第18話 愉快な旅人と王


 起きた貴族様が喚いていたので、とりあえず寝かせて馬車とやらに放り込んだ。なんでも、馬と呼ばれる生き物が引張ってくれるらしい。なかなかに便利なものだ。


「――あー、いまさらだけど言っとくな。そん人、結構偉い立場だから。殺すと面倒な事になんぞ」

「よく、わからないのだが……偉い立場とはなんなのだ? この世界には王と眷属、あるいは自然的に生まれた君達のような変異種しかいないと思うのだ」

「人ってのは面倒な生き物でな、自分達の中での立場を明確にする事で力にしている奴らがいるんだ」

「そんなものに何の価値があるというのだ?」

「人が生きていく為だっての」


 その言葉に、大きく息を吸い込んでしまう。

 生きる為?

 それはどういう事なのだ?

 ただ、生きていく為だけになぜそんなものが必要になるのだ、理解できない。私達が生きていくのに必要なものは、神素くらいなものだ。


「あぁー……旦那にはわからんかもしれねぇなぁ」


 ディレンの諦めたようなため息を吐き出した。

 その態度に少しだけ疑問が浮かぶ。


「なぜ私だとわからないのだ?」

「生命としての規格が違いすぎるんだよ」


 衝撃を受けた、どういう事だ? 生命としての規格が違う? いったいなんの話なんだろうか……。

 様々な疑問が浮かんでは消える。しかし、答えは出てこない。どうやらディレンも答えるつもりはないらしく先に進んでいる。こちらを待ってはくれないようだ。馬車に積まれた貴族様とやらを置いてけぼりにしているのだが、いいのだろうか。









「いやあ、こんにちわ! ぼくはライム・パイム。旅の道化師さ!」

 全身真っ赤な猫。そうとしか言えない生物が、旅の道中話かけてきた。というよりも、行き倒れていた猫を拾ったら話し始めたのだ。


 真っ赤な二股帽子、先端には綺麗な赤と黒い赤で彩られた丸いもの。服装はもこもこと膨らんだ赤い道化服。飛び出した手足顔の毛並みすら赤い。


「………」

「………」

「命を助けてくれてありがとう! ぼくの出来る事ならなんでも手伝うよ」


 私とディレンは無言だった。生命の規格云々の話を数時間前にしていたから、余計に辛い。

 なんか違う。あれはいろいろと違う。見る限り神素から生み出された者ではない。されど、人とは違うものだ。ディレンと違いすぎる。


「ず、随分と陽気な方だね」

「道化師だからね! 皆を楽しませるのがぼくの仕事なのさ!」

「………」

「だ、旦那っ?」


 無言になった私を心配するように、ディレンが話しかけてくるが……どうすればいいのだろうか、私にはわからないぞ。

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