第168話:胸躍りすぎる、開幕戦。❹
地上戦を落とし、空戦、団体戦と連勝したものの、殲滅戦をとられ、ホーム戦であるにも関わらず、勝負の行方は最終戦の
トーナメントはいわゆる勝ち抜き戦である。地上戦、空戦は勝っても負けても一人一戦だが、最終戦であるトーナメントは負けるまで戦い続けられるのだ。ゼル憑きのリックが副将として頑張ったが、ビリーには勝てなかったのだ。
開始戦に立った凜に相対するビリーが言い放つ。
「はっきりと教えてやる。俺、お前のことが気に入らねえのさ。」
それほど絡んだこともないため、凜は首をかしげた。
「それは、理由を聞いた方が良いのかな?」
苦笑する凜にビリーは言う。
「お前、
確かに「騎士」が保安官であるならば、その最上位の
「うーん。どちらかといえば医者の家の『ドラ息子』のつもりなのだけどね、僕としては。」
ビリーは思い出していた。人生の最後の晩、何者かに背中から撃たれたことを。背中に走る痛みと、そして傷口から血が流れ体温が奪われていく寒気を。その時、数十人の人間を屠った報いがついに来たのか、そう覚悟した。
「
そして、それが彼の最期の言葉だった。しかし、その正体は彼のかつての友であり、保安官でもあったパット・ギャレットだったのだ。
目が覚めた時、見たこともないような未来の世界だった。
「
そこで初めて、ビリーは自分が地球という惑星に住んでいたこと、そして自分が非業の死を遂げたことを知った。でも、彼の切り替わりは速かった。
「まあ、地獄の底で目が覚めなかっただけでもラッキーだったさ。それで、俺は何をすればいい? 俺にできることは銃をぶっ放すことと牛を飼うことくらいしかできないぜ。」
そこで彼は要求を告げられる。2年後に行われる選挙大戦コンクラーベで「棗凜太朗=トリスタン」という名の青年を倒すこと、それが終われば自由に生きられると。
「一体、何をしたんだこいつは?」
殺しの依頼なんて慣れっこだった。ただお尋ね者の彼にとって「賞金首」を倒せ、という依頼が彼にとっては新鮮だったのだ。彼は凜について興味本意で尋ねると、色々と説明されたが彼には全く理解できなかった。ついに彼はイラついて尋ねた。
「それで、こいつは『牛泥棒』より悪いのか、悪くないのか、どっちなんだ?」
彼が訓練のために送りこまれたのは「鎮守府」であった。そこでみっちりと魔獣を相手に実戦経験を積んで来たのだ。彼のハンターとしての腕前は相当なものだった。それこそ、鎮守府の団長が是非うちにと慰留しようとさえしていたのだ。
そして、その相手が前に立っている。
(いや、『
凜はビリーの理解の仕方がおかしくて笑いを堪えていた。スフィアの治安を守る護法騎士団はハワードの麾下にあるのだ。しかし、その凜の態度がビリーの勘に触ったようだった。
「抜けよ。決闘だ。」
ビリーは拳銃を抜いた。凜は意外な展開に瞼を瞬かせる。
「いや、僕は弓だからさすがに早撃ちはちょっとね。」
さすがに振り向きざまに弓を引くわけにもいかない。するとビリーは拳銃を投げてよこした。
「それを使いな。」
「コルトM1877⋯⋯か。」
ずっしりとした重みに凜は苦笑を隠せない。無論、本物ではないが、本物をはるかに凌駕する性能が込められているだろう。
(さてどうしたものか)
凜とて、ビリー・ザ・キッドの早撃ち伝説を知らぬわけではない。それこそコインに3発連続で当てられるとか、空き缶を上に放り上げて落ちて来る間に3発当ててしまうとか、与太話の域を出ないものが多い。しかし、先ほどのメグとの戦いを見ても明らかなように、ビリーの脳内にはC3領域が形成されている。よって、あながち伝説も並みの超絶な
凜はビリーからルールの大まかな説明を聞くと頷いた。二人は開始線で背中合わせに立つ。
「いったい、これから何が始まるのだ?」
メグが心配そうにマーリンに尋ねる。
「決闘ですよ。⋯⋯ただ、騎士ではなく、ガンスリンガーの
「凜は勝てるのか?」
マーリンの腕を掴むメグの手に力が入る。
「さあ、腕前は互角でしょう。凜の
メグは祈るように凜を見つめる。
「始めるぞ。」
観客席が静まり返った。ビリーのブーツにつけられた拍車が凜のブーツに当たる。それがスタートの合図だ。一歩、二歩、と互いに離れていく。その緊張感に観衆は息をのんで静まりかえった。
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