第59話 琴音のくじ運

「げっ!!」

 琴音の初戦は、予選の相手だった…。

「クジ運悪い~」

「バカ琴音…」

「好きで選んだわけじゃないわよ!!」


「どう出るかね…自分の得意なフィールドを選択するのか…琴音に不利なフィールドを選ぶのか…」

 華が真剣な面持ちで腕を組んで下を向く。

(ん?)

 ここは悩むとこなのかな?と奈美が華に習って腕組みして首を傾げて目を閉じる。

「いいわね、胸が邪魔しないってことは…腕組みがさまになるわ」

「へへへ…そう?かっこいい?」

 奈美が照れる。

「奈美、アタシ達、褒められてないわ…たぶん…」

 華が顔をしかめる。


「まぁでも…今さらどうということも無い…考えてもしょうがない」

 琴音がバシッと自らの右拳を左掌に叩きつける。

 胸がプルッと揺れる。

 奈美も真似をしてみる…凹んでしゃがみこむ。

「やらなきゃいいのに…」

 華が冷やかに奈美を見る。

 でも、奈美の頭をポンポンしている。

 仲間意識である。


「行ってくるわ!!」

「うん、軽く蹴散らしてきて琴音」

 華が送り出す際に、琴音のバストトップの辺りを指で思い切り弾く。

 バシン!!

 そして頭をはたかれる。

「負けたらいい…」

 涙目で呟く華、

「うん…クリティカルヒットだったのね~」

 立ち上がった奈美が華の頭を撫でる。


 半球のドームの向こうで黒いフードを被った男が待ち構えている。

「フィールドは…墓地…」

 シミュレーターフィールドにサッと暗闇の朽ちた墓場が映し出される。

「悪趣味…」


 悪趣味だけなら良かったのに…。


「なによ…コレ…」

 初手から湧き続けるゾンビ・スケルトン、亡者の群れ。

 聖職者クレリックでもいれば、突破口は開けたのだろうが、琴音のデッキ構成は、自らの強化を主軸とした肉弾戦を主としていた。

 単純に魔法に備え、アンチマジックの武具をカード化し、サポートが遠距離から支援して強化された琴音が突っ切る戦法。


 相性が悪い。

 予選の時点では、単なる遠距離から攻めてくる魔法使いタイプだった。

 ダメージはアイテムに軽減され、大した脅威ではなかったのだ。


 それが今は…召喚魔法で近づけない…直接攻撃ではHP1以下にならない屍の群れはフィールドを埋め尽くしていく、動ける場所も狭まっていく…。

 HP1にして、弱い魔法で潰していくのだが、アンデッドの増殖に間に合わない。

「くっ!! 近づけない…」

 それどころか、ドンドンとフィールドの隅に追いやられていく。


「性格悪そ~」

 奈美がフラッペを食べながら観戦している。ブルーハワイ、涼しそうだからだ。

「バカ琴音…脳筋バカ…」

 華もフラッペを食べている、奈美に買ってもらったのだ。無難なメロン味、姫だけど貧乏性はメロンをチョイスする。

「琴音負けちゃいそう~」

「ありゃダメね…3/8から2/7になったわね…」

「37.5%から28.6%…減っちゃったよ~」

「アタシが当たっていれば…」

「勝てたの~?華」

「琴音よりは遥かに勝率高いわよ」

「琴音、くじ運悪いから~」


「ぶっ殺す!!」

 琴音はキレていた。

「キャストオフ!!」

 自身の分身でキャラの装備を脱ぎ捨てた琴音。

『きわどい水着』オンリーになったキャラ「コトネ」

「ナメンなよ…陰険黒フード!!」

 満月のカードを使う琴音。

「コトネ」がイヌ化していく。

 取り囲むアンデッドを飛び越え、墓石や木を足場に、黒フードに突っ込んでいく。


「おぉー、奈美!! 琴音が一発逆転するかも!!」

 華がはしゃぎだす。

「犬になった…ビキニ犬になった~早いね~目が回りそう~」

 奈美は2杯目のフラッペを食べ始めていた…レモン味、チョイスが渋い。

「勝てるかな?」

 華がたこ焼きを食べながら奈美に聞く、もちろん買ってもらったのだ。

 冷たいのを食べたら、あっかいのである。


 最後の墓石を蹴って、黒フードに飛びかかる「コトネ」。

「獲った!!」

 琴音が拳をグッと握りしめた瞬間、

「脳筋が…」

 行動せずに、ため込んでいたMPをすべて琴音に向けて放った一撃。


 琴音は負けた…。

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