第17話 旅立ちの朝と王
「クソッ、ろくに寝れなかったぞ……」
目の下に大きな隈をつくったディレンが、不機嫌そうに呟く。よほどラビス達に好かれたのか、昨日の寝る前からずっと絡まれている。本人は鬱陶しそうにしているが、次々と攻め寄せるラビスの大群を前に沈んだ。……やはり数が増えている。半数以上は見送ったはずなのだが。それだけ、ここら一帯の神素が増えている、という事なのだろう。良い事だ。まぁ、ある程度の数は私とともに旅に出てもらう。それで、だいぶ数を減らせるだろう。
―――遊び心で創られたヘンテコな物を出させるわけにはいかない。
内心で決意を新たにする。かつての惨劇を、ここで起こしてしまうわけにはいかない。
「そう怒るな。彼らとて神獣だぞ?」
「は? 急に何言って――嘘だろ……!?」
私の言葉を聞いたディレンは疑わしそうにラビスを見やり――その神素のあり方に驚愕した。
彼は種を呑んでいる。まだ身体に馴染んでいないから、強く意識しなければ見えないが、それでも神素を見えるという事に変わりはない。
ただ鬱陶しいだけの獣だと思っていたのだが確認してみれば、このウサギモドキ、神素を生み出しているではないかっ! と気づいたのである。
そして、神素を生み出せるのは王の眷属あるいは王。そして王の眷属は神獣と呼ばれる。
「こ、このウサギモドキが――俺の先輩だって言うのか……!」
「うむ。君が眷属に生まれ変わる数日前に生み出した神獣だよ。この世界にに生まれ落ちてからそこまでの時間が経っていない。そういう意味では君の方が先輩になるわけだけど」
「きゅい? きゅ」
「――馬鹿なっ」
私の言葉に反応しないどころか、絡んでいるラビスを引っぺがす余裕もないようだ。頭に乗られ、身体の至る所に張り付いているのだが……呆然としている彼には気づいてもらえない。
不思議そうに何匹かのラビスが顔面に体当たりをぶちかましているのだが、やはり反応がない。構ってもらえないラビス達もどこか寂しげだ。
「ま、まぁいいさ。この世界に関しては俺の方が詳しいんだか――――」
「あぁ言い忘れたが、ラビス達には独特な機能を付けてある」
このタイミングで? 嫌な予感しかしない、と私に言葉の先を促してくる。
「彼らは、神素を媒介にすべての固体が繋がっている。そして見聞きした物を、空中を漂う神素に記憶しておける」
言ってしまえば、彼らは個であり全でもある。まぁ知識だけを、自分とは離れた別の固体が閲覧できる程度の事だ。
「………」
「ふむ、そう落ち込むな。これからの旅では君の力を大いに期待しているよ」
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