ロメオ②

 多分、ディエゴを知らないやつは、あいつが金を稼ぐのを遊びみたいに考えてたと思ってただろうな。だが、それはまったく違うんだ。あいつには金を稼がなきゃあいけない理由があったんだよ。言ったろ、俺だけが真実を知ってるって。

 ほとんど知る奴はいないけれど、ディエゴには2つ離れた姉がいたんだ。マイっつって、母親のメルセデス似の赤毛の女だったよ。メルセデスを細身にというか、可憐にした感じで、あいつの家に遊びに行って初めてマイを見た時に、一瞬で「うるわしのお姫様」って言葉が浮かんだくらいだった。……まぁぶっちゃけ言うと、俺がディエゴとつるんでいたのは、そのマイに会う口実が欲しかったからなんだがな。それに彼女が俺に言ったんだ「ディエゴと仲良くしてね」ってな。そん時の俺はお姫様に誓いを立てた騎士みたいに、直立不動で間髪かんぱつ入れずにうなずいたよ。下手したらひざまずきそうな勢いだった。まぁつまり、俺も俺で、あいつと一緒にいる事情があったってわけさ。一目で惚れた女にそんな約束されたら、世の中の仕組みが全く分からねぇガキとしては破るわけにはいかねぇからな。

 で、そのマイが生まれた時から病弱だったんだ。メルセデスの子供とは思えないくらいにな。肺の病気だったらしくて、だいたいが家で寝込んでた。こう言っちゃなんだが、それが彼女から今にもこの世から消えてしまいそうな、はかない魅力を出してたってのもある。

 そんなマイとディエゴの関係も妙というか、ディエゴの難しいところで、姉の事を嫌ってるような素振り、ちょいちょい姉の悪口を言ってきたりするんだ、「アイツさえいなければ」とか「アイツの病気が治らないのは根性がないからだ」とかな。けれどな、ディエゴが稼ぎ続けた理由、それは他でもない、姉の薬代や医者を呼ぶ金を作るためだったんだよ。俺たちの地元のベンズには当時は産婆くらいしかいなかったし、薬なんてほとんど流通していなかった。そんな事情があったから、もちろん医者も薬もべらぼうに金がかかる。ディエゴは姉を助けるために、遊ぶ素振りで金策を続けてたってわけだ。

 まぁ、あの頃のディエゴは普通に家族想いの良い奴だったよ。

 え? そんな娘を抱えておいて、ディエゴの親父は何をやってたのかって? ……そこんとろがまぁ……あいつの複雑な事情をよりややこしくしてるところなんだな……。

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