第167話:胸躍りすぎる、開幕戦。❸

「始め。」

メグが一礼するとビリーは

「んじゃ、デートの方、ヨロシク。」

そう言うと最初の「スキル」を発動する。

「silver(シルバー) Lode(ロード)!」

ビリーの全身を銀色の炎が包む、という視覚効果を起こした後、それが消える。技を出したことを明確にするための演出である。


メグはその隙をついて一気に間合いを詰める。距離をとりすぎると、銃の「間合い」ではメグに分が悪くなる。銃では近接戦には弱いはずだ。凜のアドバイスを当てはめることにしたのだ。


「ハイヨー!」

ブーツの重力制御を用いて、ビリーは宙返りをうつと次々に銃弾を放つ。その射撃は極めて正確、しかも速い。そして、無限に銃弾を打ち続ける。メグの構える丸盾に容赦なく着弾した。


「どうやら最初の『スキル』は『無限リロード』と『弾丸強化』のようですね。」

ゼルの分析に凜も頷く。


(避けるのが精一杯⋯⋯か。)

メグも最初の『スキル』を発動する。

「『比類なきものインコンパラブル!」

 メグの身体を黄金の光が包み、やがて消えると身体の隅々まで力がみなぎるのを感じる。メグの最初のスキル体力強化ブースターである。メグは空中からの一撃離脱ヒットアンドアウエイの戦法に切り替えたのだ。本来、人間は上からの攻撃に対処するのが弱いからだ。しかし、ビリーの銃の腕前はその常識を簡単に打ち砕くものだった。


「じゃあ、俺も次に行くぜ。『Far(ファー) Country(カントリー)』」

すると、いななきと共に白銀色の馬が現れる。それにまたがるとメグの背後に周りこんで銃撃を始める。

「ヒーハー!」

「おお『召喚技サモンズ』は馬ですか。よく一瞬で作れるな。なかなかのチートっぷりですね。」

凜のつぶやきに

「凜(あんた)にだけは言われたくないけどな。」

リックが苦笑しながらデータを取り込んでいた。『召喚技サモンズ』は「分身技」と「舞台技」のかけあわせで、乗り物や召喚獣を作りだせる技である。ただ、有効時間は試合時間の20%(地上戦では2分)と決まっている。


 馬にまたがったため、今度はビリーが高いところからの攻撃となるので、メグのスタイルは不利になる。本来、実物の馬は臆病な生き物なので、馬を攻撃すれば良いのだが、作り物なのだから多少の攻撃ではびくともしないだろう。


「『解放のヨベルジュビリー』!」

メグも第2の技(スキル)を開放する。今度はメグの身体が赤く輝く。それは加速技アクセラレータであり、速度をさらにあげるのだ。メグの残像に銃弾を打ち込んでいるのに気づいたビリーは舌打ちをした。

(くそ、僕の予測を超えるとはね。でも、逃さないよ、仔猫ちゃん。)

「『The(ザ) gambler(ギャンブラー)』」

第3のスキルを発動する。ビリーが闇雲に銃弾を放つのを見て、メグは好機チャンスとばかりに反転攻勢に出る。しかし、ビリーの懐に入った瞬間、メグは背中にいたみを感じる。

(く⋯⋯被弾したのか。)

メグは予想外の所から放たれる銃弾に苦慮するこになる。


「跳弾⋯⋯それも計算し尽くされた跳弾です。」

「だから『賭博師ギャンブラー』なのか?」

ゼルと凜の会話にリックが突っ込む。

「計算とギャンブルは関係ないだろ?」

ゼルはふふん、と笑うと意地悪そうな笑みを浮かべた。

「リック⋯⋯宝クジだけがギャンブルじゃないぞ。競馬などのレース系のギャンブル予想は計算だらけじゃないか。それにあの技、頭にC3領域がないと出来ないはずだ。」


「『リージェント』!」

たまらずメグが第3のスキルを出す。いわゆる「分身技アバター」である。それは「摂政リージェント」の名の通り、防御を司る戦闘型AIが操るもう一体の「騎士」なのだ。「リージェント」が大盾で防御するため、メグは「心地光明クラウ・ソラス」に持ち替えた。しかし、それはビリーの予想範囲内のことであった。ビリーの放つ銃弾が、足元から、背中から、跳弾となってメグの死角から次々と襲いかかる。

(まずい。ダメージ判定がかなり蓄積されている。このままではまずい。)

焦りを見せるメグにビリーはさらにたたみかけた。


「遅い! 最終奥義エストレージャ、『許されざる者アンフォーギブン』!」

派手なエフェクトが立つと、ビリーが銃口をメグに向ける。「リージェント」が盾を持ってその間に立ち塞がる。銃口から真っ黒な光の塊が現れる。それはまるで雷雲を小さく固めたかのようであった。

「メグ、だめだ! それじゃ防げない。」

凜の声は観衆の歓声にかき消され、届かない。


 ビリーの放った銃弾は「リージェント」をすり抜け、メグの胸を貫いた。

「なんだと!?」

一気にメグのライフカウントが0を示し、メグの敗北が決まった。

(負けた……のか?)


「すまない、凜。⋯⋯格下、だったのに。」

思わぬ敗北に唇を噛んでいたメグが凜に詫びる。凜はメグの肩を抱いた。

「大丈夫だよ、メグ。よくやってくれた。あいつは位階こそ人位だが、間違いなく実力は天位以上だ。きみのおかげで最終奥義まで引き出してくれたのだから。」


凜の言葉にようやくメグが笑顔を見せた。

「……では凜が仇をとってくれるのだな。で、⋯⋯私がやられた、あの技はなんなのだ?」

それにはゼルが答える。

「間違いなく『量子ワープ銃』です。実弾はリージェントの盾で阻止できますが、その破壊力だけ『量子共振』を利用して標的まで届けることができるのです。まあ、なんでも撃ち貫ける魔法の銃、といったところでしょうか。」

それを聞いてメグは両手をあげた。

「やっかいだな。まだアウエーでの試合もあるし、またヤツと一対一タイマンで当たるかもしれぬ。それまでになんとか対策をたてないとならんな。」

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