Ep.02 愚弄者の建前
「とっ」
「うわぁっ!?」
ふわりと飛び降りるように着地したロドルと、転げ落ちるように落ちたデファンス。地面に手を突いてもなお、デファンスは転がり落ちる。デファンスは地面に頭を打つ格好となった。
ロドルは呆れ、彼女の手を取った。
「デファンス。教会に行くんだろう。僕は忙しいんだ。早く行くぞ」
敬語が無い台詞。城ではあれだけ様付けだったのに、ロドルの言葉はぶっきらぼうになっている。
「ん? 教会は行かないんじゃ……」
デファンスの声にロドルは呆れ顔。
そんなに邪険にしなくてもいいじゃないかとデファンスは不機嫌になる。その様子を見てロドルはもう一度ため息をついた。
「デファンス。本音と建て前という言葉を知っているか? ……僕はある意味、あの城では監視下なんだよ。吸血鬼の聴覚は凄まじいからね。ここで僕が敬語を使わないのはそういうことさ」
つまり、城では教会行くことをゼーレに止められるから、『行かない』と言っていたが、それは建て前であり本音では初めから教会に行くつもりだった。――そういうことらしい。
「ここでは皇女様と呼ぶのは不審がられるから敬語も使わない」
キッと目を吊り上げるロドル。デファンスはロドルが引っ張ってくれたおかげでようやく立ち上がる。
「デファンスは尻尾も耳もここでは人間と同じになるから。まずバレないと思うんだけどさ。念の為」
ふぇ? と声を上げて頭を触るデファンス。いつもはふかふかとそこにある耳は手に触れず、代わりに絹織物のようにさらさらとした髪の毛をすくった。尻尾も同様だ。
「あ、本当だ」
「僕の姿はは魔王城でも人間と変わらないからね」
そう言うロドルを見るといつもと全く変わらない容姿だった。そもそも、彼が言う通り、彼の姿は人間と全くもって違いがないのだが。
「帽子は被りますよ。左眼で騒がれては面倒だからね」
彼の左眼には深く残る傷痕がある。ロドルは持っていた帽子を頭に置き、ぎゅっと髪を押さえた。前髪を左眼の方に寄せて、ようやく左眼だけに前髪が長くかかる。
「これでいいかな?」
ロドルはデファンスにそう確認する。
デファンスは少し考え込む。
「うーん、アレね。クローチェに似てるわ」
クローチェと言うのは、デファンスが教会に行った時に会ったエクソシストである。聞くところによると、ロドルも昔からの知り合いだったようなのだが、彼とロドルに何があるのか、デファンスは知らない。彼も左眼に髪がかかっていた。そのことを踏まえてデファンスはそう答えた。
ロドルはそれを聞いて、目を点にさせたが、やがて吹き出した。
「そうかい。そりゃよかった」
くしゃりとロドルは笑う。デファンスはその優しそうな顔に顔が赤くなる。そしてそのままの表情で、デファンスの顔にそっと近づけ耳打ちをする。
「僕はあそこまで
背筋がゾワッとするような毒舌な言葉。
愚陋の意味は愚かで卑しいこと。これに対して彼を形容するなら
どっちも読みは『ぐろう』なのに、たいした違い。
――やっぱりこいつは悪魔だ。
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