第112話:あっけなさすぎる、幕切れ。❷
(『溝落とし』でいくか⋯⋯。)
悲鳴を上げるエンジンをなだめながら、サミジーナは懸命にハンドリングに徹する。
ヘアピン三連を最低限の減速のみの高速で走り抜け、高回転エンジン特有の加速性能の良さで引き離しにかかる。
しかし、サミジーナの技術を尽くしても、それでも上回る「
「なめてんじゃねーぞ! 外から行かすかよ!」
サミジーナはアクセル全開を続ける。それでもジリジリと「
「くそ!」
その時、突然、「
「……やっちまった。」
サミジーナは俯くとハンドルをドン、と拳で叩く。
「エンジン・ブロー⋯⋯ですか。」
マーリンが蕭然と呟く。
「そんな⋯⋯。なあ凜、この船どうなるん? 治るよな?」
ロゼは凜を揺さぶる。凜は黙って首を横に振った。
「お嬢様。もし、故障の原因がエンジンブローであれば、修理は不可能です。残念ながら。」
凜の代わりにジェシカが説明を加える。
「そんな⋯⋯殺生な⋯⋯。」
エンジンが止まっても、ワームホール内には前へと引っ張る重力があるので船自体が止まることはない。しかし、加速用のエンジンが死んでしまっては、競技自体を中止するしかない。
遅々として進む『
「板金で7万コースじゃすまねえよなあ。……痛すぎる。」
サミーは頭を抱えた。
第3戦、『
「すみません。」
頭を深々と下げるサミジーナにピット長は
「勘違いしたらアカンで、サミー。古い機体やさかい、もう、こうなることは決まっていたようなもんや。今日たまたまお前が運転してただけや……、お前のせいやあらへん。」
そういって慰めた。しかし、長年「連れ添った」
[星暦1551年6月26日。惑星スフィア。エウロパ。宇宙港。]
『
「エンジンの載せ替えでもしませんと⋯⋯。心臓が止まってしまったようなもんです。」
「そんな⋯⋯。レースはどないすんのん? 」
ロゼはピット長につかみかからんばかりに声を荒げる。
「こいとはん、そんなこと言われましても、どうしようもありませんわ。「
ピット長にはっきり言われてしまい、シュンとなってしまったロゼは格納庫に納められた機体を見に行った。
ロゼにとってもそこは思い出の場所だったからだ。幼い頃、ショーンに頼み込んでは乗せてもらっていたのだ。
「兄やん、おかあさんのいてる星はどっちの方なん?」
窓から見える天の川を見ながら、そう尋ねてはショーンを困らせた。
「こいとさん。ここからハッキリと見えるようなお星様は、人間が住むには光が強すぎる星ばかりなんやで。優しく、ひっそりと、誰の目にもつかぬよう輝いているもんや。こいとさんのお母様のようになあ。」
ショーンが一生懸命、ロゼにわかってもらおうとしているのが、ロゼには嬉しかった。子供にとって、愛情に飢えているのは食べ物に飢えているのに等しいことなのだ。しかしロゼのように、経済的に豊かな家の子がそれを叫んでんも誰の耳にも届かない。そんな声を拾い上げてくれるショーンにロゼは次第に恋心を抱いていた。
恋心と言うよりは、承認願望を満たしてくれる存在、として彼を求めていたのだろう。
だからこそ、ショーンが解雇されたことは、ロゼの心に父親との間に決定的な断絶感を生み出したことは間違いがなかった。
「そうか⋯⋯、
秘書の一人であるジェシカから連絡を受けたジョーダンの答えは一言だけだった。ジェシカが自分の顔を不思議そうに見ているのに気づいたジョーダンは尋ねた。
「どうしたジェシカ? 私の顔に何かついているのかね?」
「いえ、旦那様が『死んだ』と仰ったので意外に思ったものですから。『壊れた』ではないのですね。」
ジェシカの感想に、ジョーダンは力なく笑った。
「そうだな。あれは私の『青春』の象徴だからな。信じられないかもしれないが、実は、あの日(レース当日)に夢を見たのだよ。夢の中で『
[星暦1551年6月27日。惑星スフィア。エウロパ。宇宙港。]
ロゼが目を覚ますと、そこは「
「あれ、ウチ、いつの間にかこんなところで寝てもうたんか。」
だれかがかけてくれたのか、身体にはブランケットがかけられていた。
「あかん、ジェシカによう叱られるわ。」
コクピットを出ると誰かがすすり泣く声が、
(もしや、幽霊か?)
さすがに薄気味悪く思ったロゼはそっと桟橋に出ると下を窺った。灯りは消されていたが、窓から入る光で、とりわけ、
(オトン⋯⋯)
そこにいたのは彼女の父、ジョーダンであった。彼は愛おしそうに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます