第210話:既視感すぎる、ヤマアラシ。①

[星暦1554年10月20日。北の軍都イグレーヌ。選挙大戦コンクラーベ準々決勝。ホーム鎮守府。アウエイ聖槍騎士団。]


 フォークにとって凜の最終奥義、零式ジークは未だになぞに包まれたままなのである。英雄たちの督戦監督であるルイでさえ、依然としてつかめていないのだ。

「『零式ジーク』の秘密が分からん。」

 極端な話、今日の試合は落としてしまってもいい。なんとしても手がかりをつかみたいのだ。そのためにはスキルを出させる状況にまで凜を追い込まねばならない。


(『虎穴に入らずんば虎子を得ず』……か。)

フォークはガンソードをしまうと、拳銃と重力式ショットガンに持ち替える。

凜は興味深そうに聞く。

「ほう、二刀流ならぬ『二銃流』⋯⋯というわけですか。」

「ええ、こちらもそろそろ本気でいかせていただきます。」

フォークはそう言うと、変身技コンバータを使った。

「絶技、ミーティア。」

「ミーティア」とは「彗星」の意味である。身体の前面からバリアが彗星の尾のように後ろに放射され、高速で移動、攻撃をかける技だ。


 そして、重力式ショットガンは、「弾丸」の方にではなく「銃」の方に「重力制御技術」を使用している銃である。ビリーが使っていた「量子共振型」程ではないものの打ち出しに重力波を使うため、発射速度と威力が恐ろしく高い。いわば超小型レールガンだと思っていい。

なにしろこの銃の登場でエネルギーを浪費し過ぎるレールガンはほぼ駆逐されてしまったくらいだ。ちょっとしたゲームチェンジャー的な存在なのである。


 これこそがフォークの「最終形態」であり「絶技」でもある。さらに、ビリーが用いていた「無限リロード」も同時に発動されている。


「四式・疾風フランク。」

凜も最終形態を取る。二人とも勝負に出たのだ。凜は空前絶後フェイルノートを出した。右手には矢の束が現れる。


絶技チェック烈風サム。」

かってグレイスとの御前試合で使った戦法を一つのスキルとして体系化したものである。複数の矢を射て、それを「遠隔操作サイコミュ兵器」として使う技である。


「残念ですが、それはこちらも想定済みです。」

フォークはものすごい速度で移動を開始する。

「どこか既視感デジャヴを感じますね。まるでヤマアラシのようです。ヤマアラシ、標準語スタンダードでは確かヘッジホッグ。そう、まさに音速のヤマアラシ、名づけるとすれば、ソニッ●・ザ・ヘ……。」

ゼルが不適切極まりないネーミングをしようとしたので、凜はゼルの頭につっこみをいれようとした。しかし、ゼルはそれを背中で受けたのだ。

ガ……ガああ……。」

(くそ、そこまで計算していたとは。)

凜はゼルの周到なボケにため息をついた。


一方、フォークは尋常ではない加速をはじめる。

(トリスタン卿の技は速度重視のものが多い。それは彼の基本戦術が航空戦闘術マニューバに基づいているからです)

 実は航空兵器と地上兵器が交戦した場合、航空兵器側の勝率キルレシオが圧倒的に高いのだ。フォークはそれにすでに着目しており、研究を重ねて来たのだ。


「背中がお留守ですよ。」

凜の背中を狙うフォークのさらに背後から凜の放った矢が襲いかかる。

「それが、想定済みなのですよ。」

旋回した凜とすれ違いざまにフォークは笑う。

バリアが頭から背中にかけて流れているため、背後からの攻撃は万全なのだ。そこはまさにヤマアラシのトゲのようになっていた。

そこに凜の放った矢が絡め取られる。

(GTRグレイス卿との御前試合は衝撃的だった。いや、猟師としては嫉妬すら感じた。だからこそ、この空前絶後フェイルノートとの勝負、ぜひとも勝ちたいのです。)

 そう、その時、矢は滞空しており、凜の意を受ければ再び加速するのだ。そんな兵器を放っておくのはナンセンスであった。

ガッ、という金属音が響く。ガンソード違い空前絶後フェイルノート自体には攻撃能力はない。徐々に凜はコーナーへと追いやられる。


(追い詰めた!)

フォークは勝利を確信する。

最終奥義チェックメイト、コズミック・ブレイク!」

重力式ショットガンの銃口が光る。実戦で数多の強力な魔獣たちを屠った技である。

一方、凜は天衣無縫ドレッドノートに持ち替えていた。

絶技チェック紫電改ジョージ21!」

すれ違い様に攻撃を交わす。

(もらった)

フォークがトリガーを引いた瞬間、身体が止まる。

(何?)

なにがなんだかわからないまま、凜の斬撃が決まる。


「矢⋯⋯か?」

バリアでからめとったはずの矢が禍々しいほどの重力波を放っていたのだ。加重矢グラヴィティ・インクリーザーである。やじりに重力子金属が埋め込まれていて、恐ろしいほどの重さになる。凜はかうてガイアで最初のリーナ奪還戦で短剣党シカリオンとの戦いで使っただけである。そのため、フォークはその存在を知らなかったのだ。


「勝者、棗凜太朗=トリスタン。試合終了ノーサイド! この試合ジョスト、勝者は聖槍騎士団。」

審判の宣告コールに観客はどよめく。まさか、鎮守府に土が付くとは思っても見なかったのだろう。

「さほど慌てる必要はない。次で勝てばいい。」

ロマノフスキは面白くなさそうに席を立ち上がる。

「ジュード先生、次はお願いするかもしれませんよ。」

ロマノフスキはたち去り際、十兵衛に告げた。

「承知した。」

十兵衛は頭を下げる。それが、ロマノフスキの精一杯のへりくだりであることが分かっていたからだ。

(武人とはかくも不器用なものよ。)

十兵衛には痛いほど伝わってきたのだ。騎士たちがこの選挙大戦にかけるものの重さが。

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