【クラクラ小説】SUNRAISE

@10h5858

SUNRAISE(1話完結)

「もうすぐ対戦が終わりますよ、チーフ」

家の外から声が聞こえたと思うや否や、彼女はズカズカと室内に入ってきて私を叩き起こした。彼女は私のボサボサな頭を蔑むように見つめると、

「もうすぐ対戦が終わります」

そう言って窓を開け放った。太陽の光が鬼のように目に刺さる。

「分かってるよ」

「ならさっさと準備をして下さい。二回目の攻撃を終わらせてないのはチーフだけですよ」

クランリーダーたるもの、と彼女はいつになく饒舌に説教をたらす。また私抜きでも圧勝している証拠である。

「あと一時間もあれば大丈夫さ。先に向かっていてくれ」

私が着替えを始めると流石に彼女も部屋を出た。口にパンを詰め込むと、顔を洗って私もクラン本部に向かった。




「遅いぞリーダー!」

本部にはサブリーダーの面々が律儀にも集合していた。私の遅刻に対してあからさまに不満を漏らす者がいなくて安心する。

「悪いな。状況は?」

「いつも通りさ」


115 vs 98


「驚かないんですか? チーフ」

あからさまに不満を漏らす者がいた。彼女はリーダーの座席に堂々と座り込んで、長老たちからの報告書を私に見せつけた。

「TH10での全壊が15個も生まれたんです。クランメンバーを讃えてあげて下さい」

「流石だと思ってるよ。すっかり世界一位に慣れてしまったのかな」

私がサブリーダーたちに笑いかけると、彼らは満面の笑みで見返してくれた。

「リーダー! 後10分です!」

メンバーが部屋に駆け込んできた。私は頷くと、部屋を出た。

私は皆が見守る中で最高に近いパフォーマンスを披露して、TH10を全壊して見せた。メンバーたちに讃えられる中で、私はどこかよくわからない寂しさを感じていた。



++++++++++++++++



「俺はリーダーを辞めようと思う」

49人のクランメンバーの前で、私はそう宣言した。その場の空気が固まった。

「嘘だろ……?」

「本当だ。もう若者って歳でもないしな、そろそろ実家に帰って親孝行してやりたいんだ」

嘘だ。

「皆、今まで俺についてきてくれてありがとう。世界一位になれたのは全部頑張ってくれたサブリーダーや、クランを強くしてくれたメンバー全員のおかげだ。本当にありがとう」

残念そうな顔をするメンバー、受け止められないメンバーと様々だった。私はそんな彼らの反応が見ることができただけでも幸せ者だった。

「二代目リーダーはずっと昔からの付き合いのトーマスにやってもらおうと思ってる。トーマス、頼んだぞ」

彼は目を点にすると唖然としながらも私と握手した。自然と拍手が沸き起こる。

「アレックス、元気でな」

クラン設立から付き合ってくれたメンバーと抱き合いつつ、キャティーは思いつたように手を叩いた。

「そうだ、引退試合をしよう! 飛びっきりイイ攻めをリーダーに見せて送り出してあげようよ!」

メンバーは思い思いに盛り上がり、私の判断を待つ前に対戦の企画を始めた。

ほら見たことか。お前らは俺なんかがいなくても立派にやっていけるんだよ。

「チーフ、お客様です」

村人の彼女は客には様付けのようだ。水をさすようなタイミングだったが、私は彼を通した。

「すみませんな、こんな時に。外から声が聞こえてきたのですが、引退試合をするとかどうとか。アレックス様がついに引退するのですね」

彼は礼儀正しく、しかしどこか余裕がありそうに笑っていた。この部屋には私とサブリーダーが集まっているが、相変わらずサブリーダーたちは警戒した様子で彼を見つめていた。

「私、クラン『Ruler's』のリーダーをしております。今回はあなた方に対戦を申し込みたくて参りました」

サブリーダーたちが騒ついた。私はトーマスから、

「急上昇中の世界四位のクランですよ」

そう耳打ちされた。

「あなた方のクラン『SUNRISE』は対戦で一度も負けたことが無いそうですね。そのリーダーをしているアレックス様の引退試合。是非一戦交えようじゃありませんか」

「別に構わないが、何か企んでるんじゃないか?」

私はこの老人が脅威になるとは思えなかった。それだけに、相手が何を考えているのか、よくわからないでいたのだ。

「ええ企んでおります。今からその話をしようとしていたのですよ」

皆が注目する中、その彼はこう言い放った。


「互いに『クラン』自体を賭けて国取り合戦をしたいのです」


一瞬…いや十瞬くらい、私には彼が何を言っているのかが分からなかった。



+++++++++++++++



ーーーこの戦いは全世界に告知いたします。もちろん私がここで宣戦布告したことも。世界最強のあなた方ならもちろんお受けしますよね?

