第十九話 カレンとミフィー
カレンに先導され与えられた部屋に入ると、ミフィーは思わず歓声にも似た声を上げていた。
その部屋はかなり豪華だった。
2人並んで寝てもお釣りが来るような大きなベッドが2つと、くつろぐためのソファー、それから食事やお茶を楽しむためのテーブルとイス。
そういった家具のどれ一つをとっても、きれいな装飾がされており、高価な値段を伺わせるものだった。
入り口で立ちすくんでしまったミフィーを、カレンが苦笑混じりに促す。
だが、彼女の気持ちはよく分かった。
カレンとて、ミフィーをエスコートするという役目を与えられていなければ、きっとミフィーと同じ様な反応をしたことだろう。
「さ、中へ。まずはソファーにでも座って下さい」
「え、でも、私、服も身体も汚れているし……」
ミフィーはそんな躊躇の言葉を口にする。
救出後、一応濡らしたタオルで身体を拭ってはいたが、確かにミフィーの衣類も身体もまだ汚れていた。
ミフィーが躊躇してしまう気持ちも理解できたので、カレンはまずはミフィーを木のイスへ座らせる事にした。
「では、こちらのイスへ。ここなら、後で拭けば大丈夫ですよ。今、下で湯と布をもらってきますから、座って待ってて下さいね?」
そう言いおいて、カレンは急ぎ階下へと向かった。
従業員を捕まえて、湯と布と、それから部屋で着る部屋着を持ってこさせると、再び部屋へととって返した。
中へはいるとミフィーはおとなしくイスに座ってカレンを待っていた。
不安そうな彼女に微笑みかけ、カレンは彼女の足下に湯の入った桶を置く。
「まずは服を脱いじゃいましょうか?私も皮鎧を外しちゃいますから、ミフィーさんも下着以外脱いじゃって下さい」
「ええっ、脱ぐの?」
「はい。脱いだら身体を拭いて、部屋着に着替えましょう。お風呂に入れるのは食事の後ですから、それまでの間に合わせです。汚いままじゃ、イヤでしょう?」
「そ、そうね」
確かにカレンの言うとおりだとミフィーは頷いて、シュリをベッドの上に寝かせようとして、息子も自分と同様に汚れきっていた事を思い出す。
きれいなベッドに寝かせるには汚れが気になるものの、テーブルの上は固いしシュリが動くと落ちてしまう危険性もあるので、そこに寝かせるのはためらわれた。
そんな風にミフィーが困っていると、皮鎧を脱いだカレンが近付いてきて、
「大丈夫ですよ、ミフィーさん。シュリ君も後で拭いてあげるとして、まずはこの布をベッドにひいてその上に寝かせましょう」
言いながら大きめの布をベッドに広げてくれた。
ミフィーはぱっと顔を輝かせ、シュリをその上に優しく寝かせた。
自分を見つめる息子の頬をつつきながら愛おしげに見つめ、
「先に着替えてくるから、ちょっとここで待っててね?」
そう息子に話しかける。
それから急いで汚れた服を脱いで、カレンから受け取った布で身体を手早く拭った。
「ミフィーさん、お背中は私が」
「えっと、じゃあ、お願いします」
カレンの申し出を素直に受けて背を向けると、濡れた布で丁寧に背中を拭ってくれた。
簡単にではあるが、身体の汚れを落としたミフィーはほっと息をつく。
カレンに手渡された部屋着に着替え、靴も脱いで部屋履きに変えようとしたら、イスに座るよう促された。
言うとおりに座ると、カレンがたらいの残り湯で丁寧に足を洗ってくれた。
「カレンさん、すみません。ありがとうございます」
ミフィーが恐縮して礼を言うと、
「気にしなくていいんですよ、これくらい」
そう言って、カレンが凛々しくも軽やかに笑った。
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