ふゆの世界

14.もうすぐ雪になる

 最後の高校入試が終わった日、15になっていたわたしは、舞ちゃんの引っ越し先の玄関先に立っていた。

 折りたたみ傘を閉じる。灰色の空からは、泥のような重みを持つみぞれが降ってきていた。

 まだ、それほど本降りじゃないけれど、じきにもっとひどくなる、そんな予感をさせる降り方だった。テレビの予報では、夜には本格的な雪になるらしい。すぐに電車が不通になることはないのだろうけれど、それまでには帰れるだろう。

 わたしは表札の文字を三度も確かめた後に、駅前の店で買ったシュークリームの箱を持ち直し、インターフォンのボタンを押した。

 どこの家にでもあるような、ごく平凡な電子音が寒空の下に流れた。それから少し間を置いた後に、廊下の奥から人がすり足でやってくる音が聞こえた。

 ゆっくりとドアが開いていくその刹那。

 わたしの脳裏に、二年前に別れた時の舞ちゃんの後ろ背中がよぎっていく。

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