第2126話:クラフ・フィガー~コイントス~
コインを跳ね上げる。
空中でくるくると回るそれを見て皆が息を飲む。
風はない、重力値も慣れ親しんだ場所と同じで前日の予行演習もばっちりだ。
俺の腕なら条件さえ整えば確実に狙った面が出せるのだが、屋外でのコイントスには無数の不確定要素が付きまとう。
だから、この瞬間はいつも鼓動が少しだけ早くなる。当然それも含めた調整をしているからそれには狂わされない。
空に鳥の姿は見えない。過去には大きな進退のかかったコイントスを屋外で行い、通りすがりの鳥にコインを掻っ攫われて有耶無耶になってしまったこともあった。
今日はそんなことはなさそうだ。
天気予報も見た。今日は気圧の差は少なく、強い風が突然吹いてコインがブレるようなこともない。過去には風でコインが揺らぎ狙った面を外したこともあった。
周りの群衆、利害関係者は離れた場所にいる。突然突っ込んできてコインを受け損ねた結果想定していない面を出したこともあった。
大丈夫だ、今日は万全。太陽の向きも確認して目もくらまない。サングラスも掛けている。
コインの回転は頂点を越えて落下し始める。
ここからだ、ここからが重要なところだ。
想定通り頂点の時に表が下になっている。
後は計算して受け取る高さを調整すれば狙った通りに表が出るだろう。
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