第217話:拮抗すぎる、戦局。❷

[星暦1554年10月27日。聖都アヴァロン。選挙大戦準々決勝。聖槍騎士団 (ホーム)対鎮守府。]


第4セットは殲滅戦である。

聖槍の操手アクターはもはやこの競技では第一人者といえるリーナである。

「リンドブルム」が形成された。今回、駆動系を担当する翼手ウイングに凜が入った。

「お兄ちゃん、十兵衛ジュードさんも翼手ウイングですね。」

リーナが嬉しそうにいう。

「そうみたいだね。」

もちろん、先ほどの十兵衛の戦い方を見て、殲滅戦であれば間違いなく翼手ウイングだろう、と予想した通りであった。恐らく、彼が操手アクターとなればリーナとて大苦戦を余儀なくされていただろう。しかし、助っ人の彼を中心に据えられるほど鎮守府のプライドは低くはない、そう見立てたのだ。


今回の鎮守府の「オリオン」であった。古の狩猟神であり、鎮守府にふさわしいものと言えた。

 大柄なリンドブルムと引けをとらない堂々とした体躯左手に盾、右手に短めの剣を装備していた。

(オリオンなら『棍棒』がデフォルトでしょうに。)

ゼルのツッコミにリーナはふっと笑った。

「よろしい。お相手いたそう。」

すっかり「リン様」モードになっているあたり、集中できているのだろう。

(なまじっか、『柳生十兵衛』のブランドに馴染みが無い方が思いっきりいけるんじゃないでしょうか?)

ゼルの感想に凜も黙って頷く。


リーナの振るう刀が空を切る。

「トム。」


 凜に促されるまま盾手ディフェンダーのトムがリーナの防御をサポートする。ガキン、という鈍い音と共にオリオンの剣を盾が防いだ。


「目測が効かない。」

リーナが浅い呼吸を何度も繰り返す。

「リーナ、目に頼らないで。今回は僕とトム、そしてリーナ、3人の力を合わせる必要がある。さっきの団体戦でわかったことがある。ジュードさんは完全にチームメイトの動きを把握している。その上で彼らに防御をかけているんだ。まさに『活人剣』の面目躍如というところだ。

そして、間違いなく僕らのデータもすでに取得しているはずだ。」


「いくら達人だからと言って、こちらの攻撃を全部防御できっこないんじゃないか?」

トムの指摘に凜は頭をふる。

「その昔『将棋』というボードゲームがあった。まあ、今でもあるんだけどね。そのプロプレイヤーたちは棋譜とよばれる戦法がそれこそ数千通り頭に入っていて、盤面を見ただけで一瞬にしてその棋譜を引き出せたという。そういうことだ。」


「なるほど、剣で戦う以上、こちらの戦法はお見通し、ってことか。じゃあ、どうするの?」

トムの指摘に凜は意外な戦法に出た。

「ゼル、きみが指揮をとれ。僕らのC3をクラスタ化し、ゼルという人格で統一するんだ。」


凜の作戦にリコが異論をはさんだ。

「それはその昔、人類が『ジャスティン』システムで失敗した手じゃないですか?ホントにそれでいいのですか?」

「そうだ。リコ、ティンクも協力してくれるね?」

トムとリーナの脳内に宿る二人も了承した。


「えへへ、実は一回、やって見たかったのですよ。」

ゼルの方ははノリノリであった。

「リック、武器チェンジです。」

攻撃手ストライカーのリックに命じ武器を変える。剣の長さがぐっとのぶ、より細身になる。十兵衛がつぶやく。

「ほう速度を重視するか。しかし、目先を変えれば良いと言うものではない。」


 しかし、「リンドブルム」が振るった剣は「伸びた」。剣の刃が蛇腹のように稼働し、鞭のような動きを見せたのだ。その切っ先はオリオンの背中を捉えた。


「なんだと?」

思わぬ攻撃に鎮守府チームに動揺が走る。


「『ガリア●ソード』です。」

いわゆる蛇腹剣である。剣でありながら、中にワイアーが仕込まれていて、鞭のように扱えるのだ。ただ、扱いがあまりにも難しいため、実際の戦闘では使えないと言われている。

 何しろ軌道予測が難しく、場合によっては自分を傷つけかねないものだからだ。軌道どころか射程すら不規則なのである。


「ヒャッハー。」

もちろん、十兵衛でさえ前世はおろかこの世界でも見たことがない。一方、C3を3「台」クラスタ化して巨大な演算能力を得たロゼは「ミリ単位」の正確さでその難解な武器を操る。

 リンドブルムには10mの体長があるため、相対的には「ミクロン単位」の正確さとも言えるだろう。


「リン様は『ヒャッハー』なんて言わないもん。」

リーナが少し拗ねた。


 一方、ジュードは防御の立て直しに苦慮していた。剣筋は読めるようになってきた。しかし、読みに特化すれば動きに鈍さが出る。「前世」でお目にかかったこともない武器だ。

「鎖鎌も達人が操れば嫌なものだと思ったが。仕方ない。拙者は防御に徹する。相手は拙者に読ませまいとして、とんでもない武器エモノを出して来おった。」


しかし、「鞭状態」で慣れれば「剣状態」に戻って攻撃を仕掛ける。 軌道を予測すれば右手から左手に持ち替える。

「拙者に『間合い』を読ませぬとは⋯⋯。」

十兵衛が唇を噛む。


ゼルが勝ち誇ったように言う。

「こちらのC3は容量3倍、しかもコアも3倍です。ただ、この殲滅戦でしか使えないのが玉に疵ですけどね。」


 しかし、ジュードも読み切ってきた。性能差を簡単に詰めてくるところが、さすが理論武装した天才である。

「さあ、今度はこちらの番だ。残り時間もわずかじゃ、一気に攻勢に出る。」


しかし、蛇腹剣の攻撃軌道はさらに変化を見せる。

「くそ、地べたを使いおったか⋯⋯。」

今度地面を使って軌道を変化させたのだ。


タイムアップしてAIによるダメージ判定に持ち込まれる。

「勝者、聖槍騎士団。」

今度は凜たち聖槍に軍配があがった。これでセットカウント2対2。勝負の行方は最後のトーナメントに持ち込まれた。

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