彼が去ってから何時間かが経った。サブリーダーの面々は、難しそうな顔をしてなにやら話し合っていた。私はそれを眺めている。

こうしていると、私は本当に幸せ者だということを再認識させられた。クランのことを真剣に考えてくれている彼らの目は、私なんかよりもずっとリーダーに向いていた。

「どう思う、リーダー」

サイラムはその威圧するような目で私を見た。彼だけは私に疑惑の目を向けているようだ。引退する本当の理由を、彼なら的確に言い当てられるだろう。

「俺の考えは保留だな。おいキャティー、情報は集まったか?」

キャティーは紙の山を漁りながら首を横に振った。

「なんせ新しいクランだからね。対戦の勝利回数も36回しかないんじゃ情報も少ないよ。でも強いってことは確か」

彼女は気まずそうに、

「……もしかしたらだけど、私たちよりも強いかも」

へえ、私は素直に驚いた。

キャティーの情報は確かだ。それを疑うつもりは欠片もない。

「それは面白そうだな」

サイラムはニヤリと笑った。サブリーダーたちも、もちろん私も興味はあった。だがクランを賭け事に持ち込んでいいものだろうか。

クランを賭け事に持ち込んでいいものだろうか。それはリーダーが決めることだ。

彼らはそう言うだろう。私は笑ってこう言った。

「やろう。調子に乗ってる新参者をぶっ潰すくらいの実力は有り余るほど持ってるんだ」

これは記念すべき700勝を飾る戦い。699連勝の私たちが、新参者なんかに負けるわけにはいかないのだ。

少しだけだ。ほんの少しだけ、私は昔の無名クランだった頃の私たちを思い出していた。



+++++++++++



「対戦始まりますよ、チーフ!」

何時ものように彼女は部屋に駆け込んでくる。緊張して寝つきが悪かったせいか、頭がガンガンとしていた。

「チーフ、それは二日酔いですね」

「確かに」

私たちはすぐに本部へ向かった。


「リーダー、おはようございます」

「トーマス、戦況は?」

トーマスは歯切れが悪く、

「今のところ、そんなに差はありません。ただ、全壊の数はあちらが優勢です」


☆15 vs ☆18 (全壊 0 vs 3)


「全壊3? まずいな」

「ええ、こちらも攻撃面で普段よりも苦戦しています。私も失敗してしまいました」

トーマスは肩を震わせながら下を向く。私は彼の肩を叩き、

「失敗なんてお前より俺の方がしてる。今日はツイてなかったんだよ」

私が手荷物を持つと、キャティーはコーヒーを淹れる手を止めて言った。

「リーダー、もう攻めるの?」

「ああ。行ってくるよ」

サブリーダー面々がこちらに振り返った。期待、不安。多分期待されている。だからこそ、私は強く言った。

「皆、敵は強い。強いからこそ堅実に行こう。俺たちにはチームワークがある。全壊を狙うのは、下準備が出来てからだ」

彼らは頷く。私はドアに手を掛け、

「絶対に勝つぞ」

彼らの気合を、背中でしっかりと感じていた。


+++++++++++++


私たちの国は、いつだって昼間だった。私たちはとっくに眠りについてもおかしくない時間まで、地図に穴が空くほど作戦を練りに練った。

これは集大成だ。アレックスのSUNRISEの最後を飾るためか、はたまた連勝を刻むためか、もちろんクランを潰されてたまるかという愛国心のためかクランメンバー全員が最高に一丸となって戦っていた。


ああそうだ、私は確信した。私はこんな戦いをやりたかったんだと。私が苦労して苦労して集めた最高のメンバーで、未知の敵と全力で戦ってみたかったのだと。


今までだってこんな危機は何度もあった。だからこそ、皆でなら乗り越えられると無意識に思っていたのだ。


ーーーーまあこれは、現実はそんなにも甘くは無かったってだけの話だ。







「リーダー! 敵が一斉に攻めてきました!!」





残り時間6時間

残り攻撃回数(50人×2)

