第229話:過剰すぎる、シンクロ率。①
[星暦1554年11月10日。王都キャメロット。選挙大戦準決勝。黙示録騎士団[ホーム]VS聖槍騎士団[アウエイ]。」
「あれ?マーリン。お前さん、今しがた試合中じゃなかったのかい?」
突然、「ティル・ナ・ノーグ」に現れたマーリンを見てアーサー王は驚きの声を上げた。
「ええ。まあ
マーリンのリクエストに、そこにいた3人の
「ぼくたちが?」
「ええ。相手は『かの』黙示録騎士団ですから。」
マーリンの説明は手短であったが、十分すぎるほどの説得性を秘めていたのである。4人は顔を見合わせ、同時に互いを指さす。3人が指したのは宝井舜介であった。
「じゃあ、舜さんで。」
「ええっ?なんで俺にゃのか?」
突然、指名された舜介が不満そうに声を上げる。尊が説明する。
「だって、私の術式はあまり格闘戦に向いていませんし、しばらく人間相手に戦っていない光平くんでは加減が難しいでしょうから。」
舜ははーっと大きくため息をつくと立ち上がる。
「わーったよ。俺が行けばいいんだにゃん。それじゃサクッと片付けて来るにゃ。行くよ、ベル。」
「なに?RWが指令拒否だと?」
リックの意外な反応に「誘拐犯」たちが驚く。彼らにとって、「家族をなにより大事にする」というリックのデータからは予想できない行動であったのだ。
そして、脅しというムチとともにチラつかせたアメが効かなかったことにも驚く。リックは「裏切り」が成功するれば、護法騎士団で目立つ立場へ重用する、という誘いにのらなかったのだ。それも、リックが「夜郎自大」な傾向があり極めて権力欲が強いというデータとも合わないリアクションだったのだ。
その時、もっと驚く事態に直面することになる。壁面に魔法陣が穿たれると、よっこらしょ、という感じでそこから人が現れたのだ。
「ロレーナたんは無事かにゃ?」
間の抜けた口調の闖入者に彼らは思わず尋ねてしまった。
「一体どこから入ってきたのだ?」
ここは王都郊外の地下に設けられた黙示録騎士団の秘密地下施設なのである。窓すらない地下である。
「きみたちも見てたはずにゃん。ここからにゃん。」
舜介は人差しで壁を指さす。
「なるほど、こんなところでお眠だったにゃん。」
リックの妹のロレーナは「
コールドスリーブはこの時代にはほぼ廃れていた。低速で物質の粒子/波長変換が必要な亜光速ワープから、超光速の量子ワープ方式へと変遷したためである。しかし、医療目的、また刑事処罰などのためにこのコールドスリーブの技術は保持されてきたのだ。
たとえば遺伝子治療の場合、7年間の治療期間が要する。人間の身体は7年間で細胞が総入れ替えされるからだ。アマンダが受けていた場合のように遺伝子を書き換えても完全に健康な体を取り戻すにはそれくらい時間がかかるのだ。また、重罪を犯した人間を処罰するためぐらいしか用いることはない。受刑者は100年単位で眠ってもらうことで、被害者との接触や、犯人からの報復を避けることができるし、管理も容易で、しかも脱獄の心配もないからだ。
ロレーナを「騒がせず」また、心音や体温によって外部の人間に察知されないために隠すのにうってつけと言えるだろう。
「どうやってここを嗅ぎつけた?」
誘拐犯は苦々しそうに尋ねる。
「それは『禁則事項』だにゃん。」
キングアーサーシステムは惑星と同化しているのである。惑星内のすみずみにまで
それで黙示録騎士団の「隠れ家」についても惑星内のものは全て把握しているのだ。逆に言えば、王に敵対する勢力には、ひとえに衛星要塞「ア・バオア・クー」というその力が及ばない場所が不可欠な理由でもある。
一人の騎士が黙って舜介に斬りかかる。しかし、そうしようとする前に身体が全く動かなくなってしまったのだ。
「な⋯⋯?」
その部屋にいた全員が全く身動き一つ取れなくてなってしまったのだ。
その技の名は誰もが知っていた。
「
「まさか、貴様?……暗黒副帝ガタノソアの技を使える人間なんて、この惑星には一人しかいないはず……、いや、嘘だろ?」
騎士の一人が舜介の正体に気づく。
舜介は部屋を歩き、ロレーナの入れられたコールドスリーブカプセルの側に立つ。
「そう。最初に俺の正体を類推しなかった君たちのミスだね。僕の名は宝井舜介=ガウェイン。
騎士たちの血の気が一気にひく。
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