第六十二話 新たなスキルは猫の耳!?
隠密なメイドさんの存在に気づいた日から、更に数日が経過した。
基本的に部屋から出られないシュリは、[レーダー]の機能を駆使してシャイナの様子を監視していた。
シャイナは日中は基本、ミリシアの傍にいることが多いようだ。
日によっては他のお姉様達の傍にいることもあり、彼女の立ち位置が良く分からなかったシュリは、素直にジュディスに聞いてみた。
ジュディスの話によれば、彼女はルバーノ家の分家筆頭ともいえるクリマム家の推薦、というかごり押しで屋敷に勤める事が決まったらしい。
お嬢様達の世話役にと押しつけられたメイドなので、そのままお嬢様付きとして子供達の世話を半ば任せているような状態の様だ。
クリマム家にはお年頃の息子がおり、カイゼルの娘達の婿養子を狙っているらしいとのこと。
お付きのメイドはその為の下準備だろうと、ジュディスは分析していた。
恐らく、メイドの口から息子の誉め言葉を事前に吹き込みつつ、それぞれのお嬢様の好みの品や趣味など、攻略の糸口となる情報を得るため、潜り込ませたのだろうと。
シュリが、シャイナの事を質問したので、ジュディスはちょっぴり焼き餅を焼いたようだが、そこは何とかはぐらかしておいた。
今はまだ、彼女の職業が隠密だという事は誰にももらしていない。
自分以外の手を借りるのは、もう少し色々ハッキリしてきてからにしようと決めていた。
彼女はあの日以降も、時折天井裏からシュリの様子を伺っていた。
だが、基本的にはちゃんと自分の仕事を優先させているようで、それだけでも彼女がとても真面目な性格をしていることは伝わってくる。
どうしても、彼女が悪い人間だとは思えなかった。
もちろん、家族に害を為すなら容赦をするつもりはない。
だが、出来れば彼女を説得して、味方に引き込みたいと考えていた。
メイドとしてもそこそこ優秀な人材の様だし、ミリシアや他のお姉様達もそれなりに彼女に懐いているようだ。
彼女が裏切ったりしたら、きっと傷つくに違いない。
お姉様達の為にも、シャイナ本人の為にも、そんな結末にだけはしたくないと、シュリは真剣に考えていた。
早く事態を収集して、彼女を名実ともにルバーノ家の隠密メイドとしたい、そう思ってはいるものの、中々思うような動きもなく時間だけが過ぎていく、そんな日がしばらく続いた。
気が付けば、シャイナの魅了状態も微弱となり、彼女を間者と思ったのは間違いだったかと思い始めた頃、状況が緩やかに転がりだした。
それはある夜の事。突然頭の中にアラート音が響き、シュリは飛び起きて[レーダー]を起動した。
「レーダー]の新機能が判明したあの日から、シュリはこのスキルの検証を行い、新たに便利な機能を見つけだしていた。
その機能の一つが、このアラート音である。
タップで指定した人物に条件付けし、その条件から逸脱したらアラームが鳴るようになっているのだ。
今回は、シャイナが屋敷の敷地から出たら鳴るように設定していた。
シャイナはこんな夜中に屋敷を抜け出し、どこかへ向かっている。
いよいよ事態が動き出しそうだと微笑み、シュリはそっと部屋を抜け出した。
[レーダー]を起動したまま、[高速移動]を発動して急ぎシャイナの後を追う。
[レーダー]があるから見失う恐れはないが、肝心な話を聞き逃すのは出来れば避けたかった。
シャイナを示す光点が止まった場所は、アズベルグの街の中にある、そこそこ高級そうな宿だった。
その前で、シュリはしばし首を傾げて考え込む。
まだ赤ん坊のシュリが正面から宿屋に乗り込むのは難しいだろう。
十中八九、宿の受付で止められてしまうに違いない。
じゃあ、どうすればいいのか。ステータス画面を呼び出して自分のスキルを改めて見てみるが、この場面で使えそうなスキルはあまり無さそうだ。