(SUNRISE-Ruler's) 46 - 0








獲得星数

SUNRISE 101 vs Ruler's 121


全壊数

SUNRISE 1 vs Ruler's 21





「おかしいよ絶対! なにかカラクリがあるようにしか思えない!」

キャティーは結果の報告書を握りつぶしながら肩を震わせた。彼女は派手な活躍が出来なかったのだ。そんな彼女を慰められるほどの人間は、生憎この場にはいなかった。

「何がおかしいんだ。身の丈に合った結果じゃないか。バカなミスをしなければ勝てたか? お前がしたミスを敵はしてこなかった。どっか根本的なところで負けてるんだよ」

そう言うサイラムも不機嫌そうだ。いつも嫌味ばかり言う彼の言葉が、今日はやけにキツく胸に刺さった。



獲得星数

SUNRISE 118 vs Ruler's 121


全壊数

SUNRISE 18 vs Ruler's 21



私が全壊を取れなかったから。キャティーが援軍をもらい忘れたから。サイラムが敵に全壊されたから、私たちは負けたのだ。責任を感じていない人は誰もいない。

「チーフ、お客様です」

何時間か待たされて、ついに例の老人が部屋に闊歩してきた。

「やあ、皆様。先日は対戦をしてくださりありがとうございます」

声色とは全く異なり、顔はすっかり勝者のそれとなっていた。私たちは全員、どうしようもなく下を向いた。

「例の件だが」

もちろんクランを賭けたことだ。具体的なことは何も決めていない。何も決めていないからこそ、抵抗の余地があった。

「俺の村の全てを譲るってことで手を打ってくれないか? 資源や設備はもちろん、今までの699勝の対戦の情報も全て譲る」

「……リーダー」

私は深く頭を下げた。こんな格好をしたのはいつ振りだろう。敗北を認め、大切なものを守ろうとするのはこんなにも辛いことだったのか。

私はたくさんのことを学んだ。このチームなら何でもできると夢を見ることが出来た。それを壊して欲しくない。

「勘違いなさってますよ、アレックス様。提案するのはこちらでございます」

彼は椅子にどっかりと座った。

「我々はクランを賭けて戦ったのです。負けた方のクランが勝ったほうの所有物となると考えるのが妥当ではありませんか? 少なくともアレックス様の解釈よりは近いと考えますよ」

彼は廊下で聞き耳を立てているメンバーたちにも聞こえるような声で、こんなことを言った。

「……ただし、所有物とするのはクランに所属しているもの全てという解釈が妥当です。そしてクランに所属しないという決断をするのはクランではない。私たち個人の問題なのです」

サブリーダーたちが騒ついた。サイラムが立ち上がって言った。

「……クランを抜ければ見逃してくれるってことか」

「率直に申し上げればその通りでございます」

サイラムは一瞬、私を見やった。彼は私から全てを悟ったように、

「では抜けさせてもらおう。誰かに支配されるなんてたまったもんじゃない」

「おいサイラム!」

彼は部屋から出て行った。

「他の方も遠慮することはありませんよ。大切な問題でしょうし、一日の猶予を設けます。明日のこの時間、この部屋に来てくださった方々のみをSUNRISEのメンバーと認め、その方の所有物を全て没収させてもらいます」


