2-覚悟、決めました


異動してきて3ヶ月後、部長がご飯に誘ってくれた。僕は喜んで行った。

それからというもの何回か食事に行ったり、一緒にゴルフの練習にいったり、みんなでゴルフにいったり。その中で僕の中でもしかして、この人ならわかってくれるかもしれない。という期待が少しだけ生まれはじめていた。そして、飲みに行ったとき。僕はその話をしてみた。僕はこういう人間だということを。もし、それで軽蔑されてもショックかもしれないけど、しょうがないという思いで、切り出してみた。彼は

「よくわかんないけど、いろんな可能性があっていいんじゃないの」

とだけ言ってくれた。今までにない答えで、僕はあっけにとられて、なんと答えていいかわからなかったけど、なんだか悪い気はしなかった。理解はしてないし、よくわかってないけど、否定されたわけじゃないし、まあよかったのかな、くらいだった。それから、僕の中でまた少し期待が膨らんでいく。


その話をしてからも、彼の態度が変わることはなく、それまで通りだった。だから、僕は彼に切り出してみた。僕があの時たてた計画を。そして、僕の過去のことも。彼には

「君の過去のことを思うと、とてもじゃないけど・・・」

と言われた。でも、あの一件からは立ち直っていたし、大丈夫だと伝えると、「やっぱりよくわかんないけど、君がそれを望むなら」

と言ってくれた。そりゃ誰が聞いたって、そんなすぐに理解できる話じゃないことはわかっていた。

想像してみてほしい。もし、自分の周りに僕みたいな人がいて、この計画の話をされて、すぐに理解してわかった、応援するなどと言えるだろうか。イエスと答えられる人は少ないと思う。そう考えると彼の答えは、なんとも寛大な答えだった。


そして、僕にも大きな覚悟が必要だった。僕の計画を成し遂げられるかもしれない相手を見つけたけど、また男の人と関係をもたないといけない。覚悟は決めていたはずだけど、やっぱり心のどこかで葛藤はあった。同じ場面になって、もしフラッシュバックを起こしたらどうしようとか。それ以前に本当にその行為に耐えられるのかと。今まですべてにおいて、自分のことを女として見られることを嫌っていた僕が、一番女としてみられる時間を本当にすごせるか心配だった。さすがに彼も過去のことは理解していても、僕自身の心の葛藤は理解できない。そんな自問自答を繰り返していたが、僕の人生後悔したくなかった。

そして、その夜僕は覚悟を決めた。


理解してくれる人を探していたはずだけど、彼なら今すぐじゃなくても、いつかは理解してくれると思った。この僕の考えはもちろん賛否両論だと思う。僕だって、間違っているんじゃないかと思うことは何度もあった。でも、僕が後悔しないように生きるためにはこの方法しかなかった。子どもっていうのは授かりものだし、本当に愛し合った人たちの結晶だと僕も思う。その考えからしたら、大きくずれてるかもしれない。でも、それも一種の大きな意味での愛の形かもしれないと思っている。それに、授かりものだからこそ、もし本当に僕に子どもという縁がなければ、授かるものでもないし。これに正解はないと思う。ただ、僕は子どもを自分の道具やおもちゃのように思って、そういった答えをだしたわけじゃないし、そのあともちゃんと育てる覚悟はできていた。

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