13.ぜんぶ嘘の世界だから

 舞ちゃんはわたしの肩に額を乗せた。

 落ちくぼんだ目。跳ねた髪。

 ここのところ、ずっと雨の日が続いている。

 わたしはため息をついて、窓に水滴が流れるのを眺めている。

 一つ一つの粒を数えているうちに、面倒になって幾つ数えたか忘れてしまう。

 それの繰り返し。


 あの時、投げだされた蝋燭。

 たくさんあったお札に引火して、長いこと埋め火になっていたそうだ。

 警察は、放火の疑いで調査を進めると言っていた。

 わざとじゃない。絶対わざとじゃない。

 舞ちゃんが放り投げた時に、火は消えたはずだ。わたしはちゃんと見たんだ。

 あの後、誰かがもう一度点けたんだ。

 そう思い込もうとした。

 ……………絶対、わざとじゃない。 

 大騒ぎになった後、わたしは真っ先に彼女の元へ会いに行った。

 泣きじゃくる彼女を抱きしめて、絶対に誰にも話さないことを約束した。

 お堂が人気の無い所にあったのは幸いだった。まず誰にも見られていないはず。

 アレについて。そんなこと、口にすることさえしなかった。

 そんな必要なんてどこにもないのだ。

 あれだけの大惨事を引き起こしたのにもかかわらず、わたしが祈っていたのはただひとつの事だけ。あの燃え盛るお堂の中で、お供えの棚においたあの櫛がちゃんと燃え尽きていますように、ということだけだった。


「これから、どうしよう」

 大人たちはわたし達を疑わなかった。

 子供とはいえ、ひとりはお堂の管理人だったわけだし。

 それはそうとして、あれから彼女の家はお堂の管理についてそうとう非難されていた。どうしようもないことだと思ったけれど、それこそ犯人であるわたしたちにはどうしようもないことだった。

「私、幽霊なんて、この世にいないと思う」

 唐突に舞ちゃんは言う。

「お化けが見えるなんて人、嘘。霊感なんて無いし、今は、……神様もたぶんいないと思う」

「そんなの、気にしなくていい」

 わたしは伏せようとする彼女の顔を持ち上げて、瞳を合わせてきっぱりと言った。

「わたしだってそうだよ。予言なんてできない」

 そうだ。わたしだって予言なんてできない。だから、こっそり彼女のお父さんに電話したり、塾の先生に聞いて予習してたりしてたんだ。

 もう、こんなことはこりごりだ。

「お互い変なことばかり考えるのは良くないよ。だから、こんなオカルトな話はおしまいにしよ」

「……うん、うん。ごめん、さつき。……ありがとう」


 それから一週間もしないうちに、彼女は引っ越すことになった。あっという間のことで、かろうじて二言三言、言葉を交わしただけだった。

 彼女は涙を見せなかった。笑いもしなかった。怒る事もなければ、嘆く事もなかった。

 別れる間際に、ただ手を握り合い、新しい住所と電話番号を教えてもらったのを最後に、彼女とのまともな付き合いが途絶えた。



 また年月が経った。

 時間と共に、わたしの周囲から、事件は遠ざかっていく。

 夜ごと訪れていたあの声は、あの日以来、来ていない。

 そして、あの黒いミノムシも、その他の怪異たちも、わたしが目にする事は無くなったのだ。

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