不法入国計画中Ⅲ
「魂って聖職者は美味しいっていうけど確かに美味しいんだよ。そのぐらい上物だと何百年その後に喰らわなくても大丈夫になるんだ」
アルバートはロドルの顔を覗き込む。
「お前にとって俺の魂はどう見えるんだろうな。生前犯罪ばっかだったけど綺麗なもんなのかね」
「アルバ?」
ロドルはアルバートの顔をじっと見た。
「アルバは……」
ロドルはじっと見る。アルバートは「なんか変な質問しちまったな」と今更ながら後悔していた。つい口が滑った。こいつの目にはどんな世界が映っているのだろうと気になっただけなのだ。
「僕は少なくても綺麗だと思う。変に歪んでなくて、僕は好きだ」
「ジャック」
「あー、でも野郎の魂は喰らいたくないから美味しそうとは思わないのかもね。僕は」
「……お前な」
「女の子の方がいいや。僕は」
「天然タラシクソ野郎」
「僕はタラシじゃないよー。声をかけたら惚れてくれるだけ」
「殺す」
アルバートはロドルのおでこを指で弾いた。仰け反り痛がるロドルを見て、この本を見る。次の問題は俺がどうやってあの図書館に入るのかということである。そして考えるのはこいつがオークションで競り落としたとされる、違法取引物の事だ。
「お前がブラックマーケットで競り落としたそれはどこにある」
ブラックマーケット、つまり闇市だ。
「あぁ、これの事ね」
取り出したのは十字架のチャームが入った革紐に繋がれたロケットペンダント。
「エクソシストの身分証?」
「うん。下手に貴族のものを使っても怪しまれるし、商人のものは使えない。あそこはエクソシストなら出入り自由だから、それを使うのが一番いいんだよ」
なるほど、確かにそれはそうだ。
この身分証はノービリスの貴族、エクソシスト、ノービリスを出入りする選ばれた商人に配られる。ノービリスに入る際の身分証になるのだ。
「うん。アルバはこれを使ってよ」
「……お前はそれを使うんだろ?」
アルバートはロドルの手にあるものを指す。例のフェレッティ家の身分証だ。
「……ううん。残念ながら使えないんだ。図書館は利用者を守ってくれるから良いとするよ。でも、関所はバレちゃう」
ロドルは代わりに違う身分証を取り出した。革紐と十字架のチャーム。エクソシストの身分証だ。
「それに……僕の契約者様が見張ってる可能性もあるからね」
「契約者様?」
「……例の」
ロドルが棚から真っ黒な帽子を手に取り深く被った。真っ黒な髪の毛を中に押し込め、見えないようにする。
「男と契約したのは久しぶりだ。人畜無害そうな顔をしているが腹黒い男。そして頭は良い。僕の行動くらいは把握していそうだ。悪魔と契約しようとするほどだもの、腹に抱えた野心は想像以上」
ロドルは前髪で左眼を隠す。
「じゃなきゃ、あんな命令はしないよね」
ロドルは独り言のように呟いた。
アルバートはロドルの契約者の事は深く聞かないようにしている。守秘義務もあるだろうし、それ以上に悪魔と契約したがる、人間のドロドロした部分を聞くつもりはないのだ。
「僕、千年も生きてきたけど」
顎に手を添えるロドル。
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