強いて言うなら、[道端の雑草]のスキルならちょっとは使えそうだが、大きな動きで解除されてしまうので、移動に気を使う必要がありそうだ。
(まあ、とりあえずやってみるか)
急がないと、シャイナの密会を見逃してしまうかもしれない。
シュリは四つん這いになり、ハイハイでの移動を選択した。
どのみち高速での移動は出来ないし、安定感のあるこの移動方法で地道に移動することにしたのだ。
[道端の雑草]スキルを発動し、ジリジリと移動していく。
人の目が無いときは素早く、誰かの視線がこちらを向いたらぴたりと動きを止める。
(これって、あれだよね。だるまさんが転んだ、みたい)
前世で子供の頃、友達とやった遊技を思い出しながら、シュリは慎重に移動していった。
こういう時こそもっと役に立つスキルを手に入れられたらいいのだが、特に新たなスキルを手に入れることなく、シュリは目的の部屋の前にたどり着いていた。
だが、たどり着いたところで固まる。扉が閉まっていて開けられないのだ。
手を伸ばしても無駄だと言い切れるくらい高いところにあるドアノブを見上げて、シュリは頭を抱えた。
一縷の望みをかけて、ドアに耳を押し当ててみる。
流石は高級な宿屋だった。
ドアが厚くて中の音などまるで聞こえない。
(せっかく来たけど、これじゃあ中の様子を探りようもないよなぁ)
シュリはがっくりと肩を落とした。
(中の音が聞こえるような、すごく耳の良くなる様なスキルでもあればなぁ)
思いながら、無駄に分厚い扉を睨んでいると、
・スキル「猫耳」を修得しました!
そんなアナウンスが流れた。
(ん?)
シュリはきゅうぅぅぅっと首を傾げた。なんかおかしいスキルが手には入ったぞ、と。
ステータスを呼び出して、スキルを確認してみた。
一度見て、目をこしこしこすってからもう一度見る。
だが、そこに書かれている文字が変わることはなく、シュリは諦めて新たなスキルの説明文を読んだ。
・[猫耳]
このスキルを使うとあら不思議。小さな音や遠くの音をハッキリ聞き取れる高性能で可愛い猫耳をゲット!ついでに猫の尻尾もサービス中。身体強化系のスキルとの併用は不可。むしろ身体能力20%低下補正あり。可愛いと強いは両立出来ない!?戦闘中の使用には注意が必要。
なんだか、説明文がつっこみどころ満載だった。
(なるほど~、身体強化系のスキルとは併用できないのかぁ……って、身体能力が20%も低下しちゃうの!?可愛いと強いは両立出来ないってなんなのさ!!ふざけてる?ふざけてるよね!?このスキル)
ふつう、こういう場面で手に入るスキルは、もっと真面目な奴じゃないかと思うのだ。
もっと、こう、たとえば「聞き耳」とか「盗聴」とかそんな様な。
だが、無い物ねだりをしても仕方がない。
こんなふざけたスキルでも、一応小さな音や遠くの音を聞けるようになるのだ。
今はとにかく、目の前の扉の向こうの音を少しでも拾いたかった。
背に腹は変えられないと、シュリは仕方なしに[猫耳]のスキルを発動した。
発動した瞬間、シュリの頭から髪の色と同じの銀色の猫耳がにょっこり生えた。
更に、サービス中だというふざけた猫尻尾もちゃんと生えて、端から見ると恐ろしく可愛い生き物が出来上がる。
一部マニアには正直たまらない代物だ。即座に襲い掛かってしまっても仕方がないレベルの。
だが、シュリのそんな姿を見ている者は誰もおらず、シュリも自分の姿を見る手段は持っていない。
よって、猫耳と尻尾が生えても特に支障なく、シュリは自分のやるべき事に集中出来た。
ぴくぴく可愛く動く猫耳をドアにぴとっと押し当てて、シュリは中の音に耳をすます。
中からは、シャイナの声ともう一つ、今まで聞いたことのない若い男の声がした。
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