第四十四話 エミーユとの対面②

 初めて見るエミーユは、なんというか険しい顔をしていた。

 美人なのにもったいないなぁと思いながら、シュリは彼女の顔を見つめる。

 ミフィーの腕の中から。


 彼女はカイゼルの奥さんだから、シュリにとっては血のつながりはないものの、叔母様というべき存在だ。

 親戚としての今後のつきあいもあるだろうし、ミフィーの為にも気に入られておかなくては。

 そんなことを思いながら、エミーユの硬質な美貌を眺めていると、ミフィーがカイゼルに抱っこをお願いしてみろとせっついてきた。


 促されるままカイゼルを見上げると、彼は嬉しそうにシュリの顔を見つめている。

 カイゼルはエミーユの旦那様だし、まずはカイゼルの機嫌をとっておくかと、シュリはにっこりと微笑みかけ、



 「かいぜ、おいたん。抱っこ、て?」



 と今朝やっとしゃべれるようになった言葉を駆使して可愛くおねだりをしてみた。

 効果はてきめんで、カイゼルはなんていうか、うん、ものすごく喜んでいる。

 喜ばれすぎて、若干不安になるくらいに。

 同姓は、恋愛状態とかにはならないんだよな?ひげもじゃのおじさんに愛を囁かれても困るし、リアルBLを極めるつもりは全くない。


 前世は、あやうく百合街道へ足を踏み込みかねない勢いだったが、今世は出来ればまっとうな人生を歩みたい。

 きちんと結婚して、子供をたくさん作って、幸せな家庭を築くのだ。

 意地でも、ミフィーを孫沢山の幸せなおばあちゃんにしてあげるつもりだった。


 だが、未来の幸せの前に、現在の足場を固めておかなくては。

 カイゼルの腕に抱かれながら、シュリはちらりとエミーユの表情を伺う。

 自分の亭主は上機嫌だというのに、なんて不機嫌な顔をしているのだろうか。

 もしかして、夫婦仲があまり良く無いのかなぁなどと思っていると、カイゼルがエミーユを招いてシュリを抱かせようとし出した。



 (よっしゃ、ナイスプレイ!よーし、しっかり媚びを売るぞ!!)



 そんな思いと共に、にこにことエミーユを見上げた。

 彼女のまなざしは氷のようだが、そんなこと気にしていられない。

 とにかく、この機会に少しでも関係を改善しなくてはと気合いを入れて、若干緊張しつつ彼女の腕に抱かれた。


 じっと顔を見つめると、彼女も真面目な顔つきでこちらを見つめてきた。

 目を反らすのも失礼なので、ついでとばかりに彼女の顔を観察する。


 唇は薄くすっきりしてて、翡翠色の瞳はややきつめ。

 全体的にプライドが高そうというか、気位が高そうという様な、貴族らしいと言えば貴族らしい雰囲気を醸し出している。

 金色の髪が、形のいい顔の周りを縁取ってきらきらしていて、お嬢様ってこんな感じかもって思う。

 顔立ちがとても整っていて、何となく冷たい印象だった。

 ミフィーも顔立ちは整いすぎている感じはあるが、コロコロと良く笑うので、もっと柔らかい印象だ。


 エミーユも笑ったらいいのにーそう思っていると、カイゼルがエミーユの名前を呼んでみろと促してきた。

 自分をアピールする良いチャンスだと、シュリは口の中で何回か練習した後、気合いたっぷりに口を開いた。



 「えみーう?」



 ちょっと失敗だが、及第点だろう。

 エミーユの評価はどうだろうかと、おずおずと見上げてみれば、彼女はとっても驚いた顔でこちらを見つめていた。

 目を丸くした、ちょっと無防備な表情は、なんだかすごく可愛く思えた。


 思わず微笑むと、彼女も笑顔を返してくれた。

 うん。なんというか、やっぱり笑うと余計にいい感じだ。美人度が増す。

 やはり美人には笑っていて貰いたいものだと、改めて思いひとり頷く。



 「シュリは驚くほど人の心を掴むのが上手い。人の上に立つべき存在だと、そうは思わないか?」



 エミーユの笑った顔に見とれていたら、カイゼルがいきなりそんなとんでも発言をしてきた。

 びっくりして彼の顔を見上げる。



 (いやいや。いきなりそんな好評価をされても。ってか、人の上に立つつもりなんてないし。平凡で幸せな家庭を築ければ十分ですから)



 そんなことを思いつつ、エミーユを見上げた。

 彼女はシュリを見つめていた。やけどしそうなくらいに熱いまなざしで。

 表情はとろけていて、心なしか頬が赤く色づいている。

 嫌な予感にシュリは顔をひきつらせた。



 (え、えっと、まさか、エミーユもカイゼルと同意見とか、言わないよね?)



 エミーユの良識に望みをかけて彼女の顔を見つめるが、次の瞬間その思いは裏切られた。



 「そ、そうですわね。私もあなたの意見に賛成ですわ」



 エミーユ、お前もか!?ー思わずそう叫びそうになる。

 エミーユもカイゼルも、何というか熱に浮かされたような表情で、シュリを見つめていた。


 そんな2人の様子を見てシュリは悟る。

 ああ。これもあのとんでもスキルのせいなのか、と。

 あのスキルのおかげで助かる事もあるけど、最近はどちらかというと面倒な事になることが多いよなぁと、そんなことを思いながら、シュリはがっくりと肩を落とした。


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