Ep.07 人って蹴とばせば飛ぶんですね

「へぇ、君。エクソシストに依頼をしに来たのか」


 しばらく歩いていると黒髪の青年にそう言われた。


 教会にいるからエクソシストなのかと思ったのだが、どうやら違うようだ。


 それにこの青年。何か違和感がある。


「アヴィ、と言います。貴方は?」


「僕の名前はロドル。あいにくエクソシストでもなんでもない。僕は主人……いや、彼女に付き添って来ただけです」


 ロドルはアヴィの前を歩いている。黒い髪がくるくると巻いていて風にふわりと揺れている。


「あの。僕の顔に何かついていますか?」


 気づくとロドルが顔を覗きこんでいた。あれ? さっきもこんなことがあったような――?


「いいえ。あの……黒い髪って珍しいなぁと思いまして」


「あまり見ませんか?」


 ロドルは髪の先を指でいじくる。


 ――貴方の髪も黒に近い焦げ茶ですよね。


 ロドルがそう呟いた。


 歩いていると広い庭の奥にチャペルがある。教会の講堂の方に人が集まっていて、ただいま作業をしている。


「工事中なんですか?」


「あぁ、結構前に族が入ったらしいんですよ」


「族……とは?」


「おおかた、悪魔とかですかね。教会を襲撃するとは僕には考えられませんが」


 ロドルは表情を変えずに答えた。


 そして捲し立てるように早口でこう語る。


「貴方様はエクソシストになんの用事ですか。――僕と話していても楽しくはないでしょう、僕の案内はここまでですから後は中のエクソシストに聞いてください」


 ロドルは深々とお辞儀する。まるで『僕はここまでしか案内をしない』と言うような態度だ。態度が変わりすぎじゃなかろうか。


「僕が一番信用できるし、仕事をしてくれると思っているのはクローチェという男ですから、その方に聞いてください」


 ロドルがそう言って立ち去ろうとした時だった。


「誰が逃すかぁ! このめ!」


 走ってくるのは若い男だった。彼はさっきロドルが遠目で見ていた方向から走ってくる。


 ロドルと同じく前髪が長いために左眼にかかった男。


 ロドルの「ヒェッ」という悲鳴の後、駆け込んできた男はロドルを蹴り飛ばした。拳を構えながら「はぁー、はぁー」と息をかけている。蹴っ飛ばされたロドルは側の草叢に吹っ飛ばされ、暫く仰向けになっていた。


「教会は熟知してるだと? デファンスは何処に行った。お前と一緒にいたんじゃ無かったのか!」


「酷い。僕だって蹴り飛ばされたら痛いんですけど」


 何事もなかったようにムクッと起き上がったロドルは吹っ飛ばした男に向かって歩いて行った。あんなに蹴っ飛ばされたのに怪我はどこにもなさそうだ。


 ロドルが蹴っ飛ばした男の手を引き遠くで、なにやら話し合いをしている。ここからは全く聞こえない。


「それより、クローチェ。お客だよ。依頼をしたいそうだ」


 ようやくロドルがそう切り出したのは、ロドルが吹っ飛ばされてから十五分か過ぎたことだった。

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