不法入国計画中Ⅰ

「……『アルケミスト』、『マンドラゴラ研究書』、『魔女の野草』、『魔族生態研究書』はこっちにあったよ」


 ロドルが箱に乗りながら上にある本棚の本を動かす。


「……『錬金術と錬丹術』、『人体解剖学』、『薬草辞典』、『魔術修得術』が見つかった」


 どれもこれも怪しげな本だなとアルバートは思う。自分は読みたくはないが、これを全部読んだのだろうか。


「お前これ、よく見たら俺が書いた本も混じってない?」


「アルバの本は裏ルートでたっかいのが流通しているから、図書館よりもそっちで見つけた方が早いんだけど、フェレッティの図書館はそういう曰くつきのも取り扱っているからね」


「俺の本を曰くつき呼ばわりするなよ」


「……、違うの?」


「違わないけど」


「魔族研究に関連する本なんか、アルバが昔に書いた物ばかりでしょ。凄い量だよねぇ。さすが、さすが」


 ロドルの顔が少しむくれているように見えて、アルバートは首を傾げた。なんだか不機嫌そうなのである。


「お前さ、これら自分の意志で書いたんじゃないからな。俺は上から命令されてまとめていただけで――、文字が書けるものが少なかったから書いていただけで、俺もまさかこんなに長く残っているなんて思ってもみなかったし、不本意なんだからな?」


「知ってる」


 ロドルはそう言ったものの、やっぱり不機嫌そうだ。


「それに俺の話は良いだろー?」


 アルバートは本を並べ、ロドルが借りたという四十冊を床に並べた。ジャンルは色々。怪しげな本もあるし、最近流行りの小説もある。本好きなロドルのことだから、全部読んだのだろうが、それにしたって凄い量だ。


 その中でアルバートは気になるものを見つけた。


「おっ、『カポデリス建国神話概論』だ。お前これ読んだの?」


「読んだよ。結構面白かった」


「俺らが生まれた頃の写本か? ……よく残ってるもんだな」


「まぁね。でもそれ、写本の写本だから、原文じゃない。原文はやっぱり残ってないみたいだな」


 写本というのは原文を写したものだから写本なのである。


 だが、一冊しかないオリジナルより、沢山作られたコピーの方が残りやすいのは確かであり、オリジナルは残っていないことが多い。オリジナルを研究するには、写本を見比べて変わった所などを掛け合わせてオリジナルを想定するしかない。


「へぇ、読んでみたいな」


「僕が返したら借りればいいよ。何万するかは知らないけど」


 こいつが借りた時は何万だったのだろう。


「俺、英雄様の話好きなんだよ」


「……知ってるよ」


「ジャック様の話ね」


 ロドルは照れ臭そうに「僕のご先祖様の話ね」と顔を赤らめながら答えた。彼の本名にも入っているジャックという名は、彼は嫌いというものの単純に嫌いと言えない節がある。


「これで全部か?」


「うん。四十冊、リスト通りだ」


 アルバートは腕組みをして本達を見下ろした。


 タイトルを見て一言。


「……綺麗に禁書だらけだ。お前、冒涜罪ぼうとくざいで捕まって処刑されても知らないぞ」


 さっき怪しげな本以外もあるとは言ったが、やっぱり魔術関連の怪しげな本の方が圧倒的に多い。


「悪魔ってどうやって処刑されるんだろうな……」


 ロドルは首を傾げた。


「八つ裂き」


「嫌だ、それ」


 それよりもどうやって借りたのだろうとそっちの方が気になるのだが――。いや、考えない方がいいか。


「どうやって返すんだ? ……もうコレ、持ち運ぶだけで冒涜罪に処されるぞ」


「カポデリスには魔法陣で運んで、僕が借りている部屋に置く。例のあの家だよ。それで買い物をする。そして、買ったものをいつものあの部屋に置いておく。その後にノービリスに行って、本を返しに行く。借りた物は追求されないさ。だってコレがあるからね」


 ロドルは燕尾服のポケットから一つのロケットペンダントを取り出した。だいぶ年季が入った古いもの。金のチェーンに繋がれ、水晶が光っている。中には金の羽のチャーム、青い花と宝石がはめ込まれていた。

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