第53話
***
直売センターの軒先に並ぶ地元特産品の数々。
ロータリーの真ん中にある小鳥のモニュメント。
秋には一面が黄色になる立派なイチョウの並木。
この地域にかなり前の時代からあるという洗濯屋さん。
去年の卒業生が作って立てたという『あいさつをしよう』の看板。
地域の中を歩いて回りながら、六人の小学生たちは見つけたたからものを次々に書きこんでいった。次の目的地やそれまでの道ゆき、たからものとして書きこむかどうかを決めるのはすべて子供たちに任せて、俺と六原君はその間中の安全に努める。
途中、範囲はここまでと示すプラカードを持った保護者ボランティアに会ったり、それぞれの様子を見回っている小学校の先生に会ったり、もちろん他の班のグループに会ったりもした。その度に、なに見つけたー? ないしょー、と、笑顔で声をかけ合う。
いつのまにか、時間はあと半分を過ぎていた。
予想していたよりもこの企画を楽しめている俺は、確認した時計が示す残り時間に、ほんの少し勿体無ささえ感じてしまった。
ちょっとした騒動が起きたのは、そんな時だ。
「そういえば、あそこの山の奥の方にはめずらしいチョウチョがいるって聞きました」
「なんていうやつー?」
メリナちゃんの発言に、ルイガ君が尋ねる。
「うーん……名前はちょっと覚えてないけど、ほかの所にはあんまりいないチョウチョなんだって。この県でも、いるのはこの地域だけって聞いたよ」
「それ、いいんじゃない? 書こうよ!」
「わたし、チョウチョもすき」
女の子たちは賛同して、メリナちゃんにそれを書き込むように促す。
名前は同じく覚えていないけどその話を聞いたことはあった俺も、口には出さず、あぁ良いんじゃないかなぁと思った。
でも、男の子たちは違ったらしい。
「見つけてないのにかいてもいいのかなぁ? 山ってはんいの外だよ?」
「そーだぞ。そんなん、ふぇあじゃねぇよ」
「ぼくもそれは書きたくない」
口ぐちに返された反論に、メリナちゃんが眉を下げた。
「えっ……そっか、それじゃダメなのかな。歩いてるうちに思いついたものならいいかなって思ったんだけど……」
「きっと大丈夫だって。絶対に目で見たものって言われてないし」
「へりくつだ、ルールいはんしゃだ。オレはそんなんやだからな。ズルじゃん、ズル。六年生のくせにズルしようとしてる。カッコワリぃー」
笑って自分を非難し続けるレオン君に、ナッカちゃんが言い返す。
「うるさいなぁ。ダメとは言われてないって言ってるでしょ」
これまでの道中でも自分の注意を散々無視してきたレオン君に、ナッカちゃんは怒っているようだった。上学年という意識があるのか怒鳴りまではしていないが、年下に向けるにしては少し強く思える口調で言う。
「レオンくんは勝ちたくないの? 朝からずっと、絶対に表彰状を貰ってやるって騒いでたのはだれ? せっかくメリナが考えてくれたのに、なんでそんなこと言うわけ?」
これには、さすがのレオン君もぐっと詰まった。実際俺も、今日のうち何度かレオン君が大声でそう言っていたのを耳にしている。
どうしよう、と俺は悩む。やっぱり高校生の俺たちが止めるべきなのか。
相談したくて六原君に目線をやると、六原君は俺とは違い、不安そうな様子も無く状況を静かに眺めていた。六原君が合流してからこれまでで分かっていたことではあるけど、相手が小学生でも高校生でも、彼の態度はほぼ変わらない。
「ケンカやめようよ。リイネちゃん泣いちゃいそう」
静かなリョータ君の声の報告に、メリナちゃんが慌てて慰めにかかった。さっきまで言い合いをしていた二人を含め、皆がリイネちゃんを心配する。
そんな中、じゃあさぁ、と、明るい声で提案を口にしたのはルイガ君だ。
「見つけた虫の名前かこうよー。セミとかならいっぱい見たし、公園に行けばもっといろいろいるかもー。めずらしいチョウチョはいないと思うけどぉ、ふつうのチョウチョなら見つけられるかもしれないし、たくさん数がかけるでしょー?」
「そうだね。いろんな生き物がいるっていうのは、まちのたからものだと思う」
にっこりと笑ったメリナちゃんに、よっしゃぁ、とレオン君が声を上げる。
「公園いこうぜ! ルイガ、あったまいいな!」
「おれクワガタすきなんだよねー、いるかなぁ」
どうやら一段落ついたようで、俺も息を吐く。
あぁ。俺が関わらなくても上手くいった。出しゃばらなくて良かったかも。
「よし、じゃあ行こっか。リョータ君、公園の場所教えてくれる?」
そう言って、立ち止まっていた場所から歩きだそうとすると、
「いやだ」
と、リョータ君は固い表情のまま動かなかった。
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