10.神社でふたりきり(2/3)

 ……けっこう失礼な返事だったかも。

 そうわたしがちょっぴり後悔し始めたとき、彼女は顔を上げて、こう言った。

「…………じゃあ、今夜、試してみよっか?」

「え?」

「今夜の日付の変わるその瞬間に。お父さんたちには内緒で、ね?」

 心臓の鼓動が速くなる。

 彼女の言っている意味が分かったからだ。

「…………いいよ。お母さん、今日は早く寝る日だし。そっちも、気を付けてね?」

「OK。もしバレたら、さつきの家にお泊りするって言ってみる……たぶん、駄目だろうけれど」 

 今夜はちょっとした冒険になりそうだ。

 わたしは最近、お母さんから離れて、自分の部屋で寝るようにしている。ベット脇の窓から抜け出せば、まずバレない自信があった。

 それに、もしかしたら、あのひそひそ声の正体も分かるかもしれない。

 怖い、とはまったく思わなかった。それどころか、長いことわたしを安眠から叩き起こしてきた正体を、ぜぇったい暴いてやるぞ、という気持ちで武者震いするほどだった。

「……お願い事を叶えてもらうにはね。こういう人になりたいって具体的に想像しなきゃだめなんだよ」

「想像?」

「そう、想像するの」

 舞ちゃんはわたしの瞳を覗き込む。

「頭の中での想像と、物を創る創造ってコトバの響きって同じでしょ。だから、想像は創造することにつながるんだよ。どんなお願い事であっても、まずは想像しないと何も創りだせないんだから」

「……さっすが舞ちゃん、すごいね」

 舞ちゃんは、ちょっと恥ずかしそうだった。お父さんの影響かな、と呟いて、髪を触りだす。

 わたしもなにげなく舞ちゃんの髪を一房持ち上げてみる。本当に黒い髪。どうやったら、こんなつややかな髪になるんだろう。

「わたしも髪を伸ばしたら、舞ちゃんと同じになれるのかな?」

「絶対なれるって!」

「あー、もう! 舞せんせい! ちょっと『想像』できませんってば!」

 思わず空を仰ぐ。ちょうど私たちの真上、空の一番高い場所にあの黒いミノムシがぶらさがっていた。

 

 今ならあのミノムシの正体が分かるかもしれない。

 不意に、何の確証もなしにそんな考えが頭をよぎった。

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