第200話:テンプレすぎる、野望。❸

[星暦1554年10月13日。聖都アヴァロン。選挙大戦決勝トーナメント第一戦。聖槍騎士団(ホーム)対大宰府。]


 さて今回、どうしても勝たねばならない太宰府は、先回の「流し」に近いメンバーを改め、ベストメンバーで臨んで来たのだ。

聖槍は地上戦を落とし、空戦も大将戦までもつれこむ。奇しくも大将はトムとルークである。


 二人は礼を交わすと静かに向かい合う。トムの中には未だに迷いがある。しかし、この戦いにおいて彼に迷いはなかった。接して見ればわかる、偉人と呼ばれた男の器の大きさ。全てを喰らい尽くし、のみ尽くさんとする貪婪な猛獣の、そして野山を焼き尽くす炎のそれである。


(なんと俺の小さなことか⋯⋯)

 心の中でつぶやく。これまでトムを支配していたのは子供の頃に味わったいじめへの恐怖、自尊心を打ち砕かれた恨み。自分を妬む親族たちへの蔑み。ルーク、いや呂奉先という男がかかえていたものに比べてあまりにちっぽけではないかと。

「そんなに変わらないと思いますよ。」

リコがささやいた。


「小さな者を、弱い者を守ってあげたい、その気持ちは変わりません。そして、かつて圧倒的に弱者であったお兄ちゃんだからこそ、わかることもあります。小さき者、弱き者の痛みと苦しみと悲しみが。お兄ちゃんは彼らを守る英雄でなくてもいいんですよ。みんなに『寄り添う』存在であれば。」


トムは「救世偃月鎌デリバラー」を構えた。

(「寄り添う」……か。)


「いい面構えになったな、トムよ。」

ルークも方天画戟を掲げた。

「どうも。」

 トムは自分から出た言葉に驚く。これまでなら「見下された」、と感じて反発したかもしれない。素直に礼の言葉が出たことに。

(全力でぶつかってやろう。それがルークさんに対する最大の敬意の表し方なのだから。)


「出でよ、ホルスの子ら。イムセティ、ケベフセヌエフ、 ドゥアムテフ、ハピ!」

トムの周りに4体のガーゴイルが現れる。ルークはにやりとする。

「力任せで通じる相手かどうかは先日身をもって知ったはずだが。」


しかし、トムは4体のガーゴイルとともに突進する。ルークは自分に取りつこうとしたガーゴイルを払おうとした一瞬の隙をトムにつかれる。ワンテンポ対応が遅れれば腹部にトムの斬撃クリーンヒットを入れられるところであった。

「なるほど、召喚技サモンズ分身技アバターの合わせ技か。」

しかし、自分も攻撃を繰り出しながら複数の召喚獣を操るのはやはりトムの脳にもC3領域が出来上がっていることの証拠なのだ。


(向こうの「インプ」はこちらより一枚落ちるが、操る人間ナカノヒトはこちらが一枚落ちる。互角……のはずだ。)

リックは呼吸を整える。


「その意気や好し!衡山かうざん 朱雀!出でよ難訓!」

ルークも受けて立つのだろう。身にまとった甲冑が赤みを帯びる。攻撃特化型のフォームである。また、彼の傍に虎の牙を持つ牛が現われる。古代中国の伝説の凶獣、「難訓」(窮奇とも呼ばれる)である。


ルークは「難訓」に跨ると方天画戟を掲げ突進してくる。デスサイズは形状的に直線攻撃を受けるのは弱いのだ。

「散開。」

トムと4体のガーゴイルはは強力な直撃を躱すと背後から襲いかかる。しかし、一体のガーゴイルが屠られる。

(お兄ちゃん!?)

「慌てるな、リコ。まだ三体ある。もう一度くるぞ。」


今度は鎌の柄で戟の打突を躱すと、果敢に斬りかかる。しかし、その一撃をルークに柄で防がれ、返す一撃でまた一体ガーゴイルを落とされる。

「馬上戦はさすがに向こうが上か。しかしこちらがつきあってやる必要はない。雪嵐ブリザード!」

今度は突進する難訓が脚をとられて、上のルークを振り落とす。


絶技チェック竜巻ドラゴン・ツイスター F1!」

トムの周囲を囲むように細い竜巻が次々と立ち上がる。

(これでは「盤古バン・グー」は間に合わぬか……、)

「絶技!「大魔王デーモンキング蚩尤チーヨウ!」

ルークの甲冑がまがまがしいほどの黒に染まる。空気が震え、獣のような咆哮があがる。変身技を組み込んだ最終奥義である。その腕が振るう方天画戟は稲妻のようにはやい。

鈍い音がして画戟が竜巻に止められる。無数の細い竜巻は合体してその強さをましていく。


「F6!」

巨大化した竜巻がルークを飲み込む。その竜巻にトムは刃を送り込む。

「ぬうううううううううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。」

ルークの断末魔とも雄たけびとも聞こえる叫びが闘技場に轟いた。

トムは竜巻の制御に集中する。もはやC3を駆使しても竜巻の制御でいっぱいなほどの威力なのだ。


(俺は、俺は決して負けぬ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)

竜巻の表面に稲光がきらめき、その中から黒い腕が現れる。

(くそ!最大でこれか?抑えきれないか)

アヌビスは本来「智天使ケルブ」であるため、競技では力を天使なみに封印デチューンしているのだ。

 そして、ついに黒い怪物と化したルークが技を破り、方天画戟をまったく動けないトムにつきたてる。


そこで、終了のブザーがなった。AIによるダメージ判定がなされる。

「勝者!ルーク・フォンダ人位。空戦マニューバ、セットカウント3-2、第二ゲーム大宰府。」


(くそ、負けたか。あと少しだったのに。)

「惜しかったな。今回は天運が俺に味方したにすぎんよ。」

拳を握りしめ、唇をかむトムはルークと握手をかわして踵をかえす。するとどさっとという音がして振り返るとルークが膝をついていたのである。


「トム、気にするな。先回の貯金がある。なんとか一つはとろう。それに、勝負に負けたが、完敗というわけじゃない。地球最強戦士の一人ををあれだけ苦しめたんだ。トム、もっと胸を張って良い。」

「ああ。」

凜に言われて、トムは気を取り直す。そう、後ろを振り返っている場合でも立場でもない。前進しかないのである。それが、誰かを守るということなのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る