第185話:とめどなさすぎる、流れのように。①

[星暦1544年9月14日。法都シャスティフォル.選挙大戦コンクラーベ一次リーグ第5戦。ヘラクレス騎士団(ホーム)対 聖槍騎士団。]


第5戦が始まる。


 最初の地上戦デュエルは1勝1敗で中堅のロゼとブルースがぶつかることになった。


開始線で礼を交わす。


「アルティメット・フォーム!」

 ロゼはパワーモードの「アルティメット・フォーム」からスタートした。凜の「一式」から「三式」のようなフォームもしくはモードチェンジは最初にまとめて発動しておけば、何度でも変更可能である。


ブルースはそのまま構え、代名詞ともいえる「怪鳥音」を発する。

(ふむ、良い眼だ。)

最初の攻防が繰り広げられる。功夫カンフーの拳と蹴りによる攻防だ。ロゼの蹴りも拳も先回の対戦よりも鋭くなっている。

(なるほど、よく『地に足が着いている』ようだな。)

昨日、ロゼがアマチュアの女の子を相手に勝ちきれなかったのは身体の芯がぶれていたからだ。重力制御ブーツに安易に頼るようになると、それが基礎鍛錬を怠らせ、結果としてむしろ成長を阻害してしまう。それゆえにブルースは道場を開いて世間に真の強さを求め、また伝えたいと願ったのだ。


 しかし、普通に打ち合っていればやはりブルースの方が格上である。ロゼはじりじりと後退させられる。

(アカン、一本調子では打ち負けや。)


「ブラスター・フォーム。」

ロゼはフォームを変える。昨日掴んだイメージを活かして見たい、そんな気持ちが込められていた。

軒昂新弾けんこうしんだん!」

鋭いバリア弾が撃ち込まれる。ブルースもヌンチャクを出すとそれを弾き飛ばす。

(お嬢さん、どうやら迷いを乗り越えたようだな。しかし、先達としてはそんなところで満足してもらっては困る。ここは新たな課題を与えるとしよう。)


「三の段、『猛龍過江ウエイ・トゥザ・ドラゴン』!」

ブルースの怪鳥音が響くとロゼは足元がぐらつくのを感じた。

ブルースが自らの周囲の重力を操っているのだ。いわゆる複合技で、重力波を使った直接攻撃ではなく、周囲の重力を不安定にする大技だ。ロゼが前回も苦しめられた技であった。

(あかん、頭がグラグラする。)

ロゼはまるで大きな海の波に巻き込まれたかのように感じる。足元がおぼつかず、跳躍しても、思った方角、思った高さに跳ぶことができない。激しい違和感、倦怠感を覚える。

(まるで渦潮にまきこまれた木の葉のようや)

ロゼは一歩も動けない。そこにつかつかとブルースが近づいて来た。その顔は勝利への確信に満ち溢れていた。


「常人では立ち上がることも困難だろうな。立っているだけでも大したものだ。」

ブルースがとどめを刺そうとロゼに寄った瞬間、ロゼは垂直に跳躍する。

(なに?)

虚をつかれたブルースの延髄にロゼの蹴りが入る。

「このネコ耳は伊達やないで。うちの三半規管はネコ並なんや。」

そう言ったものの、ダメージは深刻だ。

(そう、⋯⋯木の葉は沈んでも、必ず浮上するんや。たとえ倒れようと、また立ち上がれば、それでいい

ロゼの民族カルタゴ人は、宇宙船での船酔い防止のためにネコの遺伝子を組み込んできたのだ。

「クライマックス・フォーム。」


ロゼは最終形態を取る。

「これが今現在のウチの全力や。行くで!『豹の女神イシュバランケー』!」

ロゼの必殺技である。変身プラス攻撃強化プラス物質操作の三連コンボの複合技である。解り易く説明すると、豹の形態に変身し、猛スピードで敵の首元に食らいつくのである。

(……速い。)

 ブルースの体勢が戻る前にロゼはその首元に食らいつき、豹の鋭い爪の一撃、そして牙による絞撃を加える。

(なんという野性的、そして美しいまでの純一シンプルであることか。これこそがこの娘の目指すべき方向性の発露なのだろう⋯⋯などと感心している場合ではないな。)

ブルースは自分のライフゲージが尽きる前に、ロゼが変身した豹の腹部に両の手のひらをあてた。

「最終形態。死亡遊戯ゲームオブデス。」

ブルースの最終形態である。

絶技チェック無間道インファナルアフェア2。」

前回の凜との敗戦から着想を得た新技である。ロゼの腹部に激しい衝撃が襲った。

「⋯⋯!!!」

ロゼは衝撃のあまり言葉にならない声を上げた。『天使』によって身体へのダメージは遮断されているが、その痛みは信号として脳に伝わってくる。それはロゼの意識を根こそぎ刈り取るのに十分な痛みであった。咆哮ともいうべき声を上げ、ロゼは気を失う。


「勝者、ブルース・リー人位。」

ブルースが気を失ったロゼを横たえると、ジェシカが駆け寄った。人体は完全に守られているため、けがの心配はないが、駆け寄らずにはいられない、それがジェシカとロゼの絆のほどを表していた。ジェシカにお姫様抱っこでダグアウトまで運ばれる。


「お母ちゃん……。」

うわごとのように呟いてゆっくりと目を開けたロゼをジェシカが心配そうに覗き込んでいた。

「良かった。気が付いたのね。」

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