Ep.09 僕の心が折れるまでⅡ
「黒髪は魔族が持つもの、昔からの言い伝えさ。人間で生まれるのはほんの一部でほとんど生まれない。魔力をたっぷり持って生まれる、なんて言い伝えもあったりとかして伝説級の希少価値がある。だから高く売れるんだ。こぞって権力者が手に入れようとする。綺麗な髪は更に価値が上がる。主に――観賞用としてね」
男は僕の顎をクイっと持ち上げてそう言った。僕はそれを振り払い、男は名残惜しそうに振り払われた手を見ていた。
「やっぱり人売りか」
「そうだね。服もいいもの着てたからあんまり汚したくなかったんだけど、君が嫌がるからちょっと跳ねちゃった。意識なかったはずなのに変だよね?」
それは本能かなんかだろう。意識がなかった時を言われても僕には関係ない。
「僕をどうする気だ」
「売るけど、そのままの服の方がいいかな。お友達に綺麗に化粧してもらったんだね。女の子として売った方が更に高く売れるよ。男として売ると、どうしても女の子よりは価値が下がる。それに初めっから女の子の格好をしているのにそれを利用しない手はないだろう。君は顔が可愛い方だし、多分気付かれない。だから、服はそのままにしてあげる」
「……本気でそう言ってるのか」
「本気だよ。観賞用、だから顔は傷つけちゃダメでしょ。化粧落とすにも君、暴れないって宣言できる? 葡萄酒で顔びちょびちょだったから一応拭いたは拭いたけど、落とすよりも直した方が顔綺麗になると思うけど」
呑まされた酒のせいもあるが、頭はもうすでにぐらぐら状態だ。多分、こうして冷静な判断ができないようにするのもあったのだろう。男の言うことを理解するのがだいぶ遅くなっていた。思考能力を落とされている。
「売った後に君が男だとバレたとしても、売ったこっちは殴られないから。殴られるのは君、そうだね。御主人様に『ぼったくられた』と言われても、その時にはもう遅い。君が迷惑を被って殴られておしまいさ。大丈夫だよ、君が売り場でバラさなければ気づかない。だから、おとなしくして黙っていればいいんだよ」
何を言っているんだ、と思いながら意識が遠のいていく。段々と眠くなる。瞼がとても重い。
「まだ話は終わってないよ」
急に男の声が意識に潜り込んできた。
「イタッ」
ビシッと皮膚が切り裂かれるような痛みが走って、男を見上げた。何が起こったのか分からず、ただジンジンと余韻を残す足を手で押さえることもできず、のたうち回ることもできず、痛みが引くまで耐えていた。荒い息で、どうにかこうにか痛いのを我慢しようとする。
男の低い声が、痛みに耐える僕の耳元で囁かれる。
「顔とか身体の方は傷がついちゃ困るけど、足は大丈夫だよね。それに君は観賞用として売られるんだから、逃げる足は必要ないだろう?」
男が手に持っていたのは鞭だった。
「痛っ……」
足を見ると、叩かれたところが赤く腫れ上がっていた。
「まだ話は終わってない。葡萄酒で意識を落としやすくはしたけど、まだ話はあるんだよ。寝そうになったら足を叩くから。ワンピース姿だし、素肌が出ているのは足だけ。ミミズ腫れくらいは覚悟した方がいい」
叩かれた足がじんわり痛む。確かにワンピースで足だけ素肌が出ていたが、アルバートに足を冷やしちゃダメだからと言われ、ショース ぐらいは履いていたはずだ。それが今はなくなっている。
それだけ脱がしたのか?
あぁ、嫌な予感がする。
「アルバートめ……」
今更ながらこんな服を着させられたことに腹が立ってくるが、本当に今更だ。辱めだと顔を赤らめている場合ではない。辱めならこの服を買った時から受けているのだから。
「あれ?」
僕は近くを見渡した。ワンピースの胸元も見たがそういえば無い。
「無い、あれ、あれっ!」
手首が縛られているのがもどかしい。
「お目当ての物はこれ?」
男が持っていたのはあのロケットペンダントだった。
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