁寧に頭を下げた。
「ジュディスさん、シャイナさん。これからよろしくお願いします。新参者ですが頑張ります。いろいろ教えて下さい」
「良い心がけだわ、カレン。私達はそれぞれ得意なことが違うけど、だからこそしっかりとシュリ様を支えていける。私は肉体労働より頭脳労働の方が得意だわ。だから、シュリ様の参謀として役立てるように努力していくつもり」
「なるほど。では、私は隠密性と機動性でしょうか?まあ、メイドという職業上、密偵としても役立てるとは思います」
「なら、私は戦闘力ですね。これまで以上に剣の腕を磨いて、シュリ君の剣となり盾となりましょう」
三人の言葉を聞きながら、シュリは思う。これで駒は揃った、と。
シュリを入れて4人の、こじんまりした戦力ではあるが、地方貴族のボンボンを相手にするだけなら十分すぎるほどだ。
シュリは頷き、
『みんな、ありがとう。すごく頼りにしてるよ。あと、一応注意事項だけど、シャイナの情報によると、ガナッシュには愛と美の女神の加護があるらしい。それで、これは予想でしかないんだけど、恐らく魅了系のスキルをもっていると思う』
そんな注意事項を念話で告げる。
「魅了、ですか?」
カレンが首を傾げ、
「私はガナッシュと面識がありますが、あの男が妙に魅力的に見える事がありました。思えば、アレが魅了だったのかも知れません」
シャイナがそう報告する。
「なるほど。しかし、私達はこれ以上ないほどにシュリ様に魅了されています。ですから、他の男に魅了される心配はないでしょう」
『いや、魅了のスキルだし、分からないよ?一応、用心を……』
得意げなジュディスに一応注意を促すと、彼女は心外だとばかりにくわっと目を見開いた。
「シュリ様は私達の愛が、魅了のスキルなどと言う無粋なものに負けるというのですか!?私達の愛を信じてないと!?」
ジュディスが叫び、シャイナが信じられないという顔でシュリを見て、カレンはちょっぴり悲しそうな表情を。
『いや、みんなの愛は信じてるよ?これ以上ないほどに愛されてる自覚はあるけど、だってスキルだし。魅了ってはっきりいって状態異常でしょ?他に好きな人が居ようと関係ないんじゃあ……』
慌ててそう伝えれば、ジュディスは大丈夫ですと力強く頷いて、
「私達の愛が状態異常に負けるはずありません。だって私の想いは、下手な状態異常よりよほど強力ですし」
「同じく」
「私も」
ジュディスの言葉にシャイナとカレンも口々に同意しながら頷く。
状態異常より強力な愛って、それってすでに状態異常じゃないの??、と彼女達の愛を己のスキルで増幅している自覚のあるシュリは何とも言えない顔をし、それを見たジュディスは何を思ったのか、
「私の愛は生涯シュリ様だけのものです。他の男に分ける余地などかけらもありませんから、どうぞ安心して下さい」
そんな宣言と共に、きらきらした目でシュリを見つめた。
それを聞いた残りの二人も、
「私も、これから先のすべての愛と忠誠をシュリ様に捧げます」
「こんなに好きになったのはシュリ君だけです。それはこれから先も絶対に変わらないですから」
それぞれの言葉でそう伝えてきた。
シュリはちょっとジーンとしながら三人の顔を見上げ、
「ぼくも、みんな、だいすき」
天使のような笑顔で、心からの言葉を伝えた。
三人はうっとりとシュリを見つめ、
「こんなに素敵で可愛らしいシュリ様に加護を与えないなんて、愛と美の女神の男を見る目も大したことありませんわね。シャイナ、ガナッシュ・クリマムは、それほどいい男なのかしら?」
「ガナッシュなど、シュリ様の足下にも及びません。見た目はそこそこですが、ゲスな品性がにじみ出ていて、魅了のスキルがなければ女にモテることもないに違いありません。私など、あいつの顔を思い浮かべるだけで鳥肌が立つほどです」
ジュディスとシャイナはそんな会話を交わす中、カレンは一人静かに己の鼻を押さえ、懐からハンカチを取り出してそっとこぼれ落ちた鮮血を拭うのだった。
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