第197話:びっくりすぎる、騎馬戦。③
「騎馬戦」とは古代地球の中世ヨーロッパで生まれた「馬上槍試合ジョスト」に由来する。選挙大戦コンクラーベで試合をそう呼ぶのはそのなごりである。馬に乗った騎士が大槍を持って突進し、槍を突き合って落馬した方が負けとなるのである。ただし、団体戦の旗取りのルールは変わらず、旗手である凜とルーク、落ちた方のチームが負けとなるのだ。
地上戦、空戦の召喚技サモンズなら出現時間の制限があるが「騎馬戦」である以上決着が着くまで使用可能だ。
背中合わせにスタートした両軍がやがて激突しようとする。
「オラ、オラ、オラ。」
ルークが雄叫びを上げる。ルークと凜が激突する。物凄い金属音と共に凜の持つ大槍が弾き飛ばされた。
(やはり、騎馬戦術では呂布に一日の長があるか。)
一方で、凜のチームの馬たちの首がいきなり変化する。
「ケンタウロス⋯⋯だと。」
馬の首から手が生え、大楯を構えると槍の切っ先を交わす。その後ろから出た槍先が当たった。虚を突かれた太宰府の2騎が落馬する。交差した両軍は馬の首をそれぞれ左に向けるとフィールドを立て方向に馬を走らせ助走をつける。
「あれ(ケンタウロス)はルール違反では無いのか?」
疑義を差し挟むチームメンバーをルークは笑い飛ばす。
「愉快ではないか?勝つために死力を尽くす。結構なことだ。人の倫みちに反せぬ限り、文句をつけるなぞ、野暮な事だ。それよりも、もっとヤツらを驚かせるような仕掛けは無いのか?」
今度は互いに威力増強技ブースターを使っての激突になる。かなりの勢いでぶつかり合うことになる。ルークとぶつかりあったロゼの馬が弾き飛ばされて、ロゼが落馬する。ただ、猫並みの三半規管のため見事な三点着地を決めた。
「どや⋯⋯、って落ちたらあかんやーん。」
そして、再び馬の鼻を互いに左に向け、次の激突に備えた助走を始める。しかし、今度は太宰府の馬が宙を掛け始めた。ルークに斜め後ろからの死角をつかれ、リックが転げおとされる。
「ペガサスかよ!?」
しかし、先にケンタウロスをやってしまっているため文句も言えない。呂布は前世では「飛将」と称されたが、当時の人々は彼が本当に飛ぶとは思ってもみなかっただろう。
一方、凜の魔弓、空前絶後フェイルノートからの矢の攻撃が始まる。十本以上の矢が次々に僚友を屠る。ルークは刀をぬいて、2,3本落とす。
「なるほどな、今どき、弓矢にも斯様な使い道があったか。⋯⋯みておれ、俺が決着をつけてやろうぞ。」
ルークがコースを調整し、凜の方へむきを変えた時、馬が突然頽れる。その拍子に慣性の法則でルークの身体が投げ出される。
無論、天使を纏っているため、身体にはダメージがないが、落馬による失格になる。ルークが馬を見ると後脚を刈られていたのだ。それはトムの仕業であった。
「馬の脚を刈ったか。なるほどな。」
馬が本物であれば躊躇もあったろうが、作りモノであれば遠慮の必要はなかった。古代にも馬の足止めの戦法はあったが、歩兵との戦いでのことであった。
「馬を狙うとは卑怯な!」
太宰府の騎士たちが怒る。
(それを卑怯呼ばわりするには勝たねばならん。戦いとは結果が全てよ。)
旗手のルークを失った時点で聖槍の勝利となった。凜は思わぬ展開に苦笑をもらした。
「馬の脚を狙うとはね。ルークも予想しなかったろうが、僕も予想してなかったよ。なんとなくこうだろう、と前例で決めつける癖が誰にでもあるもんだな。」
第4戦の殲滅戦メレである。
ここは、リーナの独壇場である。
「竜騎士ドラグーン飛龍公プリンスリンドブルム、形成フォームアップ!」
リーナが宣告すると、地面に魔法陣が描かれ、そこから白銀の鎧を纏った騎士姿のロボットが現れる。白銀の西洋兜を被ている。白い鞘と銀細工が施された鍔があしらわれた大小二振りの刀を腰に下げていた。そしてその背には龍の銀翼がついていた。
今回、「翼手ウイング」は凜「盾手ディフェンダー」をロゼ、「打撃手ストライカー」はリックが務める。そして「砲撃手ガンナー」をトムとメグ、そしてジェシカが務める。
「原初の巨人フォルショート、形成フォームアップ!」
一方、ルークは「砲撃手ガンナー」に回ったようだ。実は、この競技は太宰府が十八番にしていたものだった。しかし、リーナの成長ぶりは彼らの「得意」をすでに凌駕していた。傀儡を手足のように使うことに幼少期から馴れ親しんでいるアポロニア人にとってこの競技こそ得手だったのだ。
「動きがまた格段に良くなっていますね。」
マーリンが留守番仲間のアンに言う。
「そうなんだ⋯⋯。よくわかんないけど。ただ、すごくリーナが楽しそうなのは、わかるよ。」
リーナは超記憶症候群ハイパーサイメシアという特異体質のため見たものをすべて記憶してしまうことができるが、医学を修めることによって、より解剖学的に人の動きが把握できるようになっているのだ。そのため、どの操作者アクターよりも細やかなイメージを発することができるのだ。
「速い。⋯⋯。」
太宰府のアクターが唸る。
「いったいどんな操作オペレーションシステムを組んでいやがるんだ?あり得ん。」
ただ、太宰府が日夜相対している巨人族レファイムたちは力が強いとはいえ、訓練された戦士という訳ではない。
彼らがスフィアに対する入植政策を強めるのはもう少し先の時代なのである。
「まるでこちらの動きが見えているかのようだ。」
ルークはC3について、知っている事を言ってやった方がいいのかどうか、考えた結果、黙っていることにしたのだ。なまじっか今助言アドバイスを与えたところで、成果を上げたところで自分に帰ってくる誉はほぼないのだ。それなら、自分の価値を高めておいた方がいいだろう。
ルークはハワード親子に1年ほど仕えてみて理解したことがある。それは彼らがこの「選挙大戦コンクラーベ」で出た結果が、自分たちにとって思惑通りで無かった場合どうするか、ということだ。間違いなく彼らはその結果をひっくり返すような手を打つだろうということだ。
無論、それはルーク自身が、「呂布」として人生を送った経験から感じたものだ。為政者を志す者は「潔く」てはならないのだ。あらゆる布石を打つべきなのだ。
「潔い」劉玄徳は敗れ、「強か」な曹孟徳は生き残った。今回の自分の人生はどうなるのか。
やがて、勝敗は決する。これでリーナは「操作者アクター」としての評価を得たことになる。以後リーナは研究の対象となることだろう。
ホームアンドアウェイのホーム戦を落とす、ということは太宰府にとってはかなりの誤算であった。しかし、「聖槍」相手であるため、まだ勝機は充分にあると目論んでいたのだ。
「トムよ。」
ノーサイドの後、ルークはトムを呼び止めた。ルークは「カナン人」の集落についてトムが誰かに口外したか確かめたかったのだ。しかし、トムも誰にも言うつもりはなかったため、それを否定した。
「そうか、よかったらそちもたまに顔を出してやってくれ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます