混乱

第4話 阿波野義之 その1

バスの中で男が人を噛み殺し、噛み殺された男が蘇って他の人に襲い掛かった事件。あれから2週間経った。やはりアレが始まりだったのだろう。あの事件以降、全国各地で人が人を噛み殺す事件が多発した。日に日に犠牲者は増え、その犠牲者は蘇り人を襲う。まさにゾンビだ。


阿波野義之はゾンビ研究家として、ごく一部の人に有名なフリーライターだった。そのためか、一部のファンや同業者などからある程度の情報を得ていた。


今のところ確実性のある情報はこれくらいだろうと手帳にまとめていた。


確実性のある情報

・噛まれると感染

・感染すると風邪のような症状が出る

・感染者は個人差はあるものの2日以内には死亡、死後30秒ほどでゾンビ化する

・首を吊って自殺した感染者もゾンビ化する

・感染者は痙攣ののちに嘔吐して死ぬ

・ゾンビは走らないが早歩き程度の速さで追いかけることができる

・胴体への攻撃では死なない

・ゾンビは人の肉を食べる


このくらいだろう。この調子でいくともう数日かそこらで今の混乱は最高潮を迎え、電気やガス、インターネット、電話が完全にダメになる。紙に書くのが一番いいのだ。


都内の中心地はひどいものになっていた。ゾンビまみれで警察も自衛隊も手を焼いている。撃っても撃っても中々死なないのだ。政府もはっきりゾンビと明言した。これは、アウトブレイクだとも。


事実、既に数万人はゾンビ化している。1週間で爆発的に増えたのだ。日本全体の人口と比べれば少ないものだが、ゾンビが増えるごとに1日の感染者は倍になる。もう1週間もすれば数十万、2週間で数百万。それ以上のペースかもしれない。阿波野は最悪の事態を想定していた。現に、自分自身は最悪の状況だった。買い溜めしてあった食料が今日で尽きるのだ。

「あいつに電話するか・・・」


阿波野はいつまで使えるかも分からない携帯電話を手に取り、ロバート・ベイカーという男に電話をかけた。2コールほどでロバートが電話に出た。

「やあロバート、俺だ。食料が今日で尽きる。明日には家を出る」


短い通話を済ませた阿波野は、これからどう生きていくかの計画を立てる作業に入った。

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