Ep.38 永い、永い、夜は明けてⅠ

 教会に戻ると食堂でデファンスがカードを広げていた。ロドルはそれを一目見て声をかけた。次の日の朝。置手紙をして出て行ったロドルは一晩帰ってこられなかった。


「ロドルもやらない? 暇だからトランプをしてたの」


 誰とやるつもりなのかは分からなかったが、空いている席は四つ。カードは既に振り分けられており準備は万端。


「誰とやるんですか?」


 僕がそう聞くと嫌な声がした。猫なで声の女の人の声。振り返ると、黒衣のシスターがいた。背筋がゾッとする。


 会うたびに嫌味を言う悪魔嫌いのこの女。


「あらぁ〜、卑しき黒猫がここに何の用ですかぁ〜? 早く帰ってくださいまし」


「パッセルか……あの。僕の主人を見ていてくれたのは助かったけど、帰れとは酷いとは思わないか」


 パッセルはロドルの横をススっと通って、デファンスの向かいに座った。ロドルの言葉など彼女は聞いちゃいない。


「ということはパッセルとデファンスとあと二人なんだね?」


「そうよ、後でクレールが来るわ」


 四人でトランプか。懐かしい、昔はよくやったっけ。こんな大人数であったことはないけれど。そんなことを思いながら立っていると、デファンスが言った。


「貴方も座ってトランプしたらどう? ポーカーでも大富豪でも、ブラックジャックでもなんでもいいけど……、貴方トランプゲーム得意でしょ」


 確かに出来るけれど、僕はこう答えた。


「いえ、今日は断っておきます」


「あらあらぁ〜、もしかして負けるのが怖いんですかぁ〜?」


 パッセルがそう囃し立てる。


「逆だよ。僕がいたらみんな勝てないだろうから、勝ちは譲ってやるって言っているんだ。イカサマは封じてもいいけど、それでも僕には勝てないよ」


 自信はある。


「たいした自信ね」


「年季が違いますから」まさに年季が違う。


 部屋から出ようとすると後ろの方でパッセルとデファンスがカードを切る音がした。懐かしい、そう思った。純粋に楽しんでカードゲームをしたのはいつの時だったか。


 ――僕はもう思い出せない。

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