残酷だ。残酷に時は過ぎて行った。

クランメンバーたちは、密かに会談をしたり一人で静かに去って行ったり様々だった。

私は何も言えなかった。何も見えなかった。何も聞くことができなかった。


「お時間でございますね」

その部屋に残っていたのは、私とトーマスとキャティー、二人の長老の5名のみだったのだ。



++++++++++++++++



「思ったよりも少ないですね」

老人は含みを持ってそう言った。私は椅子に深く座ったまま、キャティーに手を強く握られて黙っていた。

「まあいいでしょう。ではあなた方5人の村は全ていただいて行きますのでご了承を」

彼は部屋から出る間際に、まるでなんでもないことのように付け加える。

「……そうそう、私の権限の元、クラン『SUNRISE』は解体とさせてもらいます。抜け殻なんていりませんので」


文字通り抜け殻となったクラン本部を眺める。50人もいたメンバーはもう5人しか残っていない。本部のあちこちには思い出の残骸が転がっていた。

「みんな、ごめん……。せっかくみんなが築いてきた村が……」

リーダー、そう言ってトーマスは珍しく笑った。

「私は自分の村の価値とリーダーとの絆の価値とを天秤にかけたのです。冷静に考えたら自明なことです」

「そうだよ、あたしたちは自分で選んだんだ。勝手について来て謝るのはこっちのほうだよ」

長老のチャーリー、アベルも必死に頷く。彼らの若く力強い目は、こうやっていつも私を支えてくれた。

「みんな、最後の対戦、どうだった?」

私は彼らに問いかける。

「もちろん悔しかった。でも同時に楽しかったんだ。多分今までで一番。お前たちと本気でぶつかることが出来た対戦なんて、何年ぶりだったろうな……」

笑った。自分がバカみたいであった。

「俺、まだお前たちと戦っていたいんだ……!」

溢れ出る涙をせき止めることができなくて手で顔を覆った。情けないリーダーだ。こんな情けないリーダーを、お前たちに支えて欲しい。

「やろうよ! 1から。TH1から、また始めればいいだけの話なんだよ!」

キャティーは先陣をきって盛り上げてくれた。チャーリー、アベルはそれを後押しし、トーマスは私を支えて立ち上がらせる。

私が立ち上がると、背後から笑い声が聞こえてきた。

「サイラム!」

彼は私たちに歩み寄ると、

「リーダーのその言葉が聞けて安心したよ。これをかき集めてきたかいがあったぜ」

大きな箱を開けて見せた。

「エメラルド……!」

「お前ら、リーグ報酬って知ってるか? リーグ毎に上位にはエメラルドが配られるんだ。それの貯蓄分さ」

彼の背後にはこれと同じ大きさの箱が4つ用意されていた。

「サイラム、全員分のを貯めといてくれたのか?」

彼は照れ臭そうに、

「最初は黙ってネコババしようと思ってたんだがな。お前、SUNRISEの会計担当が俺だってこと忘れてないか?」

彼は私の肩を掴んだ。

「しばらくは俺の村を拠点にしよう。世界一をまた狙うにはこのエメラルドじゃまだ全然足りないが、サポートしてやるのは俺だけじゃない。サブリーダーのやつらは全員こっちに残ってるんだ」

サイラムは私を見やって、

「やっぱり俺の上司にはお前、アレックスしか似合わねえさ。これからも頼むぞ」

「ああ、これからも精進してくれ」

サイラムのツッコミが、この野原に響き渡った。



村人の彼女は、私を遠目に見て歩み寄ってきた。

「1から始めるのですか? チーフ」

「ああ、手配してくれるか?」

彼女は頷く。相変わらず無表情で、

「ではチュートリアルを始めましょう」

私は苦笑いする。

「よろしく頼むよ」




数日後。



「おーい、全員名前書いたか〜?」

申請、人数10名。私以外全員サブリーダーだ。新クラン設立の手続きは割と簡単に行えた。

「クラン名何にするの?」

キャティーは興味津々に覗き込む。それは皆も同じなようで、一斉に私に注目した。

「じゃあ発表するぞ、クラン名は……」

彼らを見回した。いつも通りの笑顔で安心する。これからも楽しくなりそうだ。


「……SUNRAISEだ」


彼らから歓声が沸き起こった。

「いいセンスだ」

サイラムはニヤリと私を見やった。

トーマスは私に無言で頷き、サブリーダーの面々も満足そうに笑っている。

「宣言しよう。新生サンライズはサンレイズとして始動する! 目標は世界一! ……皆、頑張ろう」

彼らの声は、大空を貫き太陽にも届きそうな勢いであった。私は心が踊りに踊って、やはり最高だと再認識した。

「リーダー、そいえばSUNRISEってどんな意味だったの?」

キャティーは一人置いていかれていたようだ。

「お前、そんなことも知らずにここまで来てたのか」

いつものようにサイラムはキャティーをバカにする。

「知らないやつがいるとは思わなかったよ」

私は空を見上げた。

「……この辺の地域は一日中太陽が上がってるんだけどな、ずっと遠くの地域では一日に太陽が昇ったり沈んだりすることがあるんだ」

太陽のように高く。太陽のように大きく。

「いつか、お前らとそれを見られたらいいな」

彼らの笑い声、歓声、全てが暖かかった。これは、私たちの始まりの物語だ。

止まろうとしていた私の時計が、今勢い良く動き出した。



fin.

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