永遠の男子高校生の日常Ⅳ
「いつの間に」
「俺だって何もしないで魔族やってるわけないだろ。人間でいた時よりも今じゃ魔族である時間の方が長いんだ。暇な時間にこういうのも覚えるよ。退屈は人を狂わせるからなー」
そう言っている間にお茶が完成した。
「確かに甘い匂いするな」
アルバートは立ち上る湯気を嗅ぐ。
「だろ? ……美味しそうじゃない」
「……飲んでからだな」
アルバートは一口それを飲んだ。
ロドルも一口含む。ロドルにとってはいつも通りの美味しいお茶だった。だが、アルバートだけが飲んだ瞬間に吹き出した。
「どうした?」
「……いや、これ、分かった……」
アルバートは口から垂れた液体をシャツの袖口で拭いた。
「お前って確か葡萄酒飲めないんだったよな」
「……? そうだけど」
「飲めない、というよりも味が分からないんだよな?」
「……まぁね。僕は元々酒が苦手だけど、葡萄酒は特に味が分からないというか飲んでも味を感じないから……」
アルバートはロドルが口をつけたカップを手に取って、それも飲み干す。そして、神妙な顔で自分が感じたことを頭の中で整理する。
「……? 僕のお茶を勝手に飲むなよ」
「なるほど」
アルバートはカップを下ろして茶筒を見た。
「これ葡萄酒が大量に入ってる。茶葉を漬けたのかその辺はちょっと分からないけど、お前が感じないのを逆手に取って大量に入ってる」
葡萄酒には血液サラサラ効果があるんだっけ、とアルバートは昔聞いた知識を思い出した。血液サラサラにして何をするつもりなのかということは考えないようにする。
「あとリンゴとイチゴ――……確かに甘いものが入ってるけど、これって」
アルバートは思ったことをロドルには言わないことにした。
昔から魔女はリンゴで相手を操る薬を作るものだ、と聞いたことがある。葡萄酒とリンゴとイチゴの組み合わせは確実にアレを狙っている。
魔女の秘薬――つまり惚れ薬。
「ジャック、これ飲まない方がいい」
「ん? なんでだ」
「なんでもだよ!」
ロドルは食ってかかるが、アルバートはロドルのカップに入っていたお茶を流しに流す。
「葡萄酒とリンゴとイチゴか。昔なんか店行った時にアンジェリカが作ってくれたジュースの材料と同じだね。あれも美味しかったけど、最近作ってくれない……ん……だ。どうした、アルバート、怖い顔して」
「いや、お前も大変だな。そしてこの話はやめよう。お前には刺激が強すぎるし、この文章を書いている本人の検索履歴が悲惨になるし、そろそろ耐えきれなくなるから」
アルバートが切り返すのをロドルは訝しげな顔をする。
「なんだ、その『文章を書いている人』って……」
「大人の事情だ。それより」
アルバートはロドルの目の下に出来た隈を見る。
「貧血は治したほうがいいと思うぞ」
「いや、お前、僕のお茶を捨てたよな」
「これは飲まない方がいい。魔術込みの怪しげな薬だぞ、これは! 全く何するつもりだ、あの年増ババァめ!」
「魔術?」
「とにかく飲むな。お前も苦労するなぁ、本当に」
「僕は君が言っていることが意味不明なんだけど」
ロドルは首を傾げる。
「お前って鈍いのか鋭いのか分かんねぇー! 変だと思わねぇのか!? お茶が切れたら店に行くんだろ。たっぷりこれ飲んで血を吸われに行くのかよ! 血液サラサラにしておいて十分熟成させて! それが狙いだっての! お前はあいつの飲料じゃねぇんだからさぁ!」
「まぁ、僕もそれは分かってるよ」
「分かんねぇー、気付け……。おい、気づいてるのかよ」
アルバートが聞くとロドルは頷いた。
「あぁ。そりゃ気づくよ、あからさまに狙ってるもの」
「じゃあなんでだ」
「仕方ないよ。僕が絶対に店に来るように仕向けているのは分かる。それを分かって行くんだよ。昨日、財布を忘れたのは僕のミスだ。僕も血を吸われるのは慣れないよ、痛いのは本当だからね」
アルバートはロドルが出してくれた紅茶を一口飲んで、さっきのお茶のお口直しをした。がしかし、こいつのこの反応は何か深い意味があるような気がするとアルバートは考えていた。
もっとまた別の理由があるような――。
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