第56話 捕らぬ狸のなんとやら

「優勝は狙えるわね」

 琴音は自信たっぷりだ。

「3人のうち誰がなっても賞金は山分けよ」

 華は勝利を確信している。

「アタシは、車の免許が欲しい~」

 奈美だけは、ちょっとズレている。

「アンタ、車…じゃなくて?免許が欲しいの?」

「うん…車の前に免許だよ~」

 至極当然である。

「奈美…残念だけど、免許は自力で取得して頂戴、車は賞金で買えばいいから」

 あくまで賞金は手に入ると信じている華。

「アンタの場合、優勝より普通自動車免許の方が難しそうよね」

 琴音がビールを飲みながら奈美を見る。

「なによ~、そんなことないわよ~今までは教習所に行くお金が無かったのよ~ヒマはあるのに~」

「そうよ琴音、奈美は学科は得意よ、実技が致命的にダメなだけよ」

「うん…だから取れないのよ、いるのよ、標識は全て覚えてるのに、アクセルとブレーキを覚えられない人って…その典型よ奈美は」

「アタシ、この車に乗りたいの」

 スッとカタログを差し出す奈美。

「ん?ミゼットⅡ…またマニアックな…」

「どれどれ、奈美見せてー」

「トラック?」

「うん知らない、可愛いよ、虫みたい」

「そうね…買ったらいいわよ、免許取れたら」

「奈美、アタシ、ドライブ行きたい」

「行けるわよ~」

「だから…免許取ったら、でしょ?」

「うん、ネッシーを荷台に乗せて、海に行こうと思ってる~」

「あ~、ビニールプール買って、荷台に乗せれば大丈夫だよ、きっと」

 なんだか盛り上がる奈美と華。

「いや、ダメよ…絶対ダメよ…UMA運送中って、もうX-FILE超えだもん、モルダーもビックリよ」

 本当にやりそうなコンビに不安を隠せない琴音。

「あのさ…普通の海にも行きたいのよ~」

「気持ちは解る、このチッコイのが連れてく海は、UMA満載の海岸ばっかだもんね」

「なによ!! 楽しくていいじゃない!!」

「楽しくはないわよ!! 毎回サバイバルじゃない!! アタシ達は、TVの探検隊じゃないのよ!!」

「スゴイよね~、カメラ持ってけば、UMA写真でいっぱいだね~」

「それをどうするのよ?TV局に売るの?ネットで使用料稼ぐ?」

「意外といけるかも~」

「バカね…いい歳して…ハッキリ写りすぎてフォトショでしょ?がオチよ」

 華がネッシー達に小魚をあげながら言った。

「フォトショの国から来た、アンタに言われちゃオシマイだわ」

「誰の故郷が、加工映像なのよ!!」

「大丈夫だよ~華、だって、アタシ達みんな人間じゃないじゃない」

 嬉しそうに奈美が笑う。

「アンタ…何が楽しいの?何を受け入れたら、そうなれるの?」

「琴音はねー、化け物の自覚が足りないんだよ!!」

「自覚したら負けよ…染まりたくないのよ!!」

「いいじゃない~犬になるくらい~」

「そうよ、満月限定だし、ワンワンワーンと吠えてりゃ、勝手に夜が明けて裸で寝てるだけよ」

「大問題じゃない!!」

「満月の夜には、首輪付けて寝ればいいのよ~琴音」

「そうよ、忘れないようにカレンダーに赤丸付けとけば大丈夫よ」

「生理日じゃないんだからさ…」

「危険日と重なったら、外に出ちゃダメよ琴音、発情期はとくに…」

「見た目がビッチだからね~琴音は~」

「やっぱり、満月が近づくと犬のほうが良くなるのかしら?イケメン犬とかに惚れる?」

 ゴンッ!!

 華の頭にスイカが落とされた。

「奈美ー、琴音がアタシの頭でスイカ割ろうとするー」

「琴音…包丁あるからね…犬でも~ソッチを使って頂戴ね~」

「包丁使って…アンタ等刺したいわ…」


「で?華、大会は来週なんだっけ?」

「そうよ、500万だよ!!」

「割り切れないね~」

「じゃあ優勝したら200万で、残りは150万ずつってことでどう?」

「いいわよ~」

 スイカを食いながら、獲ってもいない賞金の使い道を真剣に考える3人であった。


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