第2155話:コレブ・ヒレースト〜無音〜

「何も聞こえねぇ」

 周りには人が沢山いて、思い思いのことを話しているが俺には何も聞こえない。

 耳がいかれてしまったわけじゃない。

 そういう契約をしたんだ。

 聴力を一時的に提供する代わりに、金を受け取っている。

 具体的なことは聞いていないが社会実験の一環だと思っている。

 突然正常な聴力を持っていた人間が聴力を失った場合にどうなるのかという実験。

 まぁ、俺はまぁまぁ適応力があるからどうとでもなる感じ、こうやって街にも出かける。

 いつもの街は煩すぎてよくないが、このぐらい静かだととても歩きやすい。

 客引きは聞こえないから完全に無視できるし、無駄な会話に気を引かれて壁にぶつかったりすることもない。

 快適だ。

 音で危険を感知している人だと危なそうだが、問題はなかった。

 ただ、気を付けなければ気づけないこともあるだろうと周りをキョロキョロしてあるかねばならないことだけは不便だ。

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