第155話:藪から棒すぎる、快男児。③
リックが槍の鞘を取ると群衆はどよめいた。しかしリックはそれを石畳に突き立てた。重力子金属が織り込まれて鍛えらえた穂先は易々とそれを貫く。
「喧嘩なら剣を使わず、拳でなさるが良い。」
イラっとくるほどのリックの正論に、男たちがついにぶちキレた。
「そうだな、それではまずはお前からだ。」
いきなり二人がかりでリックを押さえつけ、腹に
「おいおいどうした小僧? 随分あっけなく失神しやがって。この程度で俺たちを
嘲笑う声が響く。そして、邪魔者を排したところで再び双方の戦意が高まる。その時だった。
「そうバカでもござらんよ。」
そういうと恐ろしいほどの膂力で二人の騎士が襟首を掴まれ持ち上げられたのである。
それは先ほどの大男であった。まるで子犬のように高々と持ち上げられ、しかも首を絞め上げられているため気道を確保するため襟元を抑えるしかなかったのだ。
「あの者のおかげで貴殿らの首魁が誰であるか判別出来たのだからな。」
大男が朗らかに言う。
「貴様、何者だ?」
吊り下げられた二人の男は苦しそうに尋ねる。
「名乗るほどのことはないが教えてやろう。素牢人、前田慶次郎と申す。以後良しなに、とは申さぬわ。」
それだけ名乗ると、二人の男の頭をいきなりぶつけた。骨同士がぶつかる物凄い音がして、二人は失神した。男は失神した騎士たちを地面に放り出すとうろたえる取り巻きたちに言い放った。
「さあ、無益な喧嘩はやめて、さっさと出かけられよ。広い通りじゃ、その人数なら難なくすれ違えるだろうて。こんなつまらぬことで祭りを台無しされてはたまらん。」
男たちは失神したリーダーたちを抱え、這々の体で去って行った。
トムは大男、「前田慶次郎」に礼を言うと失神したリックを抱えて帰ろうとした。
「待たれよ。近くに休むところがある。そこで手当てをされるが良い。」
そう言うと、軽々とリックを抱え上げ歩き始める。トムはとりあえずゼルに連絡する。「仕事中」のゼルはリコとリンクしてきた。
「前田慶次郎」につれて来られたのは表通りから二街区ほど引っ込んだ娼館であった。彼はリックを担いだままそこにつかつかと入っていく。付いて行こうかどうか逡巡するトムに彼は振り向いて言った。
「どうした、遠慮するな。それとも貴殿は
トムは思わずカッとなって入ってしまった。娼館に入ると美しいエルフ族の遊女たちが「前田慶次郎」に競うように群がる。
(随分とおもてになるようですね。)
リコが感想を述べた。
リックをベッドに横たえるとトムは「前田慶次郎」に礼を述べる。ゼルが召喚したバリさんがリックを治療した。
「そう言えば、まだ貴殿の名を尋ねておらなかったのう?」
「アトゥム・クレメンスと申します。先ほどはこの
頭を下げたトムに慶次郎も改めて名乗った。
「長いのでな、みなケイジと呼んでおる。それに俺はこの手合いのバカは嫌いではないのだ。気にせんで良い。それにあまり友のことをバカと言わぬ方が良いぞ。貴殿までそう思われかねぬ。」
そう言って笑った。
「あれ、ここは?」
リックが目を覚ますとケイジによってつけられた遊女たちに囲まれていた。
「あら、お目覚めよ。」
「あら、可愛らしい男の子ね。」
リックはかかる事態に驚きのあまり思考が停止していた。
「やばい、俺は死んでしまったのか? ここはどこだ? まさか、天国⋯⋯なのか?」
リックが混乱していると
「そうよ。ここは男の子たちの天国なのよ。」
リックは頭に押し付けられた豊かな胸の感触だけで下半身の中心部に血液が集まっていくのを感じていた。
「よう、お目覚めのようだな。せっかくだから一晩くらいここへ泊まって行くと良い。主らも
そうケイジに勧められたが、まだリックはまだ混乱しているようであった。
「いえ、俺の『
リックが固辞するとケイジは噴き出した。
「何が『まこと』じゃ。ますます面白いやつじゃの。」
見兼ねたトムが助け舟を出した。
「おいリック、お前はこの御仁に助けられたのだ、礼を言っておいてくれ。」
キョトンとするリックのリコが手を差し出した。リックが触れるとトムの目線から『事の顛末』が送り込まれる。リックの顔が羞恥のあまりみるみるうちに赤くなった。
「た⋯⋯助けていただいてありがとうございました。」
リックがしどろもどろに深々と頭を下げるとケイジは笑って手を振った。
「良い良い。若さとは恥をかいて大人になっていくことよ。」
「俺はリチャード・ウインザーです。皆はリックと呼びます。」
流石に国家元首の代理人たる
「前田慶次郎?」
ゼルを通してリコからの報告を受けた凜は素っ頓狂な声を上げた。
「お知り合いですか?」
リコの問いに凜は
「いや、僕の故国の歴史上の人物の名前だよ。この惑星で知っている人がいれば、かなりの時代劇マニアだな。⋯⋯いやしかし、いたずらにしても、凝りすぎてはいるな。何か背後にあるのだろうか?ゼル、ナベリウスに連絡して、ちょっと調べてもらってくれ。」
しかし、この祭りでの出会いはこれだけではなかったのである。
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