8-姿を現した悪魔


1年前、母があの一件を知って事が動いていった日、どうしたらいいかわからない気持ちと、申し訳ない気持ちと、自分への嫌悪感とでいっぱいだった。


そして、ちょうど1年後のその日、僕は授業中に鮮明なフラッシュバックに襲われた。パニックになりそうだったから、一度席をたった。トイレに駆け込み大丈夫だと言い聞かせたけど、その時の僕のキャパを遥かに超えていた。でも、戻らないわけにもいかず、授業を受け続けたけどやっぱり無理で、その日は体調不良で早退した。僕はPTSDになっていた。


その日から毎日夢をみた。寝るのが怖くなっていて、寝られなくなった。寝られなくてなにもすることがないし、あの時の気持ちに引き戻されていて、それをどうにかしたくて、手を出してはいけないものに手を伸ばした。僕の机の引き出しにあったカッター。今では傷も凝視しなければわからないほどになったけど、当時は無数の傷が左腕の内側にあった。別に死にたいわけじゃない。監督に胸ぐらをつかまれたときも「メンタルが弱いからだ、死にたかったらもっと鋭利なもので深くやれ」と言われたけど、違う。なにもわかってない。多くの人は、リストカットする理由を死ぬためだと思っているみたいだけど、違う理由があると思う。

僕は専門家でもないけど、経験者として言えるのは、僕がそれをやり続けた理由は生きていると確認したかったから。血を見ることで生きていると思えたし、その痛みで痛いと感じることができるんだと確認していた。さらに何度も言っている自分への嫌悪感。行き場がなかったからそれに向けられていた。


冬だからなかなか周りにバレることもなかったけど、寮だからお風呂には苦労した。もしかしたら、気付いてる人もいたかもしれない。隠すのに必死だった。そして、カッターをひと時も手放せなくなった。学校にいるときも寮にいるときも、いつもポケットに入っていた。持っているだけで安心した。いつその衝動にかられてもいいように忍ばせていた。もし、その衝動にかられたときに持っていなくて、できなかったりしたら余計にパニックになりそうだったから。


夢だけじゃ済まなくってからは、フラッシュバックも頻繁で、ろくに授業を受けられる状態じゃなかった。授業中、フラッシュバックに襲われては席をたち、トイレでまた一つ傷を増やして、スッと胸が落ち着いて、教室に戻っての繰り返しだった。もちろん部活もいけなくなっていった。

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