第2117話:ケイヴ・リブローフ~煮えたぎる油の海~

「煮えた油の海か……」

 目の前に広がる油の海、高温で煮え立つそれは生身で泳ぐことは到底不可能であり、生半可な船を出そうものなら立ち上る油の蒸気で蒸し揚げにされてしまうこと間違いない。

 回り道をしてどれぐらいの日程の遅れが出るかもわからないし、今の食糧事情でその遅れを補えるかどうか不明だ。

 こんな油の海がある土地に食べられる生物がうろついているかどうかもわからない。

 どうしたものか……

「ちょっとごめんよっと」

「あ、すまない」

 考え事をしていたら後ろから来た人に邪魔だと除けられてしまった。

 って、後ろから来た人?

 こんな秘境に何の用があってこの人は来ているのだ。

「すまない、こんな場所に何の用があって?」

「何って、揚げ物しに来てるんだよ。ここの油は良質でいつ来ても揚げ物に最適な温度を維持し続けてくれているからな。便利なんだよ」

「な、なんと……」

 揚げ物のためにこんな場所にまで……?

「そういうあんたはどうしてこんな場所に?」

「調査の一環でな、この先にある山を目指していたんだが、この油の海のせいでどうやって向かったものかと悩んでいたんだ。迂回するのも時間がかかるだろう?」

「迂回? そりゃ無理だ。この油はその山から湧いてきてて、周りを囲むように溜まってる。船を使わなきゃいかんが、それも無理だろ?」

「そうなのか……」

 仕方ない、そういう報告をしに帰るか。

「まぁ、これでも食って落ち着きなよ。うまいぞ」

 そう言って指し出された今そこの海で揚げられたばかりの串カツを食べる。確かに絶妙な上げ加減でさっぱりした油で美味い……

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