7.毎晩毎晩うるさいなあ……

 今夜も自然に目が覚めてしまった。

 すぐ隣では、わたしを起こさないようにと、こっそり仕事から帰ってきたお母さんが、安らかに寝息を立てている。

 わたしは、布団の中で息を殺し、枕元の時計が、真夜中の十二時を指そうとしているのを見つめている。

 夜の時計は、針の動く音が、針よりも遅く聞こえてくる気がする。

 針がうごいて、それから、音が鳴る。

 針がうごいて、音が鳴る。針がうごいて、音が鳴る。針がうごいて、音がな

『きこえなぁい』

 わたしは、同じ布団に寝ているおかあさんの腕をぎゅっと掴んだ。

 お母さん、どうか今、このタイミングで起きないでね、って祈る。

『きこえる』『きこえなぁい』『きこえる?』『きこえる?』『きこえる?』

 ……彼らに気が付いたのは、ここに引っ越してからそれほど間がない時期のことだった。そのひそひそ声は、最初はひとり。そして、ふたり、さんにん。よん、ご、と。始めは、こんな真夜中にうるさいなあって思っていたけれど、それが毎晩のように続いて。鈍感なわたしでも流石に気が付いた。これは、人の声じゃないんだって。

 一体全体、彼らには何人分の声があって、どんな姿をしているのかは分からない。けれども、ゆっくり、とてもゆっくり家の前を通過していくその声は、高く、低く、嬉しそうに、時には悲しそうに、会話している。

 わたしは暗い壁を凝視するかのようにして、彼らの声に耳を澄ませる。

 いなくなるまでの間、目を瞑り、耳を塞いでいたのは、もうずいぶん前の事だ。毎晩それに起こされるけれども、別に何をしてくるわけでもない変な声。

 私の中では、すっかり不思議なお客さんのような扱いになっている。どこからやってきたのか、何が目的なのかは、謎のまま。

 そうして寝不足のわたしを残して最後、その声は、あの舞ちゃんのお堂へと続く田んぼ道へと去っていくのだった。

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