第2179話:クルザ・シルスル~谷を降りる~

「底が見えねぇ……」

 無限に伸びるロープを掴んで壁に足を掛けてゆっくりと降りていく。

 上は既に遠く、下は遥かに遠い。

 この何とか降りて行っている体勢からでは登りきることはできないだろう。

 うっかり手を滑らして真っ逆さまに落ちないようにだけ気をつけながら、どこか一度ロープから手を放して休める場所を求めて降りていく。

 一応壁面はデコボコとしてとっかかりはあるので、そのうち大きな足場が合ったりもするだろうと、一縷の望みをかけて降りる。

 そもそもなぜこんなことになってしまったのか、それは今全体重を預けているこの無限に伸びるロープのせいだ。

 この特殊なロープを手に入れてずいぶんと上機嫌になった俺は、何を考えていたのか鞄を端に結び付けてこの底の無いと言われている谷へと放り込んだのだ。

 反対側の端を持った状態で正気に戻り慌ててロープを引き上げようとしたがどんどん伸びて一向に引き上げられる気配がない。

 その予想外の事態に慌てて正気を手放してしまったのだろう。手元にあるロープの端を立木に結び付けて谷に自ら降りてしまったのだ。

 そして冷静になって今に至る。

 鞄を谷へ投げ込んだのは間違いなのはそうとして、そのあと冷静にどうするのが正解だったのだろう。

 そんなことを今考えても仕方は無く、手を滑らさないようにゆっくりと降りていくしかないのだった。

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