「さよなら」

「さようなら」

 もう何度聞いただろう、その言葉を僕は何度も口に出してみるんだ。自分の誕生日が過ぎる頃に、何度も何度も聞いた言葉を。


「さようなら」

 と、何度も俺は繰り返す。俺があの時、余計なことを言わなければ、あいつは死ななかったのにと、後悔をしながら立ち尽くす。


「さようなら」

 もう一年経ったのね、と。使用人の一人に聞いた。また彼が来ているからと。私はその泣き崩れる姿だけ見て、今日も日記を書く。


「さようなら」

 広い広い屋敷の庭にポツリと立つ、小さな墓の名前は、誰が消したのか名前が分からなくなった。本名を誰にも知られたくない誰かが、名前を消したと噂されるこの墓は、今では教会の共同墓地に建っている。

 千年間、一年に一度だけ、花が添えられているこの墓の名前は、今では誰も知らない。






2017/2/14 書き下ろし

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