第212話:やっとすぎる、「お帰り」。❶
[星暦1554年10月23日。アヴァロン。]
ケビンとジーンは捜査を続けていた。シャルル・ルイ・デオン・ド・ボーモンを名乗る青年。青年と言っても実際の年齢は15歳のはずで、まだ子供にすぎない。しかし、越えてきた修羅場の数と。脳内にインストールされたシャルの持つ「人生経験」によって、実年齢とはかけ離れたたたずまいを見せているのである。
彼がテロ集団「
「それで、ルイ君はこの
張り込みをする車の中でジーンはケビンに尋ねた。
「さあな。凜が言うには勝っても負けても円卓のおっさんたちを暴発させるのが目的なんだろうが、」
ケビンはタブレット・デバイスをジーンに渡した。
「見てくれ、これが例の
含まれる膨大なデータファイル、そしてそれを見やすくまとめてある手際にジーンは目を丸くした。
「こ⋯⋯これは、ぜひうちに、いや『一課に一台』欲しいですね。ナベちゃん、有能すぎです。」
「ああ、激しく同意だ。ただ、感心してるだけでは困る。これを見てくれ。」
すでに凜と対戦を終えたビリー・ザ・キッド、武蔵坊弁慶、ブルース・リーの三名は身柄を円卓によって新設された「大災害対策本部」に移され、騎士たちの教練にあたっているという。
呂布に関しては「食客」を気取り、なにもせずにただぶらぶらしているという。
「まあ、ホンモノの英雄かどうかはさておいて、扱いづらいでしょうね、部下にするには。まあ、ルイ君たら若いのに有能なのね。どなたさんとは大違い。」
「うるせえ。」
ジーンの論評にケビンもうなずいた。そして次のページを指さす。
「そして、『とっかかり』となるのがこの人だ、というわけだ。」
それが、「アマンダ・ジェイコブス」、カフェ・ド・シュバリエで働くアマンダさんである。
「え?マンディが、なぜ?」
カフェの2階に「旅団本部(仮)」と共に「捜査本部(仮)」を置いている二人にとってもアマンダはすでに友人と言ってもいい存在だったのである。
「あの
ナベリウスによる聴取によってそれはすでに明らかになっていたのだ。どう考えても彼らの計画において重要なのは間違いない。
「それならなぜ、ルイ君は彼女をこんな『敵』の只中に放置しているのでしょうか?」
ジーンの問いにケビンは苦笑を噛み殺しながら続ける。
「またその逆に、それを知っていて尚、凜が彼女を近くにおいて置く理由も、だろ。⋯⋯実は、彼女がスパイなのでは、という疑いが出てるんだ。それでこうして張っているわけだ。」
その時、カフェの裏口が開き、パジャマの上にガウンを羽織ったアマンダが姿を現した。
「どうしたんだろ?こんな時間に。」
訝るジーンにケビンは自分の唇に人差し指をあてて静かにするように促す。
「来た。」
闇から、空気を切り裂くような音が聞こえ、東洋の人形のような子供が二人、表れる。
「子供⋯⋯? いや人形か?」
ジーンが現場の動画を撮る。アマンダの眼は虚ろである。彼女は手をその人形に伸ばした。ケビンは静かにパワーウインドーを下ろし、銃を構える。その銃は鎮守府が使用するような
しかし、静かにケビンの手に誰かの手が触れた。驚いたケビンが手の主を見るとそれはヘンリーのものであった。
「ちょっと待ってくれないか?⋯⋯マンディはスパイなんかじゃ無い。実は、何度かこういう事があったんだ。」
ヘンリーはバツが悪そうに頭をかく。
やがて、人形はものすごい勢いで飛び去ると、そこにアマンダだけが佇んでいた。
「マンディ、大丈夫?」
ジーンがアマンダの肩に手を置くと彼女はその場で崩れ堕ちそうになった。彼女は寝息を立てていたのだ。ジーンは支えたが彼女の意外な重みでしりもちをつく。
「眠ってるのか?」
ケビンが驚いたように言う。ヘンリーが彼女の身体を起しながら答えた。
「ああ。おそらくマンディは何も覚えていないだろう。……こうして起き上がった事さえね。」
「何度かこういうことがあったの?」
「あ、俺が。」
問いには答えず、手慣れた感じでジーンからアマンダを受け取ると、ヘンリーはお姫様抱っこでカフェに運んだ。とりあえず2階の道場のソファに彼女を横たえ、毛布をかける。
そこに、ヘンリーから連絡を受けた凜がやって来た。凜が答える。
「今回は、二人に彼女が無意識下の行動だということを知ってほしかったんだ。あの人形は間違いなく弁慶さんの
「じゃあ最初からわかっていて、彼女を放置しておいたのか?」
ケビンが少しあきれたように聞いた。
「ええ。予想はしていました。」
ゼルが無表情に言った。
「最初に彼女がこの店にたどり着いたときに脳をスキャンしましたが、すでに潜伏を確認していたのです。『リモコン』の存在をね。彼女は時として『何者』かによって操られているようなのです。」
アマンダの脳内で「シャル」は育成されたのだ。シャルは「デオン・ド・ボーモン」の生涯をトレースし、そのあと、ルイの脳にインストールされたのだ。その際、プログラムの一部を彼女の中に残してあったのだ。
「何者かに、って間違いなくデオン・ド・ボーモン、いやルイ・リンカーンだろ?普通に考えて。あきれたな。じゃあ、凜、君はスパイを自分で引き込んだのか?」
ケビンは呆れたように聞く。凜はため息をついてから答えた。
「ええ。恐らく彼女は『捨て駒』でしょう。失敗しても煮るなり焼くなりすれば良い、送り込んだ側はそう思っていることでしょう。でもそれではあんまりです。拉致され、脳内を引っ掻き回されて記憶を失い、あまつさえスパイとして利用される。そんな彼女の人生がバッドエンドで終わってはいけないのです。」
「なぜ、彼女をスパイに仕立てあげたんだろう?」
答えは簡単である。この惑星の通信業務はキングアーサーシステムが全てを掌握している。王に反対する組織は、情報の移動経路は自前で揃えねばならないからだ。
「あれ?ここは……。あの⋯⋯みなさん、お揃いで⋯⋯。」
アマンダが目を覚ました。
「私、いつの間にこんなところで寝てたんですね。」
アマンダは自分が人前でで寝ていたことに恥ずかしさを感じていた。
(寝顔をみんなに見られちゃった。しかもノーメイクだし。)
「あの、すみません。いつ、こんなところで寝込んでしまったのかしら。」
アマンダは恥ずかしそうに起き上がると自室へ去ろうとした。起きたばかりで足元がややふらついている。
「アマンダさん、さきほど、どなたかとお会いしましたか?」
ケビンが尋ねるとアマンダは不思議そうに首を傾げて答えた。
「いいえ。今迄はよく眠っていましたけど。こんなところで寝ているなんてさえ気がつかないほどに。」
「この動画を見てください。これはあなたですよね?」
ケビンがさきほど撮った動画をアマンダに見せる。
「ええ。でも、いつの動画ですか?私、こんな子供の知り合いなんていませんけど。ハリー、皆さんにコーヒーをお出しした方がいいかしら?淹れてきましょうか?」
それには凜が答える。
「いいえ、おかまいなく。どうぞ休んでください。
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