第六十九話 理解しました。けど!
(わかってくれた?)
「はい、理解しました」
気絶したジュディスは、幸いなことにすぐに目を覚ましてくれた。
目を覚ましたジュディスに、シュリは念話で問いかける。もちろん、[猫耳]は解除した状態で、だ。
折角目を覚ましたのに、またすぐ気絶されてはたまらない。
ジュディスはシュリの頭に猫耳が無いことを確認して、少し残念そうな顔をしたものの、落ち着いた様子で素直に頷いてくれた。
「つまり、アレですね?シュリ様がそこのメイドに挿入されたのは、さっきの非常に愛らしいしっぽだった、と。その認識で間違いはないでしょうか?」
「う!(うん)」
「ええ。間違いありません」
ジュディスの問いに、シュリとシャイナは揃って頷く。
それを確かめたジュディスもうんうんと頷き、それから妙に良い笑顔をシュリへと向けた。
「で、私にはいつ入れていただけるんでしょうか?」
そして出てきたのはそんな言葉。
シュリはきゅっと首を傾げた。あれ?納得してくれたんじゃないの?、と。
「う??(はい??)」
「もちろん、私にも入れていただけるんですよね?シュリ様」
シュリの困惑をまるっと無視してそう問いかけてくるジュディスに、
『え?いや、その、えーっと……ジュディス?あれはそう言う用途の為のものじゃなくてだね……』
シュリは言葉を選びつつ答えを返す。
だが、そんなことで撃退されてくれるほど、ジュディスは甘くはなかった。
「でも、問題なく行為を行えるんですよね?現にシャイナとは事に及んだ訳ですし?シャイナ、問題は無かったんですよね?」
「はい。むしろ、大変いい具合でした!」
『いい具合って……シャイナ……』
シュリの力ないつっこみに答える様子もなく、シャイナは嬉々としてジュディスとシュリのアレの使用感について語っている。
熱心に話を聞いては質問を挟んでいるジュディスの爛々とした肉食獣の様な目が怖かった。
(これが世に言うガールズトークってやつなんだろうか……)
一般女子が聞いたら誰もが力強く否と答えるような事を考えつつ、シュリはあきらめの眼差しで、二人の愛の奴隷を眺めた。
そして思う。こんな欲望にまみれたガールズトークなんてイヤだ、と。
女同士の会話とは言え、二人の間で交わされているものをガールズトークといっていいかと言えば正直微妙だ。
しかし、前世でも一般的なガールズトークの経験なく過ごしてしまったシュリには、判別出来るものではなかった。
「で、私にはいつ入れていただけるんですか?シュリ様」
シャイナとの情報交換に満足したのか、最初の質問にループしたジュディスが、期待に満ちた眼差しを向けてくる。
そんなにわくわくした顔で見られても、と思いつつ、シュリはジュディスの状態を確認する。
なんやかんやで悲しみ状態は脱したようで、今のところ状態異常は大丈夫そうだ。
だが、すげなく断ってしまうと、ジュディスの悲しみメーターが再び鰻登りしないとも限らない。
ここは慎重に対処しなければと、シュリはジュディスを見上げた。
「じゅでぃ?」
「はいっ!私はいつでも準備OKです!!」
「ごほーびなら、いーよ?」
「ご褒美、ですか?」
首を傾げるジュディスに、シュリは頷いて見せた。
『そう。ご褒美。僕が今日なんで二人を集めたか、その理由を考えれば分かるでしょ?当ててごらん』
念話に切り替え、そんなヒントを差し出せば、聡明なジュディスはすぐにはっとしたような顔をした。
「シュリ様を狙うという、不届き者の事ですね?その者を私が見事討ち果たしたらご褒美を頂けると?任せて下さい!すぐっ!!すぐサクっとヤってきます!!!」
そんなシュリの思惑から大分外れた勇ましい答えにたどり着いたジュディスが、今にも飛び出して行きそうな勢いで鼻息を荒くするので、シュリはあわててジュディスの袖をつかんで止める。
「じゅでぃ、まって?」
「シュリ様?」
なんで止めるんですかと、不満そうに見返され、シュリは何とも言えない赤ん坊らしからぬ苦笑を浮かべる。
そして内心そっとつっこんだ。
ジュディス、アンタはどう見ても荒事担当じゃなくて事務担当でしょ、と。
「じゅでぃは、さくせん。たたかうは、べつ」
念話ではなく、あえて言葉で伝えれば、
「ふむふむ。なるほど。頭脳派な私は作戦を立案して、戦闘は他の者にまかせよ、と?確かに、理にかなってますね」
ジュディスは見事なまでにシュリの言いたいことを読みとって翻訳してくれる。
すぐ横では、シャイナが感心したようにジュディスを見つめていた。
同じ愛の奴隷とは言え、つき合いの浅いシャイナでは、まだこうはいかない。
さすが、ジュディスである。
「でも、私じゃないなら誰を戦わせましょう?シャイナですか?」
「しゃいな、ちがう」
「私も、それなりに戦えはしますよ?正面切っての戦闘は少々苦手ですが。暗殺とか、隙をついて闇討ちとかなら」
シャイナが物騒な主張をしてくるが、シュリはシャイナを戦わせるつもりはなかった。
彼女も決して弱くはないが、敵は魅了のスキルをもっており、今はその影響を脱したもののシャイナがその影響下にあった事は事実。
その事が、戦いを左右する可能性は捨てきれない。
それに、シュリは自分を守って戦ってくれるであろう人物に、心当たりがあった。
「シャイナではないとすれば、一体……」
「かれー」
「カレー?それは南の方の郷土料理だという、アレですか?」
シャイナが首を傾げる。
正解ではないが、カレーが実在するという事実に、シュリはぱああっと顔を輝かせた。
まあ、シュリの知るカレーとこの世界のカレーが同じものとは限らないが、夢を見るのは自由である。
カレーがあのカレーなら、米もある可能性はある。
今は無理だが、ぜひとも調査をしたいと思わせる案件だった。
シュリはその事を心のノートにしっかりと書き留めて、話を進めるために再び口を開く。
「カレー、ちがう。えっと、かれ……かれん!!」
今度は正確に名前を発音することが出来た。その響きに、ジュディスが軽く目を見開く。
「カレン……確か一度、シュリ様とミフィーに会うためにここを訪れましたね?警備隊に所属する兵士でしたか。確か」
「う!かれん、たたかう」
「なるほど。カレンを味方に引き入れるんですね?確かに、兵士を職業としている者であれば、それなりに戦えるでしょうし、良いかもしれませんね」
「ふむふむ。じゃあ作戦は、そのカレンさんが正面から戦って、私が後ろから止めをさす、と」
『や、止めはいいから』
シャイナがまた物騒な事を言い出したので、シュリは苦笑混じりにそうつっこむ。
それを受けたシャイナは唇を尖らせて、
「え~。でも、それじゃあ私の働く場面がないじゃないですか。私もシュリ様のごほーびが欲しいです。なので、見せ場を希望します!!」
そんな何とも言えない主張をしてきた。
「はっ、見せ場!!という事は私も仕込み杖で横からグサっと……」
『しなくていーから!!』
とジュディスにもしっかりつっこみを入れて、シュリは二人に指示を出す。
『シャイナはカレンに渡りを付けて、呼び出しを。ジュディスは呼び出したカレンと僕達が誰にも邪魔されずに話せる場所を確保して、僕が無理なく外出出来るように根回しを。今回の事が無事に解決したら、二人ともちゃんとご褒美をあげるから、くれぐれも変な気を回して事態をひっかき回さないよーに。おいたをしたら、ご褒美はお預けだからね?』
きりりと厳しい表情のシュリを前に二人は、ご褒美を取り消されたらたまらないと神妙に頷く。
そしてシュリの話をきちんと最後までお行儀よく聞いてから、それぞれの役割を果たすために早速動き出すのだった